第97話

【三人称、大河原権三の視点】


 校内アリーナにつめかけた9000人の観客たちは、熱狂につつまれていた。アリーナに設置された超巨大モニターには、ダンジョン内で戦う生徒たちの活躍が映しだされている。


 実況アナウンサーの桑原が声をあげる。

『おおーっ! 30分遅れでダンジョンに入った神崎チームが、ものすごい勢いで順位をあげています!』


 超巨大モニターに5位までのチームが獲得した魔石の量がリアルタイムで表示される。


 神崎チームが獲得した魔石の量が、まるでバグってるように猛烈に増えていく。


『神崎チーム、5位から4位にあがった! ……いや、3位だ。数秒とたたずに4位から3位へとさらにあがったぞぉーっ!』


「「「うおおおーっ!」」」

 観客の歓声が鳴り響く。


「神崎って、F組の奴だろ」

「すごいじゃないか」

「俺、A組の奴らってなんか嫌いなんだよな。なんかエリート意識が強すぎるっていうか」

「俺もF組のメンツ好きだぜ。神崎がんばれーっ!」

 観客席から、神崎チームへの声援があがる。


『演習の制限時間は90分ですが、魔物を倒しながら適切な狩り場に到達するのに30分程度かかると言われています。そのため、実際に効率的な狩りができるのは60分程度。神崎チームは30分のペナルティが課せられてるので、事実上、半分くらいしか効率的な狩りの時間がありません。非常に大きなハンデがあるのに、この追い上げは素晴らしいぞ!』


「「「うおおおーっ!」」」


 観客の歓声があがる中、顔を真っ赤にして悔しがっている人物が一人。ダン校指導員の大河原権三である。


「くそおおおおっ! どうなってるんだああああっ!」

 大河原が、順位表示をみながら悲鳴のような声をあげた。


 大河原が怒りにまかせ、運営スタッフが座っていたテーブルをドンッと叩く。席についていたスタッフたちが眉をひそめた。

「魔石の量の上がり方がおかしいではないか! こんなのはインチキだ。なにか、ずるいことをしているに決まっている。ええいっ。神崎チームをモニターに映せ。どうして映らんのだ!」

 監視カメラを操作して生徒たちをとらえ、映像をモニターに映し出す作業をしているオペレーター・チームに、大河原が詰め寄った。


「それが、システムが故障でもしているのか、神崎チームの姿が、まったくとらえられないのです」


「ありえないだろがっ! 神崎たちのチームのいる場所がわからないだと? ダンジョンの出入り口はここ一つだけだぞ。まだダンジョンの中にいるのは確実だ! チェック漏れがあるのだろ。早く探し出せ!」


「それが……、地下第4階層までは、ほぼ死角がないほど監視カメラとマイクが設置されてますが、まったく神崎チームを発見できません!」


「地下第5階層以下はどうなってるんだ?」


「地下5階の適正レベルは、8人パーティでレベル30台前半と言われています。現在、民間のトップクラスのダンジョン・ハンターでもぎりぎりのレベルです。学生の狩り場としてはあり得ないので、まだ監視カメラなどは設置されていません」


「むむ……たしかに。神崎ごときが、しかも4人パーティで地下第5階層以下に行くのは無理だからな。だったら、どうして監視カメラにうつらないのだ?! ちゃんと調べろ、見逃しているのか?!」


「漏れはないはずなのですが……」


「でも、実際に漏れている。システムのどこかに欠陥があるはずだ」


「それはそうですが……」


「はやく、欠陥を見つけだして、修正するのだ! いいな!」

 いかつい顔つきの大河原が、パワハラ気味に迫る。身長190cm、体重120kgの体は威圧感いっぱいだ。


「は、はいっ。わかりましたっ!」


「命にかけても、はやく欠陥を見つけるんだ! いいな!」


「全力をつくしますっ!」


 大河原は緊張した顔で、他人に聞こえないような小声で、ぶつぶつとつぶやいた。

(……もしも、万に一つでも千代様が負けてしまっては、俺が大目玉をくらってしまう。いや、クビ……。いや……、下手したら、俺が大宮司グループのお抱えハンターたちに消されてしまう……)


「いいか? 命にかけても、はやく欠陥を見つけるんだ! 死ぬ気でやれ!」

 大河原が必死で叫んだ。




 しかし、オペレーターがいくらシステムを検査しても、システムの欠陥は見つからないのだった。


「なぜだあああっ! どうして見つからないいんだああっ!」

 苦虫を噛みつぶしたような顔をした大河原が、くやしそうに地団駄じたんだを踏んだ。

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