第103話

あるじさま、他にも千代の興味深い映像が、検索にひっかかった。どうする?』

 碧佳あおかの声が、俺の脳内に聞こえてくる。


『ん? まだ、面白そうな映像があるのか。ここまできたら、もう、遠慮はいらないだろ。どんどんモニターに映しちまえ』


『……了解』


 唐突に、アリーナのモニター映像が切りかわった。



 ザワッ。

 アリーナがざわつく。


 モニターには、日中の大多数の観衆の前では映ってはならないものが映っていた。



「あんっ、あんっ、あああ……」

 モニターのスピーカーから、千代のあえぎ声が、アリーナ中に響きわたる。


 モニターの映像では、千代が王子といた。学校の用具置き場の中で。


「ぎゃははははっ!」

 俺の爆笑が止まらない。まさか、真っ昼間の学校の体育館アリーナで、無修正AVを見ることになるとは思わなかった。


 モニターの中では千代と王子がくんずほぐれつしている。


「なに、あれ?」

「西ノ宮さんと王子くん?」

「いやーんっ!」

「不潔だわ」

 女生徒たちから悲鳴のような声があがる。



「千代、なんだ、あの映像は?」 

「あの映像は本当なんですか?」

 学内順位5位の暑杉熱男あつすぎねつおと、6位の冷水顕知れいすいあきともが千代に詰めよった。2人は王子とともに千代とチームを組んでいたメンツである。


「あれは嘘よ。あんなことわたしがするわけ……」

                       「俺達は、まじめにお付き合いさせてもらっている。」

 千代が必死で否定しようと弁解していると、王子が割って入った。

「僕と千代さんは、真面目で真剣なお付き合いをさせてもらってるんだ!」

 王子がキリッとした表情で言った。


 こいつ、居直りやがった。


 王子は、乙女ゲーの攻略対象を絵に描いたような超イケメンだ。王子が決めポーズをとる。が、背後の巨大モニターには、いる映像がながれつづけていた。

 全然、決まってないぞ。


「こんなことがあって、たまるか!」

「そうです。ありえないことです」

 暑杉あつすぎ冷水れいすいが、声をあげる。


「千代は俺と付き合っているんだぞ!」

「違います。千代さんは、僕と付き合っているんですよ!」

 暑杉あつすぎ冷水れいすいは、混乱しきった顔つきだ。




あるじさま、他にも映像もある。どうする?』

 碧佳あおかの声が、俺の脳内に響く。


『かまわない。いくらでも映せ』


『あらたに2本ある……』


『じゃあ、2台のモニターに並べて映すんだ』

 アリーナには、1方向に4枚の巨大モニターが設置されている。四角い建物内の周囲の壁4面で、合計16枚ある。


『……了解』


 アリーナの巨大モニターに、新しい映像が映った。


「あん、あん、あんっ……」

 千代のよがり声。

 

 千代が学校の物陰でいる映像だった。ただし、今回の相手は、暑杉あつすぎ冷水れいすいだった。千代が2人といる映像が、左右の巨大モニターに、それぞれ大写しに映しだされていた。


「どういうことだ、これは???」

「千代は俺だけと付き合っていたはず」

「違います。僕だけと付き合っていたと千代さんが言っていました」

 王子、暑杉あつすぎ冷水れいすいが、それぞれ顔を真っ青にしている。

 こいつら、ビッチ相手に騙されて、純愛をしてるつもりだったのか。



「ぎゃはははっ! ビッチにもほどがあるだろ。ひでえ女もいたもんだ」

 俺が声をあげる。「学校で、それも3人とすなんて、こりゃ退学もんだな」


 観客含め、何千人もの人間にこんな映像を見られては、恥ずかしすぎて人前を歩けないだろう。


「違う、違うのよ。これは……!」

 王子たち3人に同時に詰めよられて、千代の顔が真っ青にひきつっている。これだけの証拠をつきつけられて、なにが違うというのだろう。王子たち3人も、したことは、自分で認めてるし。



『……あるじさま、別の新しい映像が、検索で新しくひっかかった』


『おっ、4本目か? じゃあ、4枚のモニターにそれぞれの映像を同時に、リピートして映しだせ』


『……了解』


 アリーナの一方向、4枚の巨大モニターにそれぞれの映像が映しだされていく。すべて千代が、学校内の用具室やら、物陰やらで、いる動画だった。ただ、巨大モニターに映し出されている映像は4枚とも相手が違っていた。


 1枚目は王子。2枚目は暑杉あつすぎ。3枚目は冷水れいすい。4枚目は……、なんと、大河原だった。


「ぎゃははははっ。これは酷い。酷すぎる!」


「ち、違う。違うんだあああっ!」

 大河原が叫ぶ。


「相手がいくらビッチとはいえ、28歳の指導員が高校1年生の女子に手をだしたら、正真正銘の犯罪だぞ。やはりこの学校を去るのは、俺やキララではなく、大河原、おまえの方だったな。あははは……!」


 当然だが、生徒と淫行を起こした指導員が学校に残れるわけがない。いや、それだけではない。生徒たちはもちろん、9000人もの観客が見ているまえで、大河原の『淫行』という犯罪が明らかになった今、もう大河原は社会的に死んだも同然だ。これからは、就職さえ、ままならないだろう。ビッチとだけで、これから、大河原には大変な人生がまっている。


「ちがう……。この場は、神崎、それに大宮司、おまえたちの不正や悪事を糾弾する場だ! 俺達を糾弾する場ではないぞ!」

 追い詰められた大河原は、無茶苦茶なことを言いだしやがった。


「…………」

 俺は黙ってニヤニヤ笑うだけだ。


「な、なんだ? その勝ち誇ったような目は? 俺はこの学校の指導員だぞ! 生徒は指導員に従う義務がある……」

 大河原が高圧的な態度にでたとき、ポンッと背後から大河原の肩をたたく者があった。


「ん?」


 大河原が振り向くと、背後に校長が、不気味なまでにニコニコした顔で立っていた。


「大河原くん」


「ひいーーーっ!」

 大河原が首をすくめて、小さくなる。


「ちょっと、校長室で、他の先生達も交えて、お話を聞きましょうか。たぶん、警察に連絡することにもなると思いますが……」


「校長、これは、いろいろと事情がありましてっ!」


「だから弁解なら、校長室でしてくださいね」


「うっ。……はい」

 しょぼんとした顔でしょげかえった大河原が、とぼとぼと校長の後についていった。


 と、いうわけで、この日の演習は、俺のチームが1位となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る