第54話

 ようやく『国立ダンジョン専門高等学校』の選抜試験会場についた。


 試験会場といっても、某国立大学の校舎を借りて使用しているようだ。

 大学の校門を通りぬけようとしたところで、声をかけられた。


「おー、いたいた。こいつが、神崎とかいう奴だ」


 なんか、典型的な悪役雑魚キャラが立っていた。髪型もリーゼントと、絵に書いたようなヤンキー姿だ。

 隣町の高校の制服を着ている。とりまきらしい2人を両側にしたがえていた。


「ふふふ……、おまえ菊地を倒して、いい気になってるようだな」


 え? 俺の噂、校外まで響いてる?


 いやだなあ……。


 ここにいるってことは、こいつも『国立ダンジョン専門高等学校』の選抜試験受けるんだろう。

 ますます、『国立ダンジョン専門高等学校』に行きたくなくなった。


 無視して通り過ぎようとすると、腕をつかまれた。


「おい、待てよ。逃げようとしたって、そうはいかねえ」


「えーと……、なんすか? 俺、試験受けに行かないといけないんだけど」

 あー、めんどくせー。


「うるせえ。『国立ダンジョン専門高等学校』でトップはるのは俺だってことを、入学前から思い知らせてやる」


 いきなり殴ってきやがった。

 まだ入学前の選抜試験会場で問題おこすって、すごいやつだな。


 面倒くさいので、そのまま、パンチを顔面で受けた。


 『秘技、顔面受け!』、ってところだ。


「ぎゃああああっ!」

 リーゼントが悲鳴をあげる。見れば、パンチをくりだした右手の指がおかしな方向に曲がっていた。『国立ダンジョン専門高等学校』の選抜試験は、実技試験が中心だが、簡単な筆記試験もあったはず。入試当日に、自ら右手の指を骨折するなんて、救いようのないアホだ。


「えーと、もういいっすか? じゃあ、俺いきますんで。さいならー」

 リーゼントの取り巻き2人が、びっくりしたように目をむいて俺をみていた。



 俺は試験会場の建物へと向かった。こういうのは、そうそうに現場を立ち去るのが、それ以上のやっかいごとにまきこまれない秘訣だ。




 校舎の中庭までやってくると、見知らぬセーラー服姿の女が突進してきた。


 反射的に、俺は、右へとサイドステップしてかわす。


 なんと、その女は、誘導ミサイルのように方向をかえて、俺にぶつかってきやがった。


 なんて、女だ。


「きゃあっ」


 ぶつかった勢いで、女が倒れる。スカートの中が見えたが、こんな女のパンツみたところで、ぜんぜん嬉しくねえ。


「はっ……」

 倒れた女は、スカートが乱れているのに、いまさら気づいたように、立てていた両膝を、パッと床にふせて、スカートの乱れを直した。

 なんか、動きが全部わざとらしい。わざと、パンツが見えるように倒れた?


「……見ました?」

 顔を赤らめる。


 見てねえよ。見たくないもんが、意図せず目にはいってきたのは、たしかだが。


「ごめんなさい」

 女は立ち上がって、あせったようにペコリとお辞儀をした。「わたし、西ノ宮千代にしのみやちよといいます。今日、『国立ダンジョン専門高等学校』の選抜試験を受けにきました。よろしくおねがいします」


「…………」

 『国立ダンジョン専門高等学校』を受験に来る奴に、まともな奴はいないのか? 出会う奴、みんな変な奴ばかりじゃないか。普通なのは俺くらいのもんだ。



 千代ちよという女が、ちらっと俺を見つめた。


(なっ……)

 俺の背筋がぴくっとはねた。


 この女、俺にむかって、いきなり魔法を放ってきやがった。



《魔法【魅了】を、抵抗レジストしました》

 いつもの、天の声が空中から聞こててくる。


 いきなり『魅了』だと?! なんだよ、この女?

 こんな気持ち悪い魔法つかうのか?


 俺のレベルが高いから、魔法攻撃を抵抗レジストできたけど……。

 この女、いったい、どんな【加護】を持ってるっていうんだ?


 魅了という言葉だけなら、そこまで悪印象を持たない人もいるかもしれない。しかし、実際は自分にれさせて、魔法にかかった相手を自由自在に操ることができるスキルだ。悪辣あくらつきわまりない。


 千代が、一瞬、むすっとした表情になった。魔法を抵抗レジストされて、腹がたったらしい。ざまあ。いい気味だ。自分の能力に限界があることを知るがいい。


 思った瞬間、さらに、千代がちらっとこっちを見た。



《魔法【スリップ】を、抵抗レジストしました 》

 こいつ、また、俺を攻撃してきたぞ。



 『スリップ』も抵抗レジストされたのを見て、女がキッとおれをにらみつけてきた。

 おっ。本性があらわれてきたな。

 やだねえ。どすぐろい気にあてられて、こっちまで気分が悪くなってくる。



 すると、すこしして、1人の少女が通りすぎた。


 見知った金髪ツインテールだ。あの、大宮司キララである。


 キララと千代がすれ違う。


「ふんっ」

 キララが、千代を突き放すように鼻をならした。


 キララと千代ちよは、どうやら知り合いらしい。キララは、千代ちよ一瞥いちべつしてにらみつけると、たち去っていく。よっぽど嫌っているようだ。


 そのときだった。なにもないところで、キララが足をすべらせ、顔面からまともに地面につっこんだ。


 その姿をみて、千代がニチャーッと、悪どく笑った。


 こいつ、キララにも『スリップ』の魔法つかいやがったな。


「ちょっと、あんたーっ!」

 地面にぶつけた鼻を真っ赤にしたキララが立ち上がり、千代に詰め寄る。「今、あたし様に魔法つかったでしょ」


「え、なんのことですかぁー?」


「とぼけても無駄よ。そっちが実力行使に出てくるなら、こっちも、やってやろうじゃないの!」

 キララが拳をふりあげる。


「きゃあーっ」

 千代が悲鳴をあげた。


 そのときだった。



「おやめなさーい!」

 俺と同年齢くらいの、3人の少年があらわれた。どれもが絵に書いたような、超イケメンだった。


・正統派、王子様キャラ

・直情系、脳筋キャラ

・クール系、インテリ眼鏡キャラ

 といった感じの3人組。


 乙女ゲーの攻略対象であるかのような、ものすごいイケメンっぷりだ。



 いつの間に、ここが乙女ゲーの世界になったんですかね?


 さしずめ、


・千代という女が、乙女ゲーの主人公

・3人のイケメンが、乙女ゲーの攻略対象キャラ

・大宮司キララは、悪役令嬢

・俺は、モブの1人といったところかな?


 ちょっと、どうなってるのかわかりません。




 イケメンたちは、千代とキララの間に立って、千代を守るようにキララをにらみつけた。


「君、なにをやってるんだっ!」

 王子様キャラが怒鳴りつける。


「だって、その女が……」


「何があったかは、知らないが、暴力はいけないだろ」

「そうだぜ。金髪ツインテール、ものには限度ってものがあってだな」

「そのとおりですよ。選抜試験の朝から、もめごとはやめてほしいですね」

 王子様、脳筋系、クール系の3人が、キララを責めたてる。


 どう考えても、先に『スリップ』の魔法をしかけた千代のほうが悪いのに、完全にキララが悪者あつかいになっている。


 イケメンだけあって、男は3人とも身長180cm前後はありそうだ。長身の男が3人で、1人の少女を取り囲んで責め立てている状況だ。

 どっちが、イジメをしてるかわからねえ。



 なんでこんな状況になってるんだ?


 ……まさか、あの千代って女、他にもなにか、スキルか魔法つかった?



 他人の加護を、無断でのぞき見るのはマナー違反だが……。


 千代って女の性格があくどすぎて、良心の呵責を感じねえ。


 おれは、人目につかないように陰にかくれて、アイテムボックスから使い捨てのスクロールをとりだす。


 『鑑定スクロール』

 かなり貴重なドロップ品だが、ここは使処つかいどころだろう。


 千代と名乗った女に、『鑑定スクロール』を使用した。




「…………」

 なんだ、こりゃ?!


 さすがの俺も驚いた。

 これは酷い。なんだよ、このチートすぎる【加護】は?! 

 こんなの、ちょっとうまく使いさえすれば、簡単に世界征服だってできるぞ。



☆――――――――――――――――――――☆

西ノ宮千代にしのみやちよ 15歳


加護【乙女ゲームの主人公】



 加護による固有魔法

・【魅了】:相手を魅了し、自由自在に操ることができる。相手は自分に恋心を抱く。効果は男子に限る

・【乙女ゲー・フラグ】:誰かに責められていると、何故かイケメンが登場して、助けてくれる

・【聖女】:聖なる魔法がつかえる。魔王を含む魔族に対する大特効あり(パッシブ)


 加護による固有スキル

・【天使のような無垢な笑顔】笑顔で、相手をもて遊べるようになる。効果は男子に限る

・【いい子ちゃん】人前で、綺麗事ばかり言えるようになる

・【被害者ビジネス】自分が加害者だったとしても、被害者として振る舞い、イケメンたちから同情や利益を得ることができる

☆――――――――――――――――――――☆

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