第6話

 土曜日は、朝6時に目がさめた。


 リアル世界のダンジョンを攻略すると思うと、あっさり眠気がとんでいた。


 キッチンまで歩いていくと、花凛がもう起きている。


「あれ、直くん、どっか行くの?」


「うん、まあ……」

 花凛に心配をかけまいと、俺は言葉をにごす。


 こんなとき、花凛が、おせっかいに行き先を細かく聞いてくるようなことはない。俺が嫌がることを知っているのだ。


「朝ごはんだけでも食べて行ってよ」


「じゃあ、もらおうかな」


 花凛が出してくれたスクランブルエッグにコーヒーを口にする。スクランブルエッグだけでなく、コーヒーまでなんか味が違う。めちゃくちゃおいしい。


 花凛の加護【家事】はヤバイな。




 自分の家にもどって、俺は出発の準備を整えることにした。ちなみに、俺の両親は2人とも去年から海外で仕事をしている。今の自宅は、俺の一人暮らしだ。


 汚れてもいいように、安物の上下ジャージ姿にスニーカー。背中には菊池が落としていった鉄の剣、そしてリュック。ハンター協会の許可証があれば、剣を持っていても銃刀法違反にはならない。


 さっそく家に鍵をかけて、出発する。


 リュックには、途中のコンビニで、飲料水のペットボトルとおにぎりを買って入れておく。


 ポーションも買おうと思い、ハンター協会の売店に寄ることにした。



 ハンター協会の前まで来てみると、まだ開いていない。どうやら早く来すぎたようだ。開くのは9時からのようで、十数分ほど待って、開いた扉から中に入る。


 売店にまでくると、さまざまな低レベル用の武器・防具、アイテムとともに、ガラスケースの中に回復ポーションが展示されていた。


 回復ポーション(弱) 45万円

 回復ポーション(中) 350万円


 とんでもなく高い。

 高校生の小遣いじゃ、まったく手がでない。


 どういう仕組か知らないが、傷があっというまに治ってしまうのだから、金がある人間なら、たしかに、これくらいは出しそうだ。傷跡きずあとも残らないから、特に事故などで何針もうような深い傷を負った女の人なんかは、欲しがるだろう。


 でも、ゲームの中だと、レベルがあがっていけば、回復ポーション(弱)や(中)なんて、何百個とたまっていくんだよな。高レベルの魔物を倒せるようになれば、より貴重な魔石をはじめ、他の高価な装備もドロップするはずだ。


 ハンター協会では、売値の6割くらいで買い取りもやっているようだ。攻略者のレベルが上がってきて、ドロップ品が大量に出回るようになれば、低レベル層のドロップ品は値崩れするだろう。しかし、トップレベルの攻略者たちの狩り場のドロップ品は、数も限られ、高く売れるはずだ。そのようなドロップ品を売れば、並の高校生じゃ、とても手にはいらないような金が稼げそうだ。


 そうなれば、最高パーツを厳選したゲーミングPCを買うこともできるだろう。最新のゲーム機や、ゲームソフトも購入し放題だ。


 大排気量のバイクだって買えるかもしれない。いつも世話になってる花凛にだって、なにかプレゼントをしてやれる。


 うん、がんばろう。



 今回、回復ポーションの購入はあきらめ、俺は昨日行ったダンジョンへと向かった。


 朝早いのか、ダンジョンの前には誰もいない。ダンジョンが出現して、日が浅いためか、まだハンターの数は少ないようだ。まあ、ダンジョンは日本各地でかなりの数が出現しているようだしな。


 時間が早いので菊池や横田たちに会う心配はなかった。アイツラは、基本、寝坊するからな。とくに学校が休みの日なんか、起きてくるのは昼過ぎくらいだろう。


 ダンジョンの入り口には、今のところ担当の係員とかもいない。

 そのうち、入場になにかの規制がはいるようになるかもしれないが、今のところダンジョンに入るのは、許可証さえ持ってれば自由だ。


 入り口からダンジョンへとはいっていく。


 少し入ったところで、俺には、ひとつ試してみたいことがあった。本当は、目立たないように、もう少し深いところに入ってから購入するつもりだったのだが、朝早いせいか他のハンターは全然見ない。


 ステータスウインドウをひらいてから、DLCのウインドウへと移動する。


☆――――――――――――――――――――☆

 有料DLC 初心者用ミスリルソード 1500円

☆――――――――――――――――――――☆


 さて……、はたして買えるのか?


 初心者用とはいえ、そこは有料DLCだ。装備したときの効果は非常に大きい。買うことができれば、圧倒的に戦闘を有利にすすめられるようになるはずだ。初心者用であるものの、ダンジョンが出現して一ヶ月と経ってない。このレベルの武器を持ってる奴は、日本じゅう探しても、そうはいまい。

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