第11話 受け付けのカワイイ娘


「ひっ。ひーっ……」

 横田は、ゴブリン3匹を倒すのに、まだ手こずっている。


「はぁはぁはぁ……」

 息があがって苦しそうだ。横田は、全身怪我だらけだった。顔も殴られまくって、誰かわからないくらいにボコボコにれている。


「あははは。おまえ、どんだけ雑魚いんだよ。ゴブリン3匹に時間かかりすぎ」


「た、助けて……」

 横田は、ゴブリンを殴り殴られしながら、声をしぼりだす。


「え? なにか言ったか?」


「助けて……」


「え? 殺して?」


「違う、助けて……」

 横田の声が小さい。だいぶ弱ってるようだ。もうすぐ死ぬなこれ。


「おまえ、俺等に対する日頃の行い忘れたの? 馬鹿だから忘れた? 本気で、俺に助けてもらえると思ってんの? おまえ、どんだけ頭悪いんだよ。はは……」


「おねがい。助けて……」


「あー、お前見てるのも、もう飽きてきたわ。今日はもうちょっと、下の階で狩りしたいから、行くわ。あばよ」

 俺は、横田に手をふるとダンジョンの奥へと歩みを進めた。


「うぎゃあっ。……ひいーっ。……ぎゃあーっ」

 背後から、横田の泣き声まじりの悲鳴が聞こえてきた。ボカボカとゴブリンの棍棒が、横田の身体に当たる音が、ずっと続いていた。だが、俺は振り返らなかった。


  ☆☆☆


 午後7時まで狩りを続けて、さすがに腹が減った。


 夕飯がまだだった。


 今日はこれまでにして、地上に出ることにする。


 そのまま、ハンター協会に行った。


 ハンター協会の受付の一人は、俺と変わらないくらいの年齢の女の子だった。多分、女子高生だろう。土日は人が増えるから、追加でアルバイトを雇っているのかもしれない。ポニーテール。かなりかわいい子だった。


「あの……、ダンジョンのドロップ品を換金かんきんしたいんですが」

 俺は、ドロップ品のつまったリュックををカウンターの上に置く。


 アイテムボックスの存在をまだ知られたくないので、人目のないところで、ドロップ品はリュックに詰めなおしていた。


 もちろん、『初心者用ミスリルソード』の金の装飾も目立つので、アイテムボックスに入れたままだ。手ぶらではあやしまれるかもしれないので、代わりに、それまで使っていた『鉄の剣』を装備している。


「これ、全部ですか?」

 受付の女の子が目をまるくした。上下ジャージ姿のしょぼい高校生が、思った以上のドロップ品を持ってきたので驚いたのだろう。


「はい、おねがいします」


「…………」


「なにか問題でも?」


「いえ、協会が発行するハンター許可証の提示があれば換金かんきんできますよ」


 言われるままに許可証を提示する。許可証は、運転免許証と同じくらいのサイズのカードで、身分証明書にもなる。


「はい、えーと……、神崎さまですね。では、そちらにかけて、少しお待ちください」




「……神崎さま」

 15分ほど待たされてから、名前を呼ばれた。俺は椅子から立ち上がり、再びカウンターの前に立つ。


「全部で3万2000円です。現金で受け取られますか?」


「はい」


 うおおおおっ。たった一日で、3万2000円のもうけだあああ!


 バイトするよりよっぽどいい。


 それも、本格的にダンジョンにこもって初めての日だぞ。

 

 レベルをあげて、もっと強い敵を倒せば、はるかに高額なアイテムや魔石をドロップするようになる。そうなれば、とんでもない金額を稼げそうだ。


 加護【PPG『ファースト・ファイナル』】と、俺のプレイヤースキル恐るべし!


 楽しいーっ!


 喜んでると視線を感じ、顔をあげた。


 受付の子がじっと俺を見ていた。


「神崎さん」

 

「なんですか?」


「神崎さんは、高校生ですか?」


「は、はあ……」


「だったら、同じですね。わたし、朝風エリカって言います。白薔薇学園の一年生です」


「え? あのお嬢様学校の?」


「お嬢様って、そんなことないですよー。わたしの両親、二人共ただの町医者ですからー」


 いや、それ十分いい家だろ。


「ひとりで、ダンジョンに入ってたんですか?」


「え? ま、まあ……」


「すごいですねー」


 エリカが目を輝かせた。


「わたし、ハンターの装備をそろえるために、ここでアルバイトやってるんですよー。装備って、高いですからー」


 称賛するような目で俺を見てきた。


「いいなあー。うらやましいなあー。わたしも、早くハンターやってみたいなあ……。ああ……。だれか、連れて行ってくれないかなあ……」


「あははは……。最初は、経験豊富な強い人に連れて行ってもらうといいと思うよ」


「神崎さんって、強いですよね」


「いや、そんなに強くないよ」


「なんか強キャラ感がでてますよ。オーラっていうか……。わたしも、神崎さんみたいな、かっこいいハンターになりたいですー」


「俺が、かっこいい?」


「はい。精悍せいかんな感じがします。きっとすごく強いんでしょうねー。いいなあ。強い人に、ダンジョン攻略のこと、いろいろ教えてもらいたいですー」


「いや、装備みても、大したことなのわかるでしょ。これ、安売り店で、上下2480円で買ったジャージだよ」

 俺は、自分の服をつまみながら言う。



「でも、一日であんなにドロップ品もってくる人なんて、そうはいないですよ。一人なら、もっとないです。ああ……。わたしを、連れて行ってくれる強い人いないかなぁー」


 ひょっとして、俺、誘われてる?


 でも、俺の能力は、まだ多くの人には知られたくないからなあ……。


 カウンターの奥の20代半ばくらいの、別の受付嬢二人も、なぜか、ちらちらと俺に視線を向けてくる。

 小声で話していたが、俺のレベルが上がって聴覚も向上しているのか、受付嬢二人の声が聞こえてきた。

「あの子、なんかかっこよくない?」

「ほんと、カワイイのに引き締まってる感じ。あたしが担当したかったな」


 俺が、かっこいい? どういうこと? レベルが上がって、身体まで引き締まったのか? よくわからん。

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