第10話 同級生のヤンキーをボコボコにした その2


 横田は立ち上がったが、ふらふらだ。かなり手加減してやったつもりだったが、それでも大きなダメージが入ったようだ。


 俺への殺意で、横田の目はギラギラしていた。まるで親のカタキみたいに俺をにらみつけてくる。


「ヤロウ、死ねやあああっ!」

 怒りに我を忘れた横田が、自暴自棄ぎみにかかってきた。


 横田の釘バットが、上段から、俺の頭に落ちてくる。俺を殺す気、満々まんまんだ。


「ほれ、パリィ」

 俺は、なんでもないかのように剣をひょいと出す。もちろん、タイミングは完璧。横田の釘バットが、受け流される。横田の身体がよろめいた。


「これでよろめくと、3連発で反撃入れれるの知ってた? ねえ、知ってたぁー?」

 俺の左の拳が、横田のあごへと飛ぶ。


「ぶはっ」

 横田が、つばと鼻水をき散らしながら、うめいた。


 すかさず、右手に持っていた剣の柄で、横田の顔面をなぐる。


 グシャ!! 何かがれる感触があった。鼻の骨がくだけたかな?

「ギャアハッ!」

 横田が悲鳴をあげた。


 3撃目は、左の拳を、横田の脇腹にぶっこんだ。完璧なパンチが肝臓に命中。ここに決まれば、身体をきたえてるプロボクサーでもえられない。超絶に痛い箇所かしょだ。


「うぐわぁっ!」

 横田が声にならない叫び声をあげて、地面にうずくまった。


「もう殺しちゃおうかなあ……」

 俺は、見せつけるように、大げさに剣を振り上げてみせた。


 横田は、完全に戦意を喪失していた。

「ひやぁっ……、やめてぇ……」

 横田の顔が、情けないほどの恐怖で青ざめている。


「横田、おまえ死ぬの? ねえ、ここで死ぬの? でも、ダンジョンの中だと、殺しても事故ですんじゃうんだよねえ。丁寧ていねいにも横田君が、俺に教えてくれたんだよなぁ。勉強になったわ。あはは……」

 俺が横田を見下ろしたときだった。


 ダンジョンの奥から、複数の足音が近づいてきた。


 振り返れば、大学生くらいの男女3人のパーティが、奥の通路からこちらに走ってきていた。


「おい逃げろ!」

 パーティの先頭にいた男が、すれ違いざまに、親切にも俺たちにも声をかけてくれた。


 横田は、ぽかーん、と3人パーティが走り去るのを見ている。


「横田、今の見て、何がおこってるのか、わからないの?」

 俺がニヤリと、間抜けづらしてる横田に話しかけた。


「なんのことだよぉー」

 横田は、半泣きの顔になっていた。普段、教室では、あんなに威張いばってたくせに、追い込まれたらこれかよ。本当に情けない奴だ。いかにも小物って感じが、ひどすぎる。


「無知って救いようがないよなあ……。ホント、おまえ馬鹿だなあ。あはは……」


「だから、なんなんだよう……」

 横田は、涙が浮かんだ顔をくしゃくしゃにして俺を見返した。鼻水もたれている。おまえは小学生か。


 3人パーティが逃げ去ったあとで、続いて、ゴブリン7匹が、洞窟の奥からあらわれた。


「ほら、あれが答えだよ。ああやって逃げてる奴等がいるってことは、当然、それを追いかけてる奴等もいるってわけだ。あの3人は、とても勝てないと判断した魔物から、走って逃げてたんだよ。『トレイン』って言うんだけどな。おまえ、そんなことも知らないのかよ。知識なさすぎ。あははは……」


 『トレイン』されたゴブリン達は、一番近くにいた俺たちのほうへ向かってきた。俺に4匹、横田に3匹が駆け寄ってくる。


 今の俺には、ゴブリン4匹なんざ、敵じゃない。4匹全部倒すのに10秒とかからない。


 地面に倒れた4匹のゴブリンの死体を、ちらっと見てから振り向けば、横田がゴブリン3匹に苦戦してた。


 無様ぶざまな戦いだった。ゴブリンの棍棒に、あちこちを何発も殴られながら、鼻水をたらした横田が、泣きながら釘バットで、必死でゴブリンを殴りかえしている。どちらも攻撃力が低すぎて、お互い、なかなか致命傷にまでいかないようだ。


 ノーマル・ゴブリンは、青スライムに次ぐ弱い魔物だ。そんな魔物に、横田は、死にものぐるいで、あがきまくってる。あまりにも、低レベル同士の戦いだ。


 でも、ゴブリンに殴られて、横田の顔がどんどん、ボコボコにれていくのには笑ってしまった。


 加護【釘バット】があっても、所詮しょせんはこの程度か。学校の生徒たちに対しては威張いばれても、魔物相手の命をかけた実戦になると、一般人より多少強いくらいの補正しかないようだ。


「あはははは……。おいおい、ノーマル・ゴブリンの強攻撃の後の硬直は、42フレームだぞ。そんな、ばかでかいすきも差させないのかよ? おまえセンスなさすぎ」

 横田の動きが、どこかコミカルで、俺は腹をかかえて笑いまくった。「ぎゃはははっ。腹痛てぇーっ。わかったぞ。横田、おまえ、さっき俺に向かって『ぶっ殺してやる!』って言ったよな。それ、俺を笑い死にさせるつもりだったんだろ。あー、たまらんわ。やめちくりーっ! 腹が痛いんだって。死ぬーっ。死ぬーっ。ぎゃはははっ!」

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