第96話
俺たち4人を乗せたダンジョンのエレベーターがどんどんと下へと降りていく。
「かなり下まで降りてるような感じなんだけど……」
「わたしも、すっごく不安になってきちゃった……」
小山田の不安そうな声に桜が続ける。
「なに、言ってんのよ、あんたたち! 狩りをする前から弱気になってんじゃないわよ! あたし様に適正な狩り場くらいじゃないと効率よく狩りができないでしょ!」
「でも、不安になるのはどうしようもないよ」
「そうよね。高難度の狩り場には必須のヒーラーも、このパーティにいないし……」
「大丈夫だって」
俺が両手で、小山田と桜の肩を同時にたたく。「俺が完璧にカバーするから安心しろ。後衛のお前たちには一発も攻撃をどどかせないから」
「だったら、安心だね」
「うん。神崎くんがそう言ってくれて、胸のつかえがすっと消えた感じ」
「あんたら、どれだけ神崎のことを信頼してるのよ。度を越して、ペラペラジャージが好きすぎでしょっ!」
キララが叫んだところで、地下第5階層まで降りた。エレベーターが停止して、扉がひらく。
エレベーターを出ると、すぐダンジョン内の大広間だった。
「うわあ……、見たことない強そうな魔物がいっぱい」
「ゴブリンやコボルトとかと比べて、はるかに大きいよね」
小山田と桜が緊張した表情になる。
「大丈夫、大丈夫。じゃあ、狩りを始めるぞ!」
「あたし様さえ、見たことない魔物ばかりなんだけど……。ほんとに大丈夫なの?」
「まあ、余裕だ」
はっきり言って、これでも、かなりの安全マージンをとってある。
レベルの低い小山田や桜をかばいながらの狩りだからな。
「さあ行くぞ!」
「ぐっ……」
いつも強気なキララが、めずらしく戸惑っている。
「どうした? さっきまで威勢がよかったのに。やっぱり、実物の魔物を前にすると怖いか?」
俺が、ニヤニヤした顔でキララを
「そんなわけないでしょ! 行くわよ、ペラペラジャージ! 出遅れて、あたし様の足手まといになるんじゃないわよ! やあああーっ!」
勇ましい声をあげながら、キララが先頭で魔物の群れへと飛び込んでいく。
二刀流物理アタッカーのキララが、一番近くの
キララのレベルは、正式には確認してないが、戦闘力などから見た俺の目算では、20台後半ってところだろう。ひとりじゃ、巨大ガエル《ジャイアント・トード》相手は、ぎりぎりってところかな。
キララは、うまく巨大ガエル《ジャイアント・トード》からの攻撃をかろうじてかわしていたが……
キララの肩を、一瞬、巨大ガエルの伸びた舌がかすめた。
かすった程度だが、象ほどもある巨大ガエルの舌だ。キララがふらついて後ろに倒れそうになる。
その身体を、背後から俺がうけとめた。
金髪ツインテールの髪がひるがえり、俺の鼻先をかすめる。いい匂いがした。小柄なキララだが、抱きとめてみると、見た感じよりもさらに華奢な印象だった。思った以上に、やわらかい体だ。
すぐにキララが、不自然なほどすばやく俺から離れた。
「なによ、じっと見てないでペラペラジャージも、少しは攻撃しなさいよ!」
キララの顔は少し赤らんでいる。
「はいはい。じゃあ、始めるとするか……」
俺のいまの武装は、なんの変哲もない鉄の剣である。ダンジョン探索の初心者が最初の頃に手に入れる武器にすぎない。でも俺自身のレベルが高い。鉄の剣でも十分な火力がでる。
キララと一緒になって俺も戦いはじめる。5秒とたたず、最初のカエルが倒れた。
「わあ、すごい!」
桜が声をあげた。
「ん? どうした?」
「見て。この魔石袋の表示。カエルの魔石一ついれるだけで400近くも数字があがっていくわ」
狩る魔物のレベルが上がると、得られる魔石の価値もどんどんあがっていく。それが、レベル制ロールプレイングゲームというものだ。
「ふんっ。ペラペラジャージも思ったよりはやるじゃない。どうしてもというのなら、あたし様の奴隷にしてあげてもいいのよ。毎日、あたし様に、ご奉仕させてあげるわ。どう? 嬉しいでしょ」
「んなわけあるか」
言いながら、すぐさま俺は次のカエルへと駆け寄っていく。
ほどなく、大広間にいた20匹足らずのカエルが全部倒されていた。
「うわあ、神崎くんすごいよー」
「ほんと。こんなにすごいとは思わなかったわ」
小山田と桜が驚きの声をあげる。
「ペラペラジャージ! いったい、どうなってんのよ。どうして鉄の剣で、そこまでの火力がでるのよ、信じられないんだけどーっ?」
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