第51話 『大宮司キララ』登場
「俺は、ぜったいに、他の高校には行きませんよ」
俺が校長に言った。
「そういわないでよ、神崎くん。たのむよー。死に際の年寄りの最後のワガママだと思ってぇ……」
「いまどき、60歳くらいじゃ、まだまだ死なないでしょ」
「じゃあ、他の学校に行かなくていいから。ともかく、選抜試験だけでも受けに行ってくれないかなあー。たのむよー」
聞けば、隣のB市のさらに向こうの町、C市が選抜試験会場らしい。隣町のB市では、中級ダンジョンがスタンピードを起こして、周囲約20から30キロにわたって、人間が住めない廃墟になっている。B市を通る鉄道は運行されておらず、大きく迂回して、鉄道やバスを乗り継いでC市の試験会場に行くとすると、片道2~3時間近くは、かかってしまう。
めんどくせー。
対策勉強一切しない『記念受験』だとしても、行きたくない。
「ところで神崎くん、知ってるかね?」
「なんですか?」
「政府は、加護にめぐまれた高校生にダンジョン探索を、強く奨励しているのは知ってるよね? それで、今後、学校の単位取得の方法が、大幅に変更される」
「ほう……」
「体育や、芸術……、それに、選択の社会科目や理科科目などの単位は、授業を受けなくても、ハンター協会で、本人が狩りで取得したと認められた一定数以上のドロップ品を売れば、単位がもらえるしくみになる」
「それはすごい」
「ところで、その特別な単位取得方法の申請には、校長の認可が必要でね……。なんなら、将来、国立大学への推薦入試についても、考えさせてもらってもいいんだよ。そういうのは、校長の権限でできるからね。ふふふ……」
それまで、人の良さそうな顔だった校長の表情が、ちょっと黒くなった。
くそー。
ずるいぞー。
でも、ダンジョンでレベリングしてるだけで、授業出ずに高校の単位がもらえるのは、
☆☆☆
結局、
・高校は移らない
・特別な単位取得方法を校長に申請してもらう
・そのかわり、『国立ダンジョン専門高等学校』の選抜試験を、カタチだけでも受ける
ということに落ちついた。
『国立ダンジョン専門高等学校』の選抜試験当日だった。
花凛が早起きして、トンカツと、レンコンの入った
いや、記念受験なんだけどなあ……。なぜか花凛が、はりきってる。
花凛には、これまでも本当にいろいろと世話になってきた。近いうちに、お返しになにか喜ぶことしてやらないとなあ……。なにがいいだろう?
とりあえず、俺は制服じゃなく、ペラペラの安物ジャージを着て家をでた。
ダンジョンのスタンピードがおこって、大災害にみまわれたように廃墟になったB市と、俺の町の境にまでやってくる。
安全な町の公共交通機関を乗り継いで、B市を迂回すれば、下手すれば片道3時間ちかくかかる。
B市の真ん中を走ってつっきって、試験会場のあるC市に行けば、俺のいまの身体能力なら40分とかからないだろう。
アイテムボックスから、スタミナポーションと、移動速度向上ポーションを出して飲む。
「よーし、行くぞぉーっ!」
俺は走りだした。
廃墟地帯になったB市には、多くの魔物が
しばらく走っていると、グレート・シルバーウルフに遭遇した。4匹いる。
こいつは走るのが速く、今の俺の走る速度ではふりきれない。
「しかたない。処分していくか……」
俺が立ち止まり、アイテムボックスから、装備を取り出そうとしたときだった……、
ブー! ブッブーッ!
背後で、自動車の大きなクラクション音がした。
振り返ると、軍用の装甲車が目にはいった。アメリカ軍が使用している『ハンヴィー』だ。重機関銃はついてなかったが、扉などには追加用の、ものものしい装甲がほどこされている。
ハンヴィーの運転席の扉がひらいて、1人の少女が顔をだしていた。俺を
「ちょっと、そこの馬鹿! ほら、あんたよ。ペラペラジャージのあんた!」
少女は車から降りてきて、俺の前に立った。
「あんた邪魔なのよ。どきなさいよ! 車が通れないでしょ!」
お嬢様学校で有名な、高校の制服を着ている。
金髪ツインテール。かなりの美少女で色白だ。日本人っぽい顔つき。ハーフかな?
「おまえ、車運転してるの? 何歳だよ?」
「知らないの? さすがペラペラジャージ。おバカなだけあるわね。政府の政策で、ハンターランクがC以上なら、15歳でも特例で自動車免許が取得できるようになったのよ! そんなことも知らないって、どうしようもない、おバカね!」
ツインテール美少女は、いかにも人を見下したように肩をすくめ、ハァーッとため息をつく。
なんか、腹立つな。
「おまえ、ランクCなのか?」
そういえば、俺、申請が面倒くさくて、まだF
「はぁーっ?! なんですってぇーっ!」
金髪ツインテールが眉毛を逆立てて、俺を
「さすがに言い過ぎだろ。初対面の人間に向かって言うような言葉じゃないぞ」
「あははは……。そのぺらぺら超安物って感じがありありのジャージ。わらっちゃうわ! いかにも引きこもりのオタクって感じ」
「誰が引きこもりだっ! 俺は、引きこもりなんかじゃないっ! ただ、1日中、家にこもって、ゲームするのが大好きなだけですぅ!!」
「引きこもりじゃん」
「…………」
金髪ツインテールと話している間にも、グレート・シルバーウルフが俺達に近づいてくる。グレートとついているだけに大きい。体長4mはある。もちろん、それなりに強い。
民間ハンターなら、最先端の攻略組でも、多くの連中が撤退するところだ。
見ているうちに、少女が一瞬で装備を身にまとった。
片手持ち用ダマスカスソードが、両手で2本。
鎧上下と手足には、『複合プレートアーマーセット』
アイテムボックス水晶持ちか。一瞬で全身装備を変更できる機能つきだ。
たしか、アイテムボックス水晶は中古市場価格でも、何千万円とかで取引されてたはずだが……。この金髪ツインテール、そんなに金もちのお嬢様なのか?
少女の下の服はスカートのままなので、ジャンプしたら、華麗にふわりとひろがった。スカートの中が見える。ピンクの水玉……。
金髪美少女は二刀流だ。二刀流は、いろいろ癖のある制限が嫌で、俺はつかってない。けど、
少女は、たちまち、グレート・シルバーウルフ4匹を倒してしまった。
「ふふんっ。見たぁ?!」
金髪少女はドヤ顔だ。アイテムボックス水晶に装備をもどして、制服姿に戻った少女は、両手を腰にあてて、高飛車に笑う。
「どう? あたし様の超絶すごい素晴らしさが、おバカのあんたにも超わかったでしょ? これが、Aクラス・ハンターの実力ってものよ!」
たしかに、かなりすごい。
フル装備の今の花凛とPvPしたら、けっこういい勝負になるかもしれない。俺がいないときに、なにか事件にまきこまれたらまずいから、花凛は、もっとパワーレベリングしてレベルあげといたほうがいいな……
「いいこと、ペラペラジャージ! あんたみたいな雑魚がこんなところで、1人でうろうろしてたら、すぐに死ぬわよ!」
「…………」
「どうしてもっていうのなら、車に乗せていってあげようか?」
「え? 乗せていってくれるの?」
「バーカ。そんなわけないでしょ。ベー」
金髪ツインテールが、俺をみくだしたように、舌を出しやがった。
バタン……
金髪ツインテールは、ハンヴィーの扉を閉めて、廃墟の奥へと走っていった。
最悪だ。なんて、女だよ……。
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