第53話

 回復ポーション(弱)を、俺のアイテムボックスからとりだした。


 飲ませようとすると、少女が拒否した。

「いや、いらない……」

「いいから飲めよ」

「うぐっ」

 ちょっと強引に、無理やり飲ませた。


 ポーション(弱)だけど、これで立てるくらいには回復するだろ。

 かなりの金持ちみたいだから、それ以上の回復ポーションは、自腹で飲んでね。


 金髪ツインテールが立ち上がり、俺をにらんでくる。

「女の子の口に、硬くて長いものを無理やりくわえさせるなんて……。あんた、どういう性癖なのよっ?! 変態?」


「なにを言ってんだ、おまえは?」


「あたし様が無理やり咥えさせられてるところを想像して、今夜オナニーするつもりじゃないでしょうねっ! あー、男子って、ほんとうにけがらわしい!」


「誰がするかっ!」


「ふんっ」


 助けてやったのに、なんだ、この態度は?


「あー、わかったわ。ペラペラジャージ、あんた、『国立ダンジョン専門高等学校』を受けにいくつもりでしょ!」

 立ち上がった金髪ツインテールが、敵視したように俺をにらんでくる。


「覚えときなさい、『国立ダンジョン専門高等学校』に入学したら、絶対の絶対にあんたを打ち負かしてやるんだからっ!」

 金髪ツインテールが、ものすごく悔しそうに唇をかむ。


 あー、そうか。対魔物の戦闘力がかなりあって、俺と同じ方面に向かってるってことは、こいつも同じ学校の選抜試験を受けに行くところってわけだ。



 金髪ツインテールが俺を見る目つきは、まるで親のかたきにでも出会ったかのようだ。


 これって、異世界転生もののラノベだと、ふつう、馬車ハンヴィーに乗る美少女を助けたら、その子に惚れられたりするイベントだよな。


 なんで、俺は、そうならないの?


 わけがわからないよ。


「いいこと、あんたっ! あたし様があんたを負かすまで、絶対、他の誰にも負けるんじゃないわよ! あんたを負かすのは、このあたし様なんだからっ! ううっ……」

 とつぜん、涙目になる。泣くほどにくやしかったのかよ。

「他の誰かに負けたら、絶対の絶対ゆるさないんだからっ。ぐしゅっ……」

 鼻水までたれてるぞ。せっかく、美少女に生まれたのに、きれいな顔がだいなしだ。


「大宮司家当主(仮)カッコかりとして、あたし様は、誰にも負けるわけにはいかないのよ!」

 金髪ツインテールは、涙目のまま両手の拳をぎゅっとにぎり、ちょっと悲壮な顔つきになった。


 大宮司家って、一代で築き上げた大手総合商社の経営で有名だったはず……。今や、クリーンで扱いやすい新たなエネルギー資源となった魔石などの取引で、大宮司商事の株価はうなぎのぼりだ。


 こいつ、この歳で当主なの??


 そういえば、数ヶ月まえに初代当主が死んで、お家騒動がどうたら……、みたいなことニュースでやってたな。


 ややこしい家庭の事情がありそうだ。



「あたし様の名前は大宮司キララ! 覚えておきなさいよ!」


「…………」


 まあ、いいけどね。俺は記念受験組だ。じっさいに『国立ダンジョン専門高等学校』に通うつもりはないし。

 せいぜい、今後、試験会場で顔をあわすだけで、それ以後は、もう会うこともないだろう。


「ちょっと、待ちなさいっ!」

 歩み去ろうとする俺を、キララが呼び止めた。


「……助けてくれて、あ、あ……、ありがとう」

 勝ち気な少女の顔が、すこしばかりしおらしくなった。感謝することになれてないせいか、声が震えてる。


 なんだ、かわいらしいところもあるじゃないか。


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