第105話

「きゃー、直さまーっ♡」

 玄関の扉を開けると、結菜ゆいなが飛びついてきた。


「暑苦しい。離れろ」

 抱きついてくる結菜ゆいなのカラダを、強引に引きはがず。


「いやーん。直さま、すごい腕力。男らしくて力強い。ス・テ・キ……!」


「なにしに来たんだよ?」


「今日、早瀬さんが、スポーツ大会のクラス練習で家にいないって聞いたから」


「そうだけど……」


「それで、大変そうだから、手伝いに来ましたー! 女手おんなでがないと、なにかと不便なこともあるでしょ?」


「いや、間に合ってるが」


「ああんーっ。そんなこと言わずにぃー。直さまの性欲の処理でも、夜伽でも、性奴隷でも、なんでもしますからあー」


 バタンッ。俺が玄関の扉を閉めた。


「あーん。ごめんなさい。調子にのりました。直さま、開けてえー! 開けてえー!」

 扉の裏側をドンドンと叩いている。


 俺は扉を開いた。

「まったく、うるさいヤツだな。日曜の朝から、近所迷惑だろがっ! 俺は忙しいんだよ」



「あたしに、手伝えることがあれば、なんでもご用命くださいませ。マジでがんばりますから」


「おまえにできることなんて……、ん?」


 追い払おうとして、はたと気がついた。


 こいつなら、鈴凛すずりの髪とか整えられるんじゃないかな?


 性格はともかく、結菜ゆいなの外見はギャルってことをのぞけば完璧だ。ぱっとみても、身だしなみに非常に手間と時間がかかっているのがわかる。女子高生が化粧ってのはどうなんだろう、と思うけどな。

 結菜ゆいなは、老舗の大手デパートである織田屋を経営する家の、お嬢様でもある。



  ☆☆☆



 結菜ゆいな鈴凛すずりの肩をもって、くるんと俺の方にむけた。


「どうですか? 直さま」


「うおおおおっ。すげーっ!」


 鈴凛すずりの跳ねた髪がなおっていた。いや、それ以上に、なんだか全体的に以前よりも、ずっと整っている。髪型はかわってないのに、はるかにオシャレな感じがした。


「おまえ、すごいな。見直したぞ」


「ふふふーん。これくらい当然よ、直さま!」


「他に、女の子は、モーニングルーティン的なものは、なにをすればいいんだ? 教えてくれ」


「え? あたしのモーニングルーティン?」


「そう。詳しく鈴凛すずりに教えてやってくれ」

 鈴凛すずり結菜ゆいなのすぐ横にたって、きょとんとした顔で見上げている。


「わかったわ。では、まず布団の中で目覚めたときから……」


「そこからか。これは、ほんとうに詳しく聞けそうだな。いいぞ!」


「布団のなかで目をさましたら、まずパンツをずりおろし……」


「え? 女って、朝、布団の中でパンツをずりおろすの? 知らなかった……。で?」


「で……、好きな人のことを頭に思い浮かべ……」


「へっ? 好きな人のことを頭に思い浮かべ? ……なにするんだ?」


「オナニーをします」

         「ゴラアアアアアーッ!」



 結菜ゆいな鈴凛すずりの近くから引き剥がし、奥の廊下の壁際まで追いつめる。


「このビッチがーっ! 小学校2年生の女の子の前でなんてことを言いやがる!」


「いやん、ビッチなんて酷い。あたしは、正真正銘の汚れない処女おとめなのに」


「うるさい。小さい子に変なことを吹き込むのはやめろ。いますぐ追い出して、一生、この家を出禁にするぞ!」


「わ、わかりました。もう乱れたようなことは言いません」


「絶対だな」


「はい」


「たのむぞー。乱れた行為じゃなくて、ちゃんと規則正しい健全な生活のことを教えてやってくれよ」


「了解」




 結菜ゆいなは、鈴凛すずりの前まで戻ると、再び説明をはじめた。

「人間というものは、規則正しい生活が大切です。乱れた生活はいけません。規則正しくモーニングルーティンをこなすことで、生活にリズムが生まれ、健康で充実した生活がおくれるようになるのです。わかりますか?」


 おっ。やればできるじゃないか。その調子だ。


「では、規則正しい女の子の朝の生活の送りかたの説明をしますね。……まず朝、目覚めたら、毎日、規則正しく健全に……、オナニーをします」

                            「ゴラアアアアアーッ!」


 再び、結菜ゆいなを引っ張って、奥の廊下の壁際までやってくる。


「いたいけな幼女の前で、なに言ってやがるんだああああーっ! ちゃんと規則正しい健全な生活のモーニングルーティンを教えてやれよ!」


「だから、あたしは、ちゃんと規則正しく健全なオナニーのやり方を……。適度なオナニーでオーガニズムに達し、脳内麻薬が出ることで、ストレスを解消し、免疫力を高め……」


「だまれえええ! このあばずれ、糞ビッチがーっ!」


「いやん。直さまに、そんなに面と向かってののしられたら、あたし、性的に興奮しちゃう。ああんっ……、濡れてくるぅ……」


「なにが、濡れてくるぅ、だっ! すこやかな日曜の朝っぱらから……、ド変態に興奮してるんじゃないっ。この超絶ビッチ、性欲まみれのメスガキがーっ!」


「ああんっ。もっと、ののしってえ。直さまに、ゴミを見るような目でさげすまれ、罵倒ばとうされたら、あたし、すっごく感じちゃう……」


「ゴラアアアッ! 自分の股間に手をのばすなーっ!」


「わかりました。股間に手をのばすのはやめます」


「ん? それだけは、素直だな」


「当然です。わかってます。じらしプレイですよね。ああーんっ。実際に手をつかわないと、脳内妄想ばかりが膨らんで、ますますぐしょぐしょに……」


「妄想もすんなーっ!」


「ああーんっ。直さま、酷い。そうやって、直さまに命令されて、いろいろと禁じられるということは……、つまり、一種の束縛プレイですね。あたし、さらに感じちゃううううっーーー!」


 しまった……。


 こいつは、真性のマゾだったんだっけ……。結菜ゆいなに、ののしりや禁止の言葉は、になってしまうのだった。


 マゾはののしられると喜んで性的に興奮してしまう。……ということは、めれば、精神にダメージが入るというわけか?


「織田って、よく見るとすごく美人だな。かわいくてスタイルもいいし。しかも、老舗の家のお嬢様らしく、どこか、そこはかとなく、あふれだす気品があるぞ」

 別に嘘はついてない。こいつは外見だけは、とてもいいからな。


「ひゃぁーんっ。直さまにそんなにめられたら、あたし、嬉しすぎて、もうたまらない。もっと、さらにさらに、ぐしょぐしょにィーーー!」


「どうしろっちゅうんじゃああああーっ!」



「てめえは出禁じゃああああっ。とっとと出ていけえええーっ!」

「いやーんっ!」

 俺は、結菜ゆいなを蹴り飛ばすようにして、家から追い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る