第42話 ヤンキー集団、ボコボコにされる

【一人称 主人公の視点】


 菊池が手下の兵隊たちに、大声で命令していた。


 高台から菊地たちを見おろしていた俺は、奥の通路へとはいっていく。


 急ぐつもりはなかった。ゆっくりと歩いた。


 進むと、T字路になっている大きな部屋にでる。ここから先、出口につながる通路は2本しかない。


 しばらくすると、両側の通路から、菊池の兵隊たちが、ぞろぞろとあらわれた。その数、ざっと200人。


「グヘヘヘ。ついに神崎を取り囲んだぞ!」

 菊池の実行部隊リーダーの一人が、勝ちほこったように、口元をゆがめた。


 俺がニヤニヤ笑う。


「どうして、笑ってる?」

 リーダーが、眉をひそめた。


「だって、おもしろいからな」

 

「なんだと? 神崎、てめえ、怖くねえのか? 200人からに囲まれてんだぞ」


「はははは……。200人といっても、ほとんどが、むりやり集めた烏合の衆うごうのしゅうだろ。はたして、本当に戦意がある武闘派の精鋭は、何人いるかな?」


「ごちゃごちゃ言いやがって! うるせーんだよ。永遠に、その口をふさいでやる!」

 リーダーが兵隊たちを振りかえって命令した。「みんな、かかれ!」


 ……しかし、



 菊池の兵隊たちは動かない。

「どうしたんだ、おまえら。行けー! やっちまえー!」


「「「…………」」」


 兵隊たちは、石のようにカタまっている。


 それを見て、俺は我慢しきれず、声をだして笑ってしまった。

「あはははは……。そうだろうと思った」


 俺が、菊地の兵隊たちを、ゆっくりと見まわす。

「さあ、どうした? 死にたいやつから、かかってこい」



 菊地の兵隊たちが、仲間どうしで小声でささやきあう。

《おまえが先に行けよ》

《いやだよ。そういう、おまえから行けよ》

《神崎相手は、ヤベーよ。死にたくない》

《そうだ。神崎に歯向かったやつは、みんなやられてる》


「どうした、てめえら! びびってんじゃねーぞ。死ぬ気でかかって行かんかーっ!」

 実行部隊リーダーが、顔を真っ赤にして、気合いをいれようとする。しかし、兵隊たちは動かない。


《あの横田も上川も、神崎にられたんだろ?》

《神崎は普通じゃないんだよ》

《他にない異次元の強さだ》

《菊地より、神崎にかかっていくほうが、怖いよ》


「こらっ、おマエら。俺の命令が聞けないってのか!」

 リーダーが続ける。しかし、兵隊たちは動かない。


 俺は、リーダーを見て言った。

「恐怖政治だけで、人がついてくると思ってんのか? バカだな。おどされて、いやいや仲間になった奴が、土壇場どたんばになって、命がけで味方してくれると思ってんのかよ? だから、おまえらは知能が足りないって言われるんだよ。あははははっ!」


「いいから、おまえら、はやく神崎を倒せ!」

 リーダーは、兵隊をにらんで、まだ叫んでいる。


 たまらず、兵隊たちが答えた。

「でも、菊地くんだって神崎とのタイマンで、イモをひいたじゃないか」

「そうだそうだ」

「菊地くんでも、かなわない相手に、俺らが、かなうわけがない」


「なんだとぉー。この野郎っ!」

 リーダーが、怒りに眉をつりあげた。手に持った剣を振りあげる。


「誰だって、菊地のようなゲス野郎なんかのために、死にたくないってわけだ」

 俺が口をはさんだ。「逃げるんなら、今のうちだぞ。俺は、一度PKをしかけてきた奴は、容赦ようしゃなく、どこまでも追いつめる主義だ。でも、最初から逃げる奴に手だしするつもりはない」


「ほんとうか?」

 かたわらにいた菊地の兵隊の一人が言った。


「本当だ。そのかわり、えりにつけてる菊地グループの構成員であることをあらわすバッジをはずして、地面に捨てていけ」


「わかったよ」

 兵隊の一人が、バッジを捨てる。あとはだった。次々にバッジを捨てる兵隊たちがあらわれる。

「ちくしょー。菊地のやつ、こんな糞みたいなバッジに高い金とりやがって」

「せいせいするわ」

「神崎、感謝する」

「悪かったな、神崎」

「ごめんよ。俺達は、弱いから、菊地のおどしに抵抗できなかっただけなんだ」

「神崎、俺達のために、菊地を倒してくれーっ!」


 俺は、バッジを捨てる菊地の兵隊の一人に目をとめた。「おい、おまえ、一見かずみって言ったよな」


「……うん」


「菊地から献上箱とかいう、御大層ごたいそうな箱もらってただろ? あれも置いてけ」


「そうだね……。こんな箱を押しつけられて、本当にいやだったんだ」

 一見かずみが、背中のリュックから、もらった箱をとりだし、地面に叩きつけた。そうして、部屋の出口へと走っていった。


 かなり多くの兵隊が逃げ出した。


 菊地の兵隊、約200人が、あっという間に20人くらいまでに減っていた。無理やり大きくした組織なんて、いざとなれば、こんなもんだ。


「どうした? 手狭てぜまに感じたダンジョンの部屋が、急に広々としたじゃないか」

 おかしさのあまり、どうしても、俺の口から笑いがもれてしまう。


 菊地部隊のリーダーは、くやしそうに歯噛はがみしていた。


「元から、あんな雑魚の集まりなんて、期待してねーよ」

 リーダーが強がりを言う。「戦力にならないのは、わかってたんだ。ただし、神崎、おまえを始末しまつしたあとには、あいつらに、徹底的にヤキを入れてやるがな」


「ははは……。おまえ、今日、生き残れると思ってんの?」

 と、俺。


「くそがーっ!」

 ムキになった実行部隊のリーダーが言った。「神崎、おまえが『鉄の剣』を装備してダンジョンに入ってるのは、何度も目撃されてんだ。それは、俺達も聞いている」


「それで?」


「装備を見ればだいたい、ダンジョン・ハンターのレベルがわかる。しかも、今日、おまえは、装備さえもってない。さすがに装備なしじゃ、おまえは俺達に勝てやしねーよ!」


「なるほどな……」

 すばやく俺は、装備ウインドウを開き、装備ボタンを押した。


 たちまち、俺の全身が、現在、最適な最強装備につつまれる。


 このとき俺が装備していたのは、レベル20から使用できる中級者用の有料DLC、『イレブンナイン・ミスリル・シリーズ』の武器・防具の数々だ。

 この『イレブンナイン・ミスリル・シリーズ』は、かなりヤバイ代物しろものだ。ゲームに実装されたときには、驚いた。

 なにせ最強の武器・防具を持っていた、ゲーム『ファースト・ファイナル』のレベル100のプレイヤーでさえ、あらたに装備すれば、びっくりするほど火力や防御力が上昇した。まさに、ゲームバランス破壊の、ぶっ壊れ装備である。


 菊地の兵隊たちの表情が、あからさまに変わった。

「な、なんだっ。その装備はっ!」

「どっから出しやがった」

「今まで、手ぶらだったはずだぞ!」


 もちろん、アイテムボックスから出したのだ。ゲーム『ファースト・ファイナル』では、プレイヤーの全身の装備を、事前に3種類ほど、アイテムボックスの装備欄にセットしておくことができた。状況に応じて、ボタンひとつで一瞬で、全身装備を変更する機能があったのだ。それを、使っただけにすぎない。


 つまり、変身バンクのない変身ヒーローのように、俺は、ありきたりな学生服姿から、一瞬で最強装備を装着していたわけだ。


 俺が、背中に背負った『イレブンナイン・ミスリルソード』をさやから抜きはなつ。


 その場に残った菊地の兵隊たちが、俺の剣を見て、目をむいた。

「その剣は、なんなんだ?!」

「そんな装備、見たことないぞ」

「ダンジョン・ハンターのトップクラスでも、そんな、すごそうな装備してない」

「抜いた剣の刃の輝きがおかしい……。どんな材質でできてんだよっ!」


「神崎、おマエは、ナニモンなんだあーっ?!」

 最後に菊地部隊のリーダーが叫んだ。


「おまえらが、知ったところで意味はない」

 俺は冷たく言いはなつ。「どうせ、おまえらは、今日、ここで死ぬんだからな」


「ちくしょーっ! やってやらあーっ」

 菊地の兵隊たちは、完全に、破れかぶれになっていた。


 死にものぐるいの顔つきで、菊地の兵隊たちが、俺にかかってきた。

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