第12話

 日曜日の朝だった。自分の部屋で目覚めたところで、今さらながら、俺はとても大切なことを忘れていることに気づいた。


 はっとなって、布団から飛びおきる。急いでPCデスクについた。


 あのダンジョンが、ゲーム『ファースト・ファイナル』のダンジョンと迷路や宝箱などの配置がまったく同じだと俺は気づいた。ということは、おそらく、他にも気づいた人間がいるはずだ。


 ネットには、少ないながら、いくつかの『ファースト・ファイナル』攻略サイトがあった。その情報が広まれば、今まで俺のようなごく一部の人間しかもってなかったゲーム知識が、あっという間にひろがって、価値がなくなってしまうかもしれない。


 俺は、ブックマークしていた攻略サイトを確認してみた。いくつか、類似サイトをブックマークしていたが……。



 なかった。全部消えてた。


 どういうことだ? なにが起こってる?


 攻略サイトが数日で全部消えるなんてありえない。


 政府の組織か何かが削除を要請したか、それとも強制的に削除したのだろうか?


 ゲーム仲間に電話してみる。中西という名前で、中学のときの同級生だった。高校は別々になったが、今でもネットゲームで、たまに共闘や対戦をしているような仲だ。


 俺ほどじゃないが、中西もなかなかのゲーマーで、最初のほうで99パーセントが脱落するという超糞ゲー『ファースト・ファイナル』を中盤までやったという猛者だった。

(『ファースト・ファイナル』は、中盤までやれたら十分に猛者といえる)


「え、『ファースト・ファイナル』って何? そんなゲーム聞いたことないけど」

 帰ってきた中西の答えに、俺は愕然がくぜんとなる。


 ゲームがなかったことになってる? 中西の記憶に残らず、俺の記憶に残ってるのはどういうわけだ? ゲームクリアまでやった人間と、やってない人間の差? わからないことだらけだ。


「そうか、ありがとう」


「おかしなやつだな」


「じゃあ、またな」


「あ、おまえ、イベントのときは『グンシン』に入ってきてくれよ。おまえがいないと戦力足りないんだよ」


「ああ……考えとく。じゃあな」

 言って電話を切った。


 『グンシン』というのは、大規模多人数同時型オンラインRPGで、俺は中西とは同じクランに所属していた。一時は、俺も熱狂的にやっていたが、今では全然ゲームを立ち上げてない。


 つづいて、俺は、PCでゲーム『ファースト・ファイナル』を立ち上げようとした。


「あれ?」


 デスクトップに、『ファースト・ファイナル』を起動させるショートカットアイコンがない。


「いつの間にか移動してしまったか?」


 念のため、ゲームをインストールしたフォルダを確認してみた。



 なかった……


 ゲームをインストールしたフォルダごとない。ゲームのプログラム本体がない。俺のPCから、ゲームの存在自体が完全に消えていた。もちろんアンインストールした記憶はない。


 『ファースト・ファイナル』のダウンロード販売サイトを見てみる。ゲームがない。『ファースト・ファイナル』が売ってない。


 "ファースト・ファイナル"でネット検索してみた。


 でてこない。検索結果に、ゲーム『ファースト・ファイナル』の存在をあらわすものが、なにもでてこない。いくら、政府でも、ここまでの検閲は不可能なはずだ。


 はじめから、ゲームがなかったことになってる?


 いったい、何が起こっているというんだ?

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