第7話

 ステータスウインドウの右下に、『入金』と書かれた10cm角ほどの黒い四角が表示されている。俺はもってきていた500円玉3枚を黒い四角の中に投入した。


☆――――――――――――――――――――☆

有料DLC 初心者用ミスリルソードを購入しますか?

        YES/NO

☆――――――――――――――――――――☆


 迷わずYESを押す。


 眼の前の地面の上が光り、次の瞬間、初心者用ミスリルソードがそこに現れていた。


「おおっ。本当に出た」

 いいぞ。


 まあ、この武器も、ゲームバランスが悪すぎるため序盤が突破できない初心者向けの救済措置だ。有料というところにいささか納得できないところはあるけどな。


 俺が、それまで持っていた鉄の剣は、一切の装飾なし。無骨ぶこつな外見だが、『初心者用ミスリルソード』のつかさやは、金色の装飾が施されていて、いかにも高価な武器という感じがする。


 こんな装備を、ジャージを着た、いかにも初心者って外見の俺が持ってたら目立ちすぎる。だから、ダンジョンに入るまでは購入はためさなかったのだ。


 では、帰りはどうするのか? 俺は、ここまで電車とバスを乗り継いできている。帰りも公共交通機関を使うことになる。そうなれば、装飾つきの高そうな剣を持ってたら目立ってしまう。


 でも、俺には考えがあった。あと一つ、レベルがあがれば、あのスキルが使えるはずだ……。



 少し進んでから、現れた青スライムを、初心者用ミスリルソードで攻撃してみた。さすがは有料DLCだ。現在レベル2の俺ひとりでも、一撃で倒せる。


 この階層では、経験値が美味しくないので、先をいそぐ。


 スライムを蹴散らしながら、俺は2階へと降りる階段までやってきた。迷いなく、下の階へと降りていく。


 2階に降りるとすぐに、コボルトと遭遇そうぐうした。


 今の剣なら、コボルトの硬直時をねらって、ちまちまHPを削るなんてする必要はない。俺は、真っ向から初心者用ミスリルソードを振りおろした


 初心者用ミスリルソードには、敏捷性を向上させる付与効果があり、レベル2の俺でも、コボルトに先制攻撃をくわえることができるのだ。


 一撃でコボルトが倒れた。


 菊池や横田たちは、三人がかりで何発も殴って、やっとコボルトを倒していた。今の俺なら、たったひとりで一撃で倒せる。しかも、俺はまだゲーム『ファースト・ファイナル』の攻撃スキル、『パワーアタック』を使っていない。


 さらにすすんで、コボルトを狩り続ける。


 俺の身体が金色に光った。


《レベル3になりました》

 空中から声が聞こえてくる。まったく、どうなってるのかよくわからない。


《アイテムボックス(小)を取得しました》


 きたあああーっ!


 思ったとおりだ。ゲームどおりに、レベル3でアイテムボックスが取得できた。ためしに、重くて邪魔になっていた鉄の剣を手に持ち、アイテムボックス入れることを頭の中で意識する。


 手に持っていた鉄の剣が消えて、表示されたアイテムボックスのウインドウに、『鉄の剣(1)』と表示された。予想どおりだ。


 確認のために、鉄の剣をアイテムボックスから出すよう意識する。


 次の瞬間、俺の手に鉄の剣が出現していた。


「いいぞ!」


 俺は興奮していた。鉄の剣だけでなく背中のリュックもアイテムボックスに収納する。アイテムボックス(小)なので、最大収納重量は、20kgしかないが、それでも非常に役にたつ。これでわずらわしい荷物運びからは、おさらばだ。


 菊池たちは、明らかにアイテムボックスを持っていなかった。だから、俺に荷物持ちをやらせたのだ。


 俺がアイテムボックスを持てるようになったのも、加護【PPG『ファースト・ファイナル』】のおかげだろう。


 日本のハンターの中でもアイテムボックスを持っているのは、特別な『神の加護』を持っている俺以外には、ほとんどいないはずだ。



 少し進む。やがて、コボルト2匹があらわれた。

 今の俺にはコボルト2匹だって、どういうことはない。『初心者用ミスリルソード』の付与効果による先制攻撃で、1匹かたずけてしまえば、残りは1匹だけだ。


 あっという間に、2匹倒すと、魔石と鉄の剣が落ちた。


 拾ってアイテムボックスに入れておく。予測していたが、現実世界でのアイテムボックス、超便利。これ、ダンジョン攻略だけでなく、日常生活でもめちゃくちゃ役に立つだろう。まあ、当面、他の人に知らせるつもりはないので、使える場所は限られてくるだろうが。

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