第104話

 「ふああああっ……」

 布団の中で目覚める。


 早瀬家の一室。

 

 日曜日の朝だった。今朝は、花凜はなりは、家にいない。


 校内スポーツ大会のために、クラスで自主練習をやるらしい。


 俺も学校では、特別なものをのぞき、ほとんど普通科の教室で授業を受けているのだが、一応、まがりなりにもダンジョン科の生徒として扱われる。そのため、普通科の校内スポーツ大会は関係なかった。



 ん? 布団の中になにかいる……。


 かけ布団をまくりあげる。


 小さな頭が見えた。


 小学2年生の鈴凛すずりが、俺のふとんの中で寝ている。俺の胸にぴったりと抱きついたままだ。



 少し見ていると……、


「うーん……。兄ィ……。おはよー」

 布団がまくられ、差し込んだ光に気づいたのか、小学2年生の鈴凛すずりが目をさました。


「おう。おはよう」


「兄ィ。ふたりだけの初めての朝だね!」

 鈴凛すずりが、俺にぎゅっと抱きつく。


「そ、そうだな……」

 そんなセリフ、どこで覚えた?


 さて、起きるかー。

 一人だと、布団の中でダラダラとゲームをやっていたりするのだが……。今日は、早瀬家のメンツは、それぞれに用事があって、鈴凛すずりと俺以外この家には誰もいない。

 さすがに、鈴凛すずりと俺しかいないところで、だらしないところを見せるのも気がひける。


「起きるぞ!」


「兄ィー、おはようのチューしてー」

 鈴凛すずりが、チューするように口をつきだす。

 だから、そういうのどこで覚えるんだよ。


 とりあえず、おでこにチュッとする。


「ふふふ」

 鈴凛すずりがにっこりと微笑む。うん。超かわいい。


「兄ィー、今日ブリギュアの映画見に行くのー?」


「おう。鈴凛すずりといっしょに見に行くぞ」


「兄ィとの、あつあつデートだね」


「そうだな。あつあつデートだな」


「わあーい」


「よし、鈴凛すずりも起きろー」

「うん」


 鈴凛すずりが布団からでてくる。

「よーし。偉いぞ」

 なでり、なでり……。頭をなでる。

「わあーい」


「目覚めてから、朝は、いつもなにするんだ?」


「えーと……。パジャマを脱いで、服を着替える」


「着替える服はどこにある?」


鈴凛すずりの部屋」


「よーし。着替えてこい」


「はぁーい!」


 鈴凛すずりがトコトコと、可愛い小走りで部屋を出ていった。


 階段を駆けあがる音を聞きながら、スマホで映画の上映時間を確認する。


 当然だが、朝一の上映時間には、どうあっても行くことができない。日曜の朝はテレビ版のブリギュアを見ると決まっているからである。


 ほとんど時間をおかず、階段を駆け下りてくる音。あれ? 着替えたにしては、戻って来るのが早すぎる。


 廊下をトコトコと走りよってくる音がして、すぐに鈴凛すずりがあらわれた。


 パジャマ姿のままだった。


「どうした? なぜ着替えない?」


「ここで着替えるのー」

 見れば、手に着替える服をもっていた。


 なぜ、わざわざ俺の見ている前で着替えるのか?


 疑問に思っている間にも、鈴凛すずりがパジャマを脱ぎだした。


 ほっそりとした白いカラダがあらわになる。


 上下、純白の下着すがた。小学2年生だから、まだブラジャーはつけてない。


「兄ィー」


「んー?」


「どう? セクシー?」

 下着姿のまま、鈴凛すずりがグラドルみたいなポーズをとる。

 だから、そういうのどこで覚える?


 俺は、小児性愛ペドフィリアではない。さすがに小学2年生の鈴凛すずりに性的魅力を感じることはない。



 でも、小さなレディーに『セクシーじゃない』と、面と向かって言うのも失礼だと思う。

「とってもセクシーだぞ」

 とりあえず、話だけはあわせておく。

「わあーい!」


 あと数年たったら、鈴凛すずりの魅力もまるで違ってくるだろう。花凛はなりの小さい頃によく似てるから、俺好みの素晴らしい美少女に育つに違いない。



 ほどなく着替えが終わる。

 小学生らしいピンクの上着に白いプリーツのミニ・スカート。


 うん。とっても、かわいい。


「兄ィー」


「なんだ?」


「兄ィ、パンチラ好きなのー?」

 それ、誰に聞いた?


「……まあ、相手にもよるかな」


鈴凛すずりのパンチラ見たい?」


 いやあ……、そういうの返事に困るんだけど。でも、はなから小学生のパンチラなんかなんとも思わないぞ、と言い切るのもどうなんだろうなあ。鈴凛すずりの心を傷つけてしまいそうな気がする。


「うーん。ちょっと、見たいかも……」


「じゃあ、見せてあげる。はーい」


 鈴凛すずりが、自らスカートをまくりあげた。

 スカートの下に隠れていた白いものが、ちらちらと見えた。


 おっ……。これは……! 思ったよりもいいかも……


 って、ダメだろ俺。俺は断じて小児性愛ペドフィリアではないからな。いいか? 違うからなー。頼む、信じてくれ。



「兄ィは、見たいときにいつでも鈴凛すずりのパンチラ見てもいいからねー」


「お、おう……」


「兄ィなら、いつでも鈴凛すずりのスカートめくっていいよー」


「あ……、ありがとう」

 他に、どう答えればいいんだよ? 答え方に困る。

「どういたしましてー」


 シュールな受け答えがすんでから俺が注意する。

「他の男に、そういうの簡単に見せたらだめだぞ」


「もちろんだよー。兄ィだけ、特別だよー」


「それなら、よし」

 なにが、なのかわからないが、とりあえず言っておいた。


「兄ィーは、着替えないのー?」


「うん。俺はこれがパジャマ兼部屋着だから」

 着ているいつものペラペラジャージのそでをつまんで見せた。小さな子の前で、だらしなさを強調するのもどうかと思うが、着るものがこれしかないのだから仕方ない。


 ふたりで鏡の前で一緒に歯を磨いていると、鈴凛すずりの後ろの髪が、一部はねているのに気づく。

 鈴凛すずりは、髪の毛が固いのかもしれない。手でなでつけるだけでは、ピンとはねた髪の毛が、なかなか、まとまらなかった。


 そういえば、花凛はなりが、朝、ドライヤーで鈴凛すずりの髪を整えてやっているところを、何度か見たことがある。


 俺が同じようにしてやるのがいいのか? いや、俺、ドライヤーなんか使ったことないぞ。下手に鈴凛すずりの髪をいじくったら、状況がもっと悪化する可能性は十分にある。


 ひょっとして、髪をなおすだけでなく、他にもやるべきモーニングルーティンみたいなのってあったりするのか? 女は、いろいろ、そういうの面倒くさそうだし。男だから、女子のことは全然わからない。困ったぞ……。



『ピンポーン』

 不意に、インターホンが鳴った。誰か来た?


 台所のインターホンのモニターの前まで来ると、ギャル女子高生である織田結菜おだゆいなの金髪姿が映っていた。なぜ、おまえがそこにいる。

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