第95話
実際にダンジョンに入ってみて確信した。このダンジョンは『クラン用ダンジョン水晶』で出したもので間違いない。
大宮司グループが、なんらかの形で『クラン用ダンジョン水晶』を手に入れたのだ。
最初の部屋に現れたのはゴブリン5匹。
背中の鉄の剣を抜いたおれが一瞬で全部始末する。
倒れたゴブリンの死体が地面に埋まるように消えていき、魔石が残った。
「わーい。魔石だー!」
小山田が魔石を拾う。
学校から配られた魔石袋は、桜がもっている。桜は、チームの中では最もレベルが低く、バフをかけたあとは、メンバーの中で一番火力が少ない。桜がドロップ品を拾う担当だ。
「えーと、採った魔石は、配られた魔石袋にいれるんだよね」
小山田から渡された魔石を、桜が魔石袋にいれた。
袋には小さな液晶モニターがついていて、数字が表示されている。いままで0だったのが1.5になった。
『さーて、30分のペナルティを課された神崎直也チームも狩りをはじめたようだ! 最初の魔石を手に入れ、現在、1.5魔石単位だ!』
ダンジョンの部屋の中には、監視カメラだけでなく、モニターも数多く備えられていた。そこにアリーナの観客席から見ることのできる巨大パネルの映像と同じものが映しだされている。
各チームが魔石袋に入れた魔石のデータは、すぐに地上のサーバーに送信される。
1位 西ノ宮チーム 9351.2魔石単位
2位 北川チーム 2202.7魔石単位
3位……
やっと1.5魔石単位の俺達のチームは、もちろん上位には程遠い。今のところはだ。
しかし、西ノ宮千代チームの魔石獲得量が、思った以上に多い。なにか、バグ技でも見つけたか?
『ご主人さま……』
不意に翔子2の声が脳内に響いてきた。遠隔通信のバフ魔法だ。
『どうした?』
『西ノ宮千代が、演習で不正をしてますです』
『どんな不正だ?』
『索敵範囲に、レベル30前後の戦力が8人も探知されたです』
『レベル30?』
学内順位3位の千代でさえ、そのレベルは25だ。おなじチームの学内4位の
エリート高校とはいえ、そこは高校生。レベル30前後ともなると、現在、民間のプロ・ダンジョン・ハンターのトップクラスにあたる。
レベル30前後の戦力ってのは、おそらく、入学試験のときに、千代を不正にサポートしていた来てた大宮司グループ直属のプロ・ハンターの奴らだ……。
『そのレベル30の8人が、狩りをして獲得した魔石を西ノ宮千代に渡してますです』
なるほどな。いくらダン校の学内順位3~6位で構成されたチームとはいえ、千代グループの獲得してる魔石の量がおかしすぎるんだ。
『ご主人さま、どうしますです? 虫ケラ以下の愚かな悪党どもを、まとめて皆殺しにしてやりますですか?』
翔子1と翔子2に分裂して戦闘力は落ちてるとはいえ、翔子2一人でもレベル30の8人パーティを全滅させるのなんて、たやすくできるだろう。
『殺さなくていい。が、レベル30クラスのパーティの狩りを徹底的に邪魔してやれ。ただし、最後まで『隠蔽』は解かず、おまえの存在は、一切やつらに気取られるな』
『わかりましたです!』
「ちょっといいか?」
「ん、神崎くんなに?」
「なにかしら?」
「ふんっ。なによ、ようやく、あたし様の奴隷になる決心がついたってわけ?」
「これから、ちょっとばかり狩りのペースをあげる。でも、俺の能力がバレたら、いろいろ面倒くさそうだから、今から俺がやることについては黙っててもらいたいんだ。いいかな?」
俺は、言ったが、メイン装備やアイテムボックスの存在までは、明らかにするつもりはない。
「うん、わかったよ」
「了解したわ」
「ふんっ。あたし様ほどの人間が、ペラペラジャージなんかのことをいちいち話題にとりあげるわけないでしょ!」
3人の了解を確認してから、俺はダンジョン内のある場所を探しはじめた。
このダンジョンは、最初だけは、通路や部屋の配置などがランダムに生成される。初見の俺でも、少しは探索しなければならない。でも、ダンジョン生成の法則や階層にでるモンスターも決まっているので、探索に時間はかからない。
……少しして、
「あった!」
俺が声をあげた。
俺の眼の前にあったのは閉じられた扉だ。
俺は扉に何度も身体をぶつけ始める。ゆっくりぶつかってるので、別に身体に痛みを感じるわけでもない。
「ちょっと、ぺらぺらジャージ! いったい、どうしたのよ? 頭がおかしくなっちゃったの?」
突然の俺の奇行に、キララがつっかかってくる。
「いいから、見てろって」
言って、俺は扉にぶつかることを繰り返す。20回目くらいだっただろうか。俺の身体が扉をすりぬけた。
この『クラン用ダンジョン』には致命的なバグがあった。本来はクランメンバーだけが使えるはずの階層移動用エレベーターの1階の扉を、このようにしてバグ技で通り抜ける方法があるのだ。
「おまえたちも俺と同じようにして通り抜けてこい」
「僕にもできるかなあ……?」
「何度もぶつかれば、確率的に、いつかは通り抜けられるようになってる」
残りの3人が通り抜けたところで、俺がエレベーターのボタンに近づく。このエレベーターは、本来なら、ダンジョンの管理権を持っているクランのメンバーが、階層間をすばやく自由に移動できるようにするための設備だ。が、一度、扉を通りぬけてしまえば、管理者権限を持っていない側の俺達でも好きな階層に移動することができる。
さて、地下何階にするかな?
俺の適正な狩り場では他のメンバーにきつすぎる。まあ地下第5階層くらいにしとくか。俺がサポートすれば、十分な安全マージンを保ちながら狩ることができるだろう。
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