第80話

 SSRガチャの魔物が、ついに俺たちの前に出現した。


 それは、サーカスにでてくるピエロのような格好をした魔物だった。


「お初におめにかかります。わたくしは『ゲームマスター』と呼ばれる魔物でございます。以後お見知りおきのほど、よろしくお願いいたします」

 ピエロは芝居がかった大げさな態度で、一礼をした。


「『ゲームマスター』の圧倒的な強さは、実際に戦った人間にしかわからないぞ」

 メガネ少年は、すでに戦いに勝利したかのような満足顔だ。「恐怖に震えるがいい! あはは……」



「これから、あなたたちには、3つの試練を受けていただきます」

 ピエロが、邪悪そうなゆがんだ笑みをもらす。


「どうして、ご主人さまが、あんたなんかの言うことをきかないといけないのよっ!」

「ピピーッ!」

 翔子2とピピが、ピエロに襲いかかった。


 ドンッと大きな音がなる。


「きゃっ!」

 翔子2とピピの突進は、見えない壁にはばまれていた。翔子2とピピの身体がはじきとばされる。


 うしろ向きに地面に倒れ込もうとした翔子2の身体を俺は抱きとめた。ゆっくりとした動作で翔子2を立たせてやる。



「フフフ……。この場には、あなたたちごときでは決して破れない結界を張らせていただきました」

 ピエロは、勝ち誇ったように、ニタニタといやらしそうに笑った。「なに……、3つの試練というのは簡単なものですよ。だた、3つのゲームで、対戦して勝てば、最終的にあなたたちの勝利というわけです」


「あはははは……!」

 メガネ少年が、すでに勝利が確定したかのように上から目線で高笑いをする。「これが、僕の最強SSRの魔物『ゲームマスター』の能力だ。! 『ゲームマスター』は、ゲームの達人! それこそ、おかしいほどのゲーム好き廃人でもなければ、ゲームで『ゲームマスター』に勝つことなんて絶対に不可能なんだよ! はははは……!」


 メガネ少年の笑い声に同調するように、ピエロが自信満々の表情で前にでた。

「では、まず、第1の試練です! 最初はクイズでございます。早押し勝負ですよ! こちらが、わたくしの従魔、『クイズ王くん』でございます」

 ピエロが、瓶底眼鏡・学生服に角帽をかぶった身長50cmくらいの二頭身チビキャラの魔物を召喚した。「この『クイズ王くん』相手に、10問のうち1問でも早押しで勝ち、正解を答えることができれば勝利です。ちなみに『クイズ王くん』の早押し速度は、1ミリ秒に設定してございます。事実上、人間では不可能な反応速度でございますね! クククククク!」


 俺の眼の前に、突然、クイズ番組の解答者が答えるような解答台が2つ出現した。台の上には早押しボタンがある。


「なお、わたくしの結界の中で勝負に負けると、強酸性の液体を全身に浴び、全身を溶かされながら死んでいくことになります! これがとても痛くて苦しいのですよ。耐え難い痛みに全身をうち震わせ、もだえ苦しみ、のたうち回りながら、死んでいくことになるのです! とっても恐ろしいですよね。恐怖にふるえていいのですよ。オホホホホ……!」


 『クイズ王くん』が解答台の前に立つのにあわせて、俺も解答台についた。


 クイズ問題を出そうと、ピエロが口を開いた。

「では、だいいちも……(ん)」

         ピポーン! 早押しボタンを押した音がなった。


「えっ???」


「ポロロッカ!」

 早押しボタンを叩いた俺が叫んだ。


「ちょっ、まだ問題、なにも言ってないんだけど……?!」


「ポロロッカぁーっ!!!」

 俺はさらに大声で叫んだ。


 ピポ・ピポ・ピポーン!

 正解をあらわす音がなった。


「ぎゃああああっ!」

 『クイズ王くん』の身体が煙をあげて溶けていく。「うぎゃぎゃぎゃぎゃあああっ!」

 耐え難い痛みに全身をうち震わせ、もだえ苦しみ、のたうち回っている。


「ど、どうして、答えを知っている?」

 ピエロが強張こわばった顔で叫ぶ。メガネ少年は、驚きを通り越してポカーンとした顔で俺を見ていた。


 メガネ少年のガチャは、ゲーム『ファースト・ファイナル』に実装されたものではなかった。しかし、出てきたピエロの魔物『ゲームマスター』は、間違いなく『ファースト・ファイナル』に登場したキャラだ。中盤にでてくるボスの一匹である。


 こいつと遭遇すると結界にとじこめられ、まずはクイズの早押し競争となる。しかし、最初に遭遇したときの第一問の答えは『ポロロッカ』と決まっていた。


 『クイズ王くん』の身体が完全に溶けて消える。


「コホン……。わ……、わかりました。第1の試練は、あなたの勝ちです。なかなかやるようですね」

 咳払いを一つして、ピエロが気を取り直したように、続けようとする。


「では、第2の試練ですよ。これから、ますます厳しくなっていきますよ。第2の試練、それはデスゲームでございます。フルプレートを装備したあなた、そしてそちらのメイド服の少女、さらにセキセイインコさん、ようこそいらっしゃいました。そこで今日は皆さんに、ちょっと殺しあいをしてもらいます。オーホホホホ!」

 ピエロは、ひどく偉そうな態度であざ笑う。「最後に生き残った1人が勝利者です。もちろん制限時間を過ぎて複数が生き残っていると皆が死ぬことに……、ぐはっ! ギャアアアアッ!」

 俺の拳が、ピエロの頬にめり込んでいた。


 パンチの勢いで壁に手ひどく叩きつけられ、地面に倒れ込んだピエロが、殴られた頬を痛そうにおさえながら目をむく。

「ど、どうやって結界を破った……?!」


 このピエロが張れる魔法結界はLv.5。本来、今の俺のステータスでは破壊できない。だが、俺には、ぶっ壊れ性能の有料DLCイレブンナイン・ミスリルソードがある。この武器でなら『魔法結界 Lv.5』の破壊は可能になるのだ。マジで、この装備のせいで、ただでさえおかしかったゲーム『ファースト・ファイナル』中盤のゲームバランスが、さらにむちゃくちゃになった。


 倒れたピエロを見おろしながら、俺は叫んだ。

「うるせー! いつまでもゲームマスターゲームを支配する者を気取ってんじゃねえ! これから、ぶちのめされるのはおまえたちの方だ。震えろ!」

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