第93話
学校でのダンジョン演習の日だった。
今日はA
ダンジョン探索用装備での登校が指定されていた。俺は、例によって、『安物ジャージ』に『鉄の剣』を身につけると家を出た。
演習は、10時スタート。集合場所は、校内にある
なにげなしにアリーナに入っていくと、大変なことになっている。
観客席がいっぱいだ。
この学校には、高校にはそぐわない豪華すぎる施設がいくつもある。豪華な
なんだ、この観客数は? 今日行われるのは、たかが高校の演習だぞ。一大イベントかなにかと勘違いしてないか?
生徒たちの視線につられて、俺も上をむく。
「さあ、まだまだA
司会進行らしき男が、アリーナ正面の一段高くなった
「「「「うおおおーっ!」」」」
観客席が
司会進行の男は、あきらかに素人ではない。
「なお、実況・司会進行は、わたくし桑原が担当いたします!」
どうやら、学内順位・下位の方から紹介されているようだ。学内順位4位の
「なお今日の演習は、テレビの地上波にて全国放送されております!」
え、テレビ中継までされてるの? 知らなかった。
観客の声は、学内順位3位の西ノ宮千代、2位の大宮司キララが表示されるにしたがって、さらに高まっていく。
ま……、まさか次に表示されるのは俺?
俺の顔が、でかでかと巨大モニターに映ってしまうのか? それをテレビで全国放送されちゃうの?
超恥ずかしいんだけど……
「以上、『国立ダンジョン専門高等学校』A
拍子抜けした。ずっこけそうになるのを、なんとか踏みとどまる。
A
クラス差別の酷い学校だから、F
「時間だ。みんな、整列しろ!」
A
「いいか。ダン校はエリートのダンジョン・ハンターを育成するためにある。成績下位の者に価値はない! はっきり言ってゴミだ! 特に学内順位下位のものは、少しでも順位をあげることができるように、今日の実践演習は死ぬ気で頑張ることだな!」
クラス担任の指導員が、成績であからさまに生徒を差別するのだから、ひどい学校もあったもんだ。
「では、4人組をつくれ!」
大河原が声をあげた。
え? まずいぞ……。
ふだん普通科のクラスで授業を受けている俺に、ダンジョン科の友達がいるわけない。いや、俺は、普通科のクラスにおいても、ゲームをするために家に直帰するのが好きな帰宅部だ。普段から、つきあいの悪い俺には……
そう思っている間にも、4人組のグループが次々にできていく。
ヤバイ……
そんな俺に、背後から、とつぜん声がかかった。
「あーっ! ボッチ発見!」
「ぎくっ!」
振り向くと、金髪ツインテールの小柄な少女が立っている。大宮司キララである。
「なによ、ペラペラジャージ! あんた、ひとり? はずかしー。ププーッ!」
キララは、なぜかドヤ顔だ。この前の千代たちに酷いことをされたことの心の傷は、少なくとも外見には出ていない。メンタル強いなこいつ。そんなメンタルじゃなきゃ、とっくに、千代の嫌がらせでつぶされてたのかもしれないが。
「なんだよ!」
「あんた、ひょっとして友達がいないんじゃないのー?」
「うぐっ……」
「あははは……やっぱり図星じゃないの! まーったく、あたし様がいないと、なんにもできないんだから。どうしようもないわね! ボッチのペラペラジャージは」
「だれが、ボッチだっ!」
「どうしても、あたし様の奴隷になりたいって言うなら、あたし様のパーティにいれてやらないことはないわよ! ふふーん! さあ、はやくあたし様に
「なるかーっ!」
俺が叫んだとき、背後から別の声がした。
「あ、神崎くん。おはよう」
振り向けば、すぐ後ろに小山田が立っている。
「おう。おはよう」
「昨日はありがとう」
「ん? 別に感謝されることはしてないが」
「でも、大河原先生の攻撃から、助けてくれたでしょ」
小山田が、ちょっと恥じらって、もじもじしはじめる。こいつ、性別は男だけど、外見はいかにも女の子なんだよ。しかも、かなりの美少女でさえある。
「俺は、たまたま、教室に戻ろうとして通りがかったところに、大河原が絡んできただけさ」
俺がいうと、次は小山田の後ろにいた人物が声をかけてきた。
「神崎くん、おはよう」
小山田と同じくらいの身長の少女だった。たしかF
「紹介するよ。僕がクラスで一番仲のいい、
「よろしくー」
少女がひらひらと手を振った。
「おう……。
「はやく、4人組をつくれー!」
大河原の声が飛ぶ。
「ほら、ボッチ! 早くあたし様の奴隷にならないと、仲間はずれになるわよ!」
「うるせー!」
「あ、神崎くん、よかったら僕と桜ちゃんとで、一緒にやらない?」
小山田が言った。
「え、いいのか?」
「もちろんだよ。僕たちが弱すぎて、神崎くんの実力に見合わないかもしれないけど……」
「いや、そんなことないさ。是非とも仲間にいれてくれ」
「これで、3人か。あと1人だね」
小山田が言う。
「ふーん。どうしてもと土下座してたのむなら、あんたたちを、あたし様のグループに入ってあげてもいいのよ」
やたらと上から目線のキララに小山田がぼそっと言った。
「ひょっとして、大宮司さんの方がボッチなんじゃ……」
今度は、キララのほうが
「ぎく、ぎく、きぐっぅぅぅ……」
強がってみてるが、やっぱりボッチだったんだな、こいつ。
まあ、A
「だ……、だれがボッチよーっ!」
……で
結局、俺、小山田、桜、キララの4人組で演習をすることになった。
「よーし、全員、4人組をつくったな! では、本日の演習について簡単に説明する」
人工ダンジョン? なんだそりゃ。
大河原が説明を続ける。
「さーて……、今日の最初の課題だ! 今からこのアリーナに設置された人工ダンジョンに入り、90分を制限時間として、魔石を集めてもらう。魔石を一番あつめたチームが一位だ!」
各チームに魔石を入れる袋がくばられた。この袋も特別製で、中にはいっている魔石を価値を計量し、その総量の情報を、無線で学校のサーバーにリアルタイムに送信できるようになっているらしい。袋の入口に液晶表示が備えられており、今は『0《ゼロ》』と表示されていた。
「では、スタート! ……といきたいところだが、ルールを守らない奴には罰が必要だ。これも、指導者としての愛のムチというやつだな!」
大河原が俺を指差していた。
「神崎! おまえ遅刻しただろ!」
「遅刻って、時間には間に合ったぞ。ぎりぎりだったけど」
「嘘をつくな。本日の学生の集合時間は予鈴の時間に指定されていた。神崎、きさまが来たのは、本鈴がなるぎりぎりの前だ。つまり、あきらかに遅刻だ。お前にペナルティを課す。神崎と、そのチームが魔石集めにダンジョンに入れるのは30分遅れとする!」
「なによ、そんなの不公平すぎるじゃないの!」
キララが声をあげた。
「うるさい。ダン校の演習においては、この俺がルールであり、審判だ!」
「でも30分ってやりすぎよ! 魔物を倒しながら適正な狩り場に行くまでだけでも30分くらいかかるのが普通じゃないの!。効率的な狩りができる時間は、事実上、半分になっちゃうじゃない! ちょっと、ペラペラジャージ、あんたもなにか言ってやりなさいよ!」
「あはははは……」
突然、俺が爆笑した。
「なっ……?」
俺の反応が意外だったのか、大河原の体が一瞬固まる。「神崎、ついに狂ったか?」
「いや、なに……。そう来るのかと思ってさ。よくわかったぜ。はは……。だったらこっちも、やりたいようにやらせてもらうとするか」
俺は学内順位なんてそれほど興味もない。現在、俺は学内順位1位だが、それだと目立つし、上昇志向の他の生徒の嫉妬や敵意も向けられる。
だから、今日の演習は適当にやって、意図的に学内順位を下げようと思っていたのだ。
だが、大河原が、こんな嫌がらせをやってくるのなら、俺も、少しばかり本気を出させてもらうとするか。
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