第4話 主人公が覚醒した

 コボルトが迫っていた。


 必死で立ち上がる。全身が、きりきりときしんだ。


 身体に、かなりのダメージを負っているのがわかる。でも、まだ動ける。


 俺は振り返って全力で走りだした。10mほど離れたところに剣が落ちていた。今日、菊池たちが魔物を倒してドロップし、リュックに入れていた剣だ。だが、長物だから、入りきらず、半分ほどリュックから出ていた。だから、菊池が俺が取り上げた時に地面に落ちたのだ。


 菊池たちは、その剣を拾わずに逃げていた。


 剣を拾ってから振り返る。迫ってくるコボルトと向かいあった。


 俺を攻撃しようと駆けよってくるコボルトは2匹。ゲーム『ファースト・ファイナル』では、並のレベル1のプレイヤーが戦ったら、一匹さえ、とてもかなわない相手だ。しかも、それが二匹。


 一匹めの攻撃が来た。


 俺がかわす。


 ジャンプして、二匹目の攻撃をさそうように、絶妙な位置取りをする。


 すぐに二匹目の攻撃。


 ジャストタイミングのバックステップで、俺がかわす。


 二匹目は攻撃後の硬直状態にある。


 すかさず、突進。


 剣先でコボルトの胸を刺す。


 しかし、浅い攻撃だ。コボルトは倒れない。


「クウウウウ……」

 攻撃を入れられたコボルトがうなった。


 攻撃を入れたらすぐにバックステップ。


 一匹目の攻撃が俺のいた地面を打つ。


 いける……


 タイミングの取り方も、ゲーム『ファースト・ファイナル』とまったく同じだ。


 二匹目の硬直がとけ、攻撃してくる。


 俺が避ける。二匹目が再び攻撃後の硬直。


 ここから、一匹目が攻撃してくるまでの間に、ダメージを入れられるタイミングは、びっくりするほど非常にシビアだ。


 少しでもずれたら、こちらが攻撃をもらってしまう。今の俺のレベル・装備だと、一発でも当たれば、即死は確実。


 ステップを踏んで、再び二匹目のコボルトを攻撃。


 今回も浅く突き刺す。


 欲をだして、強い攻撃をするのは厳禁だ。それでは、一匹めの攻撃が間に合ってしまう。浅い攻撃を連続でつづけて、少しずつ敵のHPを削っていく。それが、今の俺の唯一の勝利への道だ。


 『敵の攻撃を避けてからの浅い攻撃』を10回以上は繰り返しただろうか。ついに一匹のコボルトが倒れた。


 自分でも惚れ惚れするような的確なタイミングの取り方だった。これほどシビアなタイミングを、たまたま1回か2回成功させるだけならともかく、完璧に10回以上連続でできるようになったのは、俺が、ゲーム『ファースト・ファイナル』を2000時間以上やってからくらいだったはず。


 コボルトが残り一匹になった。こうなれば、もう、俺にとってはヌルゲーだ。的確なタイミングで、敵による攻撃後の硬直を狙って、剣で刺す。


 30秒とたたずに、残り一匹も倒れた。



 そして……


 俺の身体が光った。


《レベルが上がりました》


《ステータスウインドウを開くことができるようになりました》


 なるほど、レベル2になればステータスウインドウを開くことができるのか。これも、ゲーム『ファースト・ファイナル』と同じだ。ゲームでは、最初のチュートリアルを終えると、レベル2になる。そこで、ステータスウインドウを開くことができた。


 俺が、ステータスウインドウを開いてみようとしていると……


 さらに空中から声が聞こえてきた。

《スキル『パワーアタック』を習得しました》


「え?」

 驚いて、俺は一瞬動きを止める。


 たしかに、『パワーアタック』は、ゲーム『ファースト・ファイナル』でレベル2になると、使うことができるようになる最初のアクティブ・スキルだ。


「本当に使えるのか……?」


 半信半疑のまま、頭の中でパワーアタックを出そうと意識してみる。

「パワーアタック!」


 身体が勝手に動く。流麗な技がでた。俺は踏み込みながら剣を横薙ぎに払っていた。


 ぴゅっ、という非常に鋭い音がした。剣を振った風切り音だ。


「本当に、スキルが発動した……」

 俺は呆然となって、つぶやいていた。


 でも、菊池らは、スキルなんて使ってなかったぞ。


 ……ひょっとして、俺だけが使えるスキルなのか?


 俺がもつ、加護【PPG『ファースト・ファイナル』】の効果?



 試しに、ステータスウインドウを開いてみた。


☆――――――――――――――――――――☆ 

レベル2

 加護【PPG『ファースト・ファイナル』】

☆――――――――――――――――――――☆


ずらずらと表示の並んだステータスウインドウを下までスクロールする。一番下にあったDLCって表示に、俺の目がとまった。


 ゲームと同じくボタン形式になっている。ゲームだったら、コントローラーでクリックするのだが……


 どうやって押すのだろう?


 考えていると、数秒とたたず、カーソルが頭の中で思ったほうに動くのに気づく。ボタンの上にカーソルをあてて、頭の中で押しているところを念じる。


 期待どおり、別のウインドウが開いた。


☆――――――――――――――――――――☆

 DLCを適用しますか?


・レベル20まで、経験値100倍(無料)

・レベル21~50まで、経験値20倍(無料)

☆――――――――――――――――――――☆


 これは、ゲーム『ファースト・ファイナル』のゲームバランスがあまりにもぶっこわれてたための救済措置だ。初心者にはゲームが難しすぎて、最初からなかなか敵を倒せない。それで、レベルも上がらない。という袋小路ふくろこうじおちいるのを解消するためのものだ。ゲーム発売後に、購入者からさんざんな批判を受けたため、このDLCが、後から無料で追加されたのだ。


 ゲームバランスがおかしいなら、本来ならモンスターの強さや戦闘システムなどを見直すべきだ。しかし、ゲーム制作会社に、そんな資金は残ってなかったようで、はっきり言って、超手抜きの救済措置だった。


 でも経験値100倍って……


 これ、ヤバイだろ。糞ゲーの中ならともかく、それが現実にまで適用されるなんて……。それも特別な【加護】を持つ俺だけ。



 はっきり言って、俺、チートすぎね?

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