第55話 選抜試験はじまる

  試験会場に選ばれた大学から歩いて20分ほどしたところに、C市のダンジョンはあった。


「わたしが、今回の試験官リーダーを担当することになった袴田はかまだだ。プロのA級《ランク》ハンターをやっている」

 受験生が集められた中、20代前半くらいの体格のいい男が俺達に言った。

「これから、C市ダンジョンに挑戦してもらう。ただし、後衛職や支援職の中には、1人では不利になる職もあるので、公平にするため、全員が自由に1人、パートナーをつれてきていいという話は、聞いてるな? 応募要項にも書いてたはず」


 え? そうなのか。応募要項、よく読んでなかったから知らなかった。

 まっ、いいか……。

 俺についてこれる奴なんてどうせいない。

 花凛も、パワーレベリングでそれなりにレベルあがったが、まだ俺の適性狩場の階層まで降りていく実力はない。


 元から記念受験だ。本気でやる気はない。不合格なら、それはそれでいいしな。


「ルールは単純だ。二人一組のペアチームで、どこまで深くダンジョンに潜れるかを競ってもらう」

 袴田はかまだが受験生たちを見渡す。


「装備も自分で用意したものを使用する。つまり、このテストでは、人脈や装備をあつめる財力も、実力のうちとして試されるわけだ」

 袴田が説明をつづける。

「もちろん、死んでしまってはいけないから、試験官のAランクのダンジョン・ハンター12人が護衛として、ペアチームのすぐ後方から同行する。ただし、護衛の12人は、ペアチームが優勢に戦えている間は、いっさい戦いに介入しない。が、少しでもペアチームが苦戦するような様子をみせれば、そこでテストは終わりだ。護衛が介入し、敵をたおして地上への帰還となる。いいな?」

「「「はーい」」」


「では、1番、王子誠志おうじせいしくん」

「はい」

 名前呼ばれて立ちあがったのは、中庭でキララにからんだ、正統派王子様キャラの、あの男だった。

 王子様、名字まで『王子』かよ。名字だからキラキラネームとはいえないけどさ。


『うおっ。センチネルソードだ。あの王子とかいうイケメン、いい武器もってんな』

『防具も強化補正のついたブリガンダインだぞ』

『いいなあ、俺も、あれ欲しかったんだよなあー』

『普通の高校生じゃ、高すぎて手に入らねーよ』


 王子が、洞窟の中にはいっていった。C市のダンジョンは、浅い階層は、かなり狭いが、奥にいけばいくほど魔物がどんどん強くなっていくタイプだ。5分くらいで戻ってくるかと思ったら、そこそこ時間が経過してる。


 待ってると、ふと、8人のダンジョンハンターのパーティが目に入った。俺達からすこし離れたところで、こちらを、ちらちら見ている。

 なんか、目つきが、一般人と比べておかしい気がする。ひょっとして魅了されているのか?

 となると、加護【乙女ゲームの主人公】を持つ西ノ宮千代が操ってる人物である可能性がたかい。


 確定じゃないが、あの千代とかいう女、なにか不正行為をしようとしてるのかも。だったら、心の中まで、完全に真っ黒だな。



「あんた、ダンジョンの中で深入りしすぎないように気をつけるのよ! あたし様があんたを負かすまで、死んだりしたら絶対に承知しないんだからねっ!」

 いつの間にか、俺の横に大宮司キララがいた。

「どうしたんだ? ガラにもなく心配してくれてるのか?」

「なっ。そんなわけないでしょ! バカッ!」

 眉を逆立てたキララの顔が、真っ赤になった。

「あんた、戦ってると、前後が見えないくらい、戦いだけに集中しちゃうでしょ。それを心配してあげてんのよっ!」

「まあ、その傾向はあるかもしれんが、ダンジョンでの進退の判断がまともにできなきゃ、レベリングで、とっくに死んでるだろ」

「ふんっ。どうだか」

 キララがぷいっと向こうをむいた。こいつ、ずっとこういうキャラなのかな?


 20分ちかくたって、王子たち一行が帰ってきた。


 みんなの前で、タブレットをもった試験担当の記録係が、読み上げた。

王子誠志おうじせいしくん、地下第二階層10分の9!」

「「「おおーっ」」」

 周囲から感嘆の声がもれる。


『あの王子ってイケメン、すごいな』

『10分の9って、ほとんど、地下第二層のボス部屋の前まで行ってるんじゃねーか』

『俺なんか、地下第一層ボスも倒す自信ねーわ』

『平日の昼間でもレベリングに時間をつかえるプロや、大学生の中でもひまな人たちと違って、高校生じゃ、ほとんどの奴は地下第二層までいけないと思うぞ』


「では次、神崎直也かんざきなおやくん」

「はい」

 俺が立ち上がった。


『あいつ、鉄の剣だぜ』

『しかも、ジャージじゃねえか。まともな防具もってないのかよ』

『ぷぷぷっ。笑っちゃうね』

 レベリングにより俺の聴力もあがっており、ひそひそ話がこっちまで聞こえてくる。まあ、いいけどさ。ただし、ダンジョン内で、おまえらがなにかの事故に巻き込まれてるところに遭遇そうぐうしても、助ける気はないからな。


「あれ? 君のパートナーは?」

 俺1人なのを見て、袴田がたずねてきた。


「いません、1人です。ダメですか?」


「いや、ダメじゃないが……、試験では不利になるぞ」


「それはかまいません」


「君がそういうなら、それでいいが……。では試験スタートだ」

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