第8話

《レベル4になりました》


 しばらく戦い続けて、また、レベルが上った。


 さて、ここでゲーム『ファースト・ファイナル』になら、非常に重要な選択が表示されるわけだが……。

 思っているうちに表示が現れる。


「おっ、やっぱり出た……」


☆――――――――――――――――――――☆

どちらかのスキルを選んでください。


・シールドバッシュ

・パリィ

☆――――――――――――――――――――☆


 この選択は、間違うと取り返しがつかない。


 『シールドバッシュ』は、盾を相手に叩きつけるスキルだ。このスキルは非常に簡単で、初心者でもだせる。30パーセントの確率で、スタンも入る。スタンが入れば、敵を立ったまま3秒間、硬直させることが可能だ。ただし、敵がノックバックするので、ソロによる連撃を入れるには向かない。


 『パリィ』は、文字通り、敵の攻撃をいなすスキルだ。うまくタイミングを合わせることができれば、敵をよろめかす効果がある。タイミングは、ものすごくシビアだが、ゲームをやり込んだ超絶テク持ちの俺なら、100パーセント、相手をよろめかせることが可能だ。


 知識のない人間は、タイミングも簡単な『シールドバッシュ』を選びがちだ。しかし、それでは俺が育成しようとしている職業ジョブの最強ルートからはずれてしまう。


 迷わず『パリィ』を選択する。


「……これで、第2階層ボスを倒す準備は整った」


 ゲームをやりこんで、細部まで知っているダンジョンの迷路。俺は少しも迷わず、ボス部屋への最短ルートを目指した。


「よし、やるぞ」


 ボス部屋の扉を開いて、部屋に入る。開いていた入り口が自動で閉まる。こうなれば、この扉はボスを倒すまで開かない。


「ほら、かかってこい!」


 部屋の中にいたのは、赤い肌を持つオーガだ。右手には斧を持っている。


 オーガが突進してきた、斧を振りあげながらうなる。

「ウガアアアアッ!」


 やっぱり、ゲームの中と違って、リアル世界で間近でみると、相当でかい。かなりの迫力だ。でも、俺は、自分でも驚くほど冷静だった。


 まったく恐怖を感じない。


 俺は右へとジャンプする。

 今まで俺がいた地面を、オーガの斧が打つ。小さく地面が揺れた。すさまじいパワーだ。今の俺では、一撃でももらえば即死は確実。


 初心者用ミスリルソードを持っていても、今の俺のレベル・装備では、こいつへの先制攻撃は厳禁だ。この攻撃後の硬直は短く、無理に攻撃すれば致命傷をもらうのは確実。


 振り下ろした斧を、そのままオーガが振り上げての連続攻撃がくる。俺は後ろにジャンプして避ける。


 そして、オーガの右肩がぴくりと独特な動きで上がった。


「来る……!」


 それは、こいつの一番恐ろしい横薙ぎ攻撃がくる合図だ。リーチが長く、踏み込みながら広範囲を横薙ぎに払うので、横にジャンプしても、後ろにジャンプしても、攻撃が届いて、大ダメージを受けてしまう。


 横薙ぎに合わせて、超絶なタイミングで『パリィ』を繰り出す。1フレームの誤差もない。


 よし、入った。


 すこしでもタイミングがずれれば、そのまま即死へ直行。こんな頭のねじがはずれたような、ぶっとんだヤバイ戦い方ができるのは、ゲームをやり込みまくった俺のような、並外れて稀有けうな人間だけだ。


 オーガが、バランスをくずしてよろめく。すかさず、俺は踏みこんだ。ためらうことなく、3連続での攻撃。


「グウウウッ!」


 オーガが苦しそうにうめき声をあげる。


 再び、オーガが攻撃をしかけてくる。隙のないコンボが3連続で続く。この間は、今の俺のステータスでは割りこめない。ただし4連続目のまえに割り込めるタイミングがある。


 絶妙のタイミングで俺がパリィ。俺の剣の反動で、オーガの斧が跳ねあがる。オーガが後ろによろめいたところへ、2連続で攻撃。そして3撃めにスキル発動だ。


「パワーアタック!」


 踏み込みざまに、俺の剣がオーガをぐ。驚くほど速い剣先がオーガの身体を両断した。


「クウゥゥ……」

 断末魔だんまつまの声をあげ、オーガは絶命ぜつめいした。


 やった……。


 警官7人がかりでも、退治に苦労していたオーガを短時間で倒した。それも、俺一人だけでだ。


 俺って、けっこう強くね? しかも、これからどんどんレベルがあがって、さらに強くなっていくわけなんだが……

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