第81話

 ピエロが立ちたちあがった。ペッと、血のまじったつばを地面に吐き捨てると、大胆だいたんに笑う。

「わたくしの結界を破ったくらいで、いい気にならないでほしいですね。わたくしはただの『ゲームマスター』ではありません。素の戦闘力でも、あなたたちを圧倒しているのですよ! ホーホホホ!」


「ふんっ、結界のないあんたなんて、翔子2の敵じゃないのーっ!」

「ピピーッ!」

 ピエロに翔子2とピピが飛びかかる。


 ピエロが、これみよがしに地面でぐるぐると前転をしはじめる。

「ローリング! ローリング! ローリング! 連続回避ローリング。ほらほら、攻撃を当ててみてください。これがわたくしの回避技、連続ローリングですっ! ほら、前ローリング回避! 右ローリング回避! 後ローリング回避! この回避に攻撃があたりますかーっ! クハハハ!」


「変な動きで、ちょこまかとぉーっ!」

「コウゲキがアタラナイ、ピピーッ!」

 ピエロの変則的な動きに、翔子2とピピが攻めあぐねている。


「どうですか? わたくしの動きについてこれますか? わたくしの動きは、変幻自在。それを見切るのは不可能です!」


「もぉーっ! どうして攻撃があたらないのーっ!」

 翔子2が、自分の身体の一部を変化させた二刀流の黒い剣を両手にもち、振り回す。しかし、2本の剣はなにもない空間を斬るだけだ。


「ピーッ!」

 ピピの電撃攻撃も、みごとに全部かわされている。


「これで、わたくしの本当の実力がわかりましたか? クーククク! ……では、わたくしの実力をわかっていただいたところで、もうお遊びの時間はおしまいです! 死んでもらうとしましょうか。」


 翔子2が剣を振り下ろした直後の隙をついて、ピエロがカウンターぎみにスタンをいれた。


「あららら……」

 翔子2が目を回し、身体をフラフラと揺らす。スタンがはいって、のだ。ピヨると、数秒間、完全に無防備な状態となるので、このままだと攻撃を入れられ放題になる。


「では、これでお別れです。死になさい! さあ、これがあなたの最後です!」

 ピエロの指の爪が鋭くのびた。そのまま、翔子2の喉元へと指先を振りおろす。


 キーンッ!


 高い金属音が鳴りひびいた。


 俺が翔子2とピエロの間に割ってはいって、剣でピエロの爪を受け止めたのだ。


 攻撃を受け止められたピエロは、ムッとした表情で不機嫌そうに唇をゆがませた。俺をにらんでくる。

「あなたから、先に死にたいのですか? では、お望みどおり殺してさしあげましょう!」


 ピエロの爪の連続攻撃がはじまる。

 俺はステップバックしながら、ピエロの攻撃をかわす。ピエロが強攻撃をする前の、わずかな予備動作の気配。ひじょうに微妙な動作なので上級者でも見逃してしまいがちだが、それを見切ってからの、さらにステップバック。間髪いれずに、強攻撃を避けてからのダッシュ突き。


「ぎゃああああっ!」

 ピエロが悲鳴をあげる。俺が持つ剣がピエロの肩に突き刺さっていた。


「くうっ……」

 一瞬、ピエロはひるんだ様子を見せたが、すぐに、ふてぶてしく笑った。


「今のは少しだけ油断していました。これからは、本気でいきますよ! ローリング回避! ローリング! ローリング! ローリング! どうですか? 前後左右と自在に回避できるわたくしの素晴らしい技は?! この技を、見きることは不可能…うぎゃああああ」

 俺の剣がピエロの腹に命中していた。


「ど……、どうして攻撃があたるのですか……?!」

 ピエロが刺された自分の腹を見ながら、愕然がくぜんとした表情になった。


 通称『ロリ狩り』。

 ゲーム『ファースト・ファイナル』では、連続ローリング回避中、ずっと当たり判定がなくなるわけじゃない。ローリングが終わって次のローリングを始めるまでの間の一瞬だが、当たり判定が発生するのだ。それにタイミングに合わせれば、連続ローリング回避中でも攻撃が入る。このタイミングは結構シビアなのだが、俺のプレイヤースキルなら100発100中だ。


「お前の言うとおり、もう、お遊びの時間はおしまいだ」

 俺はピエロを見すえながら、静かに言った。

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