第101話

「神崎、よく聞くがいい。今日の演習においての最終決定権は、ダン校の指導員たる、この俺、大河原権三がもっている。俺の判断に文句があるというなら失格処分にするぞ」


 大河原が、指導員という自分の立場を利用して、高圧的にでてくる。大河原の顔にニヤリと勝ち誇った表情が浮かんだ。まあ、指導員は圧倒的な権限を持っているのは事実だ。生徒と指導員じゃ、真正面から言い合っても勝負にはならない。


 普通はな……


「あははは……。失格にできるというならやってみろよ」


「魔石集めにおいて、神崎チームは明らかに不正をはたらいた。大河原権三の名において、神崎、おまえを失格処分と宣言する!」


「ははは……」

 俺は鼻を鳴らして、貴賓席のほうに視線をやった。


 俺の視線の先に座っていたのは校長だ。ダン校が設立される前に、俺の高校の校長をやっていた爺さんだ。この爺さんは、ダン校が設立された後、ダン校の校長も兼任している。利権まみれの食えない爺さんだが、今でも俺とは結構な交流があった。


 校長が貴賓席から立ち上がり、大河原に話しかけた。

「ちょ、ちょっと、大河原くん」


「なんでしょうか? 校長!」


「ちゃんとした証拠もないのに、失格はないんじゃないのかね?」


「しかし、神崎のチームが集めた魔石は、学生ではありえないほどの量でして……」


 そんな説得では無理だ。


 校長は、なんとなく俺の実力に感づいている風があるからな。普通の高校生では集められない量の魔石を、俺が集められることを校長は知っている。


 実は、ダン校の校長には、政府から結構なノルマが課せられていた。


 そのせいか、中間管理職である校長は、これまで何度も俺にすがるように懇願を繰り返してきた。

『神崎くぅん、国立ダンジョン専門高等学校の入学試験を受けてよー』

『ねえ、神崎くぅん、Fクラスでいいからダンジョン専門高等学校に入学してよぉー。頼むよぉ。お願いだから』

『神崎くぅん、上から生徒たちに課された魔石のノルマが足りないんだ。足りない分あつめてよ、お願いだからー。このとおり』


 一見、校長の頼みに俺が一方的にいいように使われているように見えるが、実際はそうではない。

 校長のたのみをたまに聞いてやることで、学校のことでは、いろいろと融通が効くのである。


 特に校長にノルマとして課せられた魔石を、俺が普段のレベリングでためたストックの中から、かなり出してやっていた。もちろん、生徒が獲得した魔石は適正価格での買い取りと決められているから、俺にも損はない。が、それでも校長は俺に大きな借りがあることに変わりはないのだ。


 そうやって校長に恩を売っておくと、こういうときに実利となって返ってくるのである。

「大河原くん、神崎君のチームが不正したという、はっきりした証拠がない以上、今回は客観的な魔石の量で判断してください」


「しかし、わたしは生徒の管理を任された指導員でして!」


「わたしは、君たち指導員の管理をまかされた校長ですけど……」


「ぐぬぬ……」

 大河原は見事に校長に言い負かされて口をつぐむ。


 教師や指導員たちが集まり、第一回戦の正式な審査が終了した。

 ほどなく、実況のアナウンスがアリーナ内に響き渡る。


『ダンジョン高校の指導員たちの審査が終わりました! 第一回戦の結果発表です。1位は、みごと神崎直也チームに決定しました!』


「「「うおおおおーっ!」」」

「いいぞー!」

「すごいぞー!」

「西ノ宮兄妹にはうんざりしてたんだーっ!」


 観客席が湧き上がる。


 やっぱり西ノ宮兄妹は人気ないんだなあ。


 魔石発電は、発電コストが安くなるはずだった。しかし、西ノ宮総一朗は強引な価格操作をしている。暴利をむさぼっているのだ。かえって日本人の電気代が上がっているのが現実である。だから、西ノ宮総一朗は日本国民には不評だったりする。

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