第94話

「では、演習スタートだ!」

 大河原が叫んだ。


「「「うわああああーっ!」」」

 大河原の指示とともに、生徒たちが一斉にダンジョンの入口へとなだれ込んでいく。


『さあー、演習がはじまったぞ! 日本の未来をになう、ダンジョン・ハンターの卵たちが、演習用ダンジョンに突入していきます! 一番、魔石を集められるのはどのチームだぁーっ?!』


 ダン校は、大宮司建設が建設したもので、監視カメラや録音マイクが大量に設置されている。それは、演習用の人工ダンジョンでも変わらないようだ。ダンジョンの中をすすんでいくダン校の生徒たちの様子が、アリーナの周囲に設置された巨大パネルに大写しに表示されていた。


 実況の声がアリーナ内に響きわたる。

『さあー! 現在、先頭をはしるの西ノ宮千代チームだ。圧倒的な火力で、どんどん魔物を狩っていくぞーっ! すでに地下第2階層のかなり奥まで到達している。が、まだまだ西ノ宮チームにとって、魔物が弱すぎるようだ。適正な狩り場を目指して、さらにダンジョンの奥へと進んでいきます!」


ちなみに、西ノ宮チームは、学内順位で、

3位、西ノ宮千代にしのみやちよ

4位、王子誠志おうじせいし

5位、暑杉熱男あつすぎねつお

6位、冷水顕知れいすいあきとも

の4人で構成されています。!


 名実ともに、今回の演習、最強チームだーっ!

 連携も見事です! はやい、はやい! やはり、このチームが魔石集め一位の最有力候補です!』


 モニターに映し出されるダンジョンの風景に見覚えがあった。やはり思ったとおりだ。


 この世界に出現したダンジョンについて、ゲーム『ファースト・ファイナル』の法則が適用されるとすれば、こんなところに自由にダンジョンをつくれる可能性があるのはたったひとつだ。


 ダンジョンは、大宮司グループが一から造ったものではない。大宮司グループが何らかの形で、『クラン用ダンジョン水晶』を手に入れたのだろう。

 なにが、『世界最高の技術をもつ大宮司グループが総力をあげて開発したもの』、だよ。


 『クラン用ダンジョン水晶』を使用すると、任意の場所に、クラン用のダンジョンを作成することができる。水晶を使用し、ダンジョンを生成したクランには、所有者権限が発生し、それぞれのプレイヤーとダンジョン内の魔物との関係の設定を、『敵対』か『友好』かを自由に設定することができ、クランのための各種設備を自由に設置することができる。監視カメラを設置できるのも、それが理由のはずだ。


『さあーっ! 先頭を走る西ノ宮チームはすでに地下第3階層に到達したぞ。それに続く、現在2番手を走るのは、Aクラスの北川チームだ!』


「「「うおおおーっ!」」」

 体育館アリーナの観客の大歓声があがった。


『おーっと! 西ノ宮千代チームは、すでに3000魔石単位を回収しているぞ! これはすごい勢いだ! さすがは学内順位の上位者のみで攻勢されたチームだけあります!』


 キララがイライラした顔で、地面をバンバン踏みしめる。

「あんたたち、いつまでここにいるつもりなのよ。完全に出遅れたじゃないの! 千代になんか絶対に負られないのにーっ!」


「まあそんなイライラすんなって」


「ちょっと、ペラペラジャージ! 背が高いからって、勝手にあたし様の頭を気安くポンポンしないでくれるっ!」


「ほら、あと5分で出発できるぞ。小山田や桜も装備は大丈夫か?」


「うん。僕は大丈夫だよ」

「わたしも大丈夫!」


 小山田は攻撃系の魔法使い、桜はバフ系職のようだ。小山田が手に持っているのは魔力上昇効果のある杖。制服の上に対魔法効果のある各種アクセサリーをつけている。俺の見立てでは、二人ともレベルは10代後半ってとこかな?


 キララは両手にダマスカスソードを一本づつ。ダン校の制服の上から『複合プレートアーマーセット』を装備している。小柄ながら、なかなかカッコいい姿である。まあ、キララは素でも見た目がいいからな。




「よし、30分過ぎたぞ! いくぞ」


 ダンジョンの入口へと向かおうとする俺達に、大河原が嫌味を言ってくる。

「くはははっ。まだやる気なのか? 馬鹿め。いくら頑張っても、もう遅いわ。無駄なことはやめて、とっととあきらめたらどうだ?」


「実は、今回の演習は適当にやって、ほどほどな成績にしとこうと思ってたんだ。けど、あんたが俺を本気にさせた。なにもしなけりゃ、あんたの思惑どおり、西ノ宮千代チームが1位で終わったのにな……。残念だったな」

 俺は言い残して、ダンジョンの中へと入っていった。

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