第118話 ワーウルフ戦


  【一人称・主人公の視点】


 C市ダンジョン。

 俺、翔子2、ピピの三人。

 さらに下層へとすすむ。


 ダンジョンの魔物たちを蹴散らしながら、地下第6階層まで降りた時だった。


 前方から、人影。またもやガラが悪そうなスジ者たちの集団、30人ほどが近づいてきた。


「面倒くせえ……」

 俺の現在のビルドは、極度に一対一の『デュエルマスター』に偏重した仕様だ。範囲攻撃のような、一対多数に有効なスキルはとってない。


「翔子2、奴らのSAN値を削れ!」

「わかりましたですぅ!」

 翔子2がスキル『狂気の恐怖』Lv.4を発動する。



 30人ほどのヤクザがSAN値0に陥り、さまざまな発狂する姿を見せる。


 回復不能の完全な狂気におちいるもの。

 極度の狂気状態で自殺をおこなうもの。

 ストレス性心臓発作やショック死するもの。


 眼の前でヤクザたちが、バタバタと倒れていく。



 ただし、ヤクザの一人だけは立っていた。

 翔子2のスキル『狂気の恐怖』Lv.4に抵抗レジストしたのだ。

それなりの高レベルだな。


「くへへへへ……。兄ちゃん、なかなか強いじゃねえか」

 生き残った男が、ペロリと唇を舐めながら言った。威圧的なえた目に、剃り込みの入った五分刈り。


「だが、兄ちゃん、残念ながらこれで終わりだ」

 五分刈りが言うと、身体がピキピキと音を立てて震えはじめた。


「いい……、いいねえ……。この感覚、いつだって最高だ」

 男の声が低く、獣じみた唸り声に変わっていく。男の指先から大きな爪が生える。歯は牙へと変化し、髪は全身に広がり野獣の毛となっていく。


「あんた、ワーウルフだったのか」


「よく知ってるじゃないか。だったらワーウルフの強さも知っているだろう? 人間じゃ、まともに戦えば決して勝てないことを」


「まあ、よく知ってるかな……」

 ワーウルフが四つん這いになる。


 刹那せつな……


 ワーウルフが地面を蹴り、俺に迫った。


 俺の剣とワーウフルの爪が交錯こうさくする。火花が散った。


 ワーウルフの連撃を、『鉄の剣』で受ける。


「初心者用装備の『鉄の剣』でワーウルフに対応するのは厳しいかな? もう剣がボロボロで、今にも折れそうだ」


「逃がさないぜ、小僧!」

 ワーウルフは興奮したように吠えた。跳躍して俺に襲ってくる。「これで終わりだ!」


 強烈な爪の一撃。


 グサッ!


 俺が突き出した剣は、ワーウルフの肩に食い込んでいた。爪の一撃は、俺のサイドステップで虚しく空を切っていた。


 とっさにワーウルフがステップバックして距離をとる。


「くううう……」

 血まみれの肩をおさえながら、ワーウルフは苦痛の声をもらしていた。


「小僧、やるじゃねえか」


「でも、少し浅かったな」

 ワーウルフと戦うのは久しぶりだったので、攻撃時の瞬間に軸をずらす特性を忘れていた。


「くくく……。そのとおりだ。わかってるじゃねえか、小僧」

 ワーウルフは唸り声を上げながら、自分の体を大きく膨れ上がらせた。筋肉がさらに隆起していく。「ちょっとばかりやる気になってきたぜ。まだまだ、俺は本気をだしていないってことを教えてやる」


「そういう見世物っぽい演出には、もう飽きたよ。ゲーム・ムービーで飽きるほど見てきたからな……。ムービーを楽しみたい人間は、普通、映画とか見るだろ」


「……?」


「俺は、ムービーじゃなくて、もっとアクションゲームとしてのテンポや緊張感を求めてるんだよ。頻繁ひんぱんなムービーシーンがゲームの流れを中断させるんだよ。バトルの興奮がぶつ切りになるっていうか……。たくっ。……ぶつぶつ」


「何をひとりでぶつぶつと言ってんだ?」


は受動的にムービーを見るだけのシーンが多すぎる。前作から、リアルタイムバトルシステムが取り入れられて心待ちにしてたのに。それなのに……。……ぶつぶつ」


「だから、さっきからなにを言ってるんだっ!?」


「だから、の話をだな」


「まあいい……、おまえが、普通じゃない強さなのは認めてやるよ。が、それでも俺には勝てねぇよ!」

 ワーウルフは素早く反応する。


 鋭利な爪の猛攻。怒涛の連続攻撃。


 全ての攻撃を、鉄の剣で受け流す。

 鉄の剣がボロボロだ。耐久値が限界にきている。


 ワーウルフの右の爪が、俺の顔めがけて襲いかかる。

 俺はスウェーバック。ぎりぎりの間合いでかわす。


 左爪、右爪、左爪……。一撃、一撃、さらに一撃。

 かわす。流す。巻き落とす。


「ど、どうしてだ? どうして、『鉄の剣』で、俺の連撃を止められる???」

 息をあらげたワーウルフがいぶかしそうに言う。


「攻撃を受け流す、俺の超絶テクニックさ。もろに受け止めたら、一撃で鉄の剣が折れちまうからな」 


「くっ……」

 ワーウルフは苦しげに肩で息をしつづけている。


「その肥大した体では、一時的にパワーはあがるが、おまえの猛攻に耐えられるような相手では、急激にスタミナを消耗するんだよ。それがおまえの弱点だ」


「どうして、そんなことまで知ってるんだ!?」


「そりゃ、俺はゲームをやりつくしてるからな」


「なにを言っているのか、まったくわからねえ……」



「ともかく終わりってことだ。戦ってる間に、おまえの動きのパターンは全部思い出した」


「小僧、調子に乗るんじゃねえぞ!」


 ワーウルフが大きく振りかぶった瞬間、俺は動いた。低く身を屈め、一気に距離を詰める。


「この戦いも、幕引きだ!」

 鉄の剣が、ワーウルフの胸に向かって突き出される。

 瞬時に軸をずらす特性を考慮しての、巻き込み突き。

 タイミングも精度もドンピシャ。


「ぐああっ!」

 『鉄の剣』がワーウルフの心臓に深々と突き立った。そして、ポキリと折れた。

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