第9話 同級生のヤンキーをボコボコにした

 

 それからも、俺は、ダンジョンにこもって狩りを続けていた。


 ふと、のどの乾きをおぼえ、スマホを見ると、夕方の5時だった。


 朝、コンビニで買ってきた飲料水は、もうなくなっていた。


「息抜きがてら、コンビニまで行くか……」


 俺は、一度ダンジョンをでることにした。地上のコンビニへと向かう。


  ☆☆☆


 コンビニでジュースを買って、ダンジョンに再び戻ってきた。青スライムをなぎ倒しながら、第1階層をしばらく進んでいると、ばったりと横田に出くわした。


 横田は、高校の同じクラスの生徒で、ヤンキーグループの一員だ。加護は【釘バット】。あいかわらず、今日も右手に釘バットを持っていた。


 横田は、俺を見つけて、はじめ意外そうな顔をした。俺が一人でダンジョンに潜っているとは思わなかったのだろう。そして、少ししてからニヤリと笑った。


 ダンジョン内で、いいオモチャを見つけたという表情だ。横田は、俺に近づいてきた。


「なにしてんだよ。こんなとこで」

 横田は、醜い顔をゆがませて、ニヤついている。


「お前には関係ない」

 俺はキッパリと言い返した。


 横田の顔がけわしくなった。俺に言い返されるとは思ってなかったのだろう。


 どうやら、すでに立場が逆転していることに、まだ気づいてないようだ。本当に馬鹿だな。まあ、元から頭カラッポのアホだったが。


 横田が俺をにらみつけてくる。

「俺に向かって、そんな口きいて、どうなるのかわかってるのか? おまえ、これからずっと俺の奴隷な。今日は、ダンジョンを出るまで、俺の荷物持ちをしろ」


「クスッ……」

 横田の馬鹿ズラを見てたら、思わず笑ってしまった。こいつ、何もわかってねえ。


 このまえ、横田は、自分がレベル9って言ってたはずだ。俺みたいな経験値100倍ボーナスはないから、あがってても、せいぜいレベル10ってとこだろう。今の俺のレベルは9。


 他の世界ならともかく、なぜかゲーム『ファースト・ファイナル』の法則が適用されるようになった、この現実世界じゃ、俺は“超絶技巧”持ちだ。『ファースト・ファイナル』の対人戦専用サーバー内においても、俺は、ずっとトップランカーだった。


 ど素人の横田相手に、レベル5や10くらいの差があったとしても、俺にとっては、ないようなもんだ。しかも、持ってる武器も、敏捷性にプラス補正がつく有料DLCの剣だからな。

 

 俺には、負ける要素が、まったくないのだ。


 まあ、俺の防御は、上下とも安物ジャージの紙装甲だが、ど素人の横田の攻撃なんか当たるわけがない。


「この野郎……。なに、笑ってんだよ」

 横田が眉を逆立てた。


「おまえの馬鹿ズラが、あまりにもマヌケだったからな」


「なんだと? いつになく偉そうじゃねえか」


「おまえは、いつ見ても下劣そうだな」


「てめえ、口のきき方に気をつけろ!」

 横田の顔が赤くなった。そこで、横田は、俺が手にもっている金の装飾がほどこされた剣に気づいたようだ。


「高そうな武器もってるじゃないか。こっちによこせ」


「いやだね」


「こっちによこせって言ってんだろ! 言うことを聞かないつもりか?」


「まあな」


「じゃあ、こうしてやる!」

 横田が俺に殴りかかってきた。


 笑っちゃうくらい、とんでもなくスローだった。


 パンチを繰り出した後の、横田のすきがでかすぎる。


 横田の踏みこみに合わせて、俺は脚をひっかけた。


 見事に、横田がころんだ。


 地面にいつくばった横田を見て、俺が我慢するのは、もう無理だった。

「ぎゃははははっ。おまえのすき、何十フレームあんだよ。そんなの、反撃してくださいって言ってるようなもんだろ」

 俺は、吹き出して、笑いたおした。


 横田が、地面に手をつき、のろのろと立ち上がる。

「この野郎。もう許せねえ。ここはダンジョンの中だぞ。人が死んでも、事故で処理される。お前が死んでも、俺が警察に捕まることがないのはわかってんだろうな。ぶっ殺してやる!」

 横田が、釘バットを振りあげた。


「おっ、PK(プレイヤー・キラー)か?」

 俺はニヤッと薄ら笑いを浮かべる。「俺はPKはやらない主義だが、PKK(プレイヤー・キラー殺し)するのに迷いはないぞ。殺すつもりでかかってくるなら、俺に殺される覚悟はできてるんだろうな。って、おまえ、今の見て、俺に勝てるつもりでいんの? やっぱ、頭わるいな。ぎゃはははは」


「こ、このヤロウ……」

 横田は、怒りで耳まで真っ赤だった。しかし、俺の雰囲気に何かを感じたのか、釘バットを振りおろしてこない。


「顔面が、がら空きだ」

 俺は遠慮なくパンチを繰り出した。


 俺の拳が、横田の顔のド真ん中にクリーンヒットする。


「ぎゃっ」

 醜い悲鳴をあげて、横田の身体が5メートルは、ふっとんだ。

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