第70話

 俺と翔子は、さらに『バベル』の中心部へと向かう。


『あははは……』

 建物のスピーカーから声が聞こえてきた。聞いたことがない声だった。小学生高学年か、せいぜい中学1年生くらいの少年の声だ。

『侵入者くん、どうやら僕を倒したいらしいけど……、無駄、無駄』


「なに?」


『だって、そうでしょ。電脳演算要塞都市『バベル』は僕そのものだもん。この中に入った時点で、君たちの行動は、すべて僕に筒抜つつぬけさ』


「そういってられるのも今のうちだぜ」


『はたしてそうかな。見ればわかるとおもうけど、この建物は監視カメラだらけでしょ。ここでは、完全監視システムが整っている。顔照合AIと、どの大手IT企業よりも巨大な個人データの蓄積、そして最強のスーパーコンピューターで、あらゆるものが常に監視されているんだよ』


 俺達が進もうとする方向の隔壁が次々に閉まっていく。


「こんなもので、俺が止められるかっ!」

 俺は、イレブンナイン・ミスリルつちを手にし、隔壁を破壊しまくって、進んでいく。


『なかなかやるねえ。では、これはどうかな?』


「御主人様、前方に床回転型の落とし穴の罠を探知!」

 高レベル斥候スカウトの翔子が言った。


 床が回転するのは、罠にはまった人間が、方向を見失い迷うようにするためのものだ。


「回避できるルートは?」


「ありません。あらゆる場所が罠だらけです!」


『あははは、君に電脳演算要塞都市『バベル』の最重要部、制御コアに到達するのは無理だってことが、わかった?』


「翔子!」 

 俺が叫ぶ。「完全監視体制といえど、監視カメラが天井裏や通気口にまで完備されているはずはない。おまえならその間をすすんでいける。中にはいりこんで、制御コアの正確な場所をさぐれ!」


「承知いたしました!」


 翔子の正体はショゴス・ロード。ショゴス・ロードは不定形でアメーバ状の魔物だ。完全な密閉空間でない限り、どこでも入りこめる。人間の姿から、黒い液体状の身体になった翔子は、建物のわずかな隙間から水が染み込むように侵入していった。

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