第36話

【一人称 主人公の視点】


 今朝も花凛はなりと、一緒に登校した。




 学校に行く途中で、オーガがいた。


 最近では、路上でもそこそこ強い魔物が増えた気がする。


 スライムやゴブリンはそこまで強くなく、一般人でも、バットなどを手にして数人で囲めば、簡単に討伐できる。しかし、オーガがでてくると、警察の機動隊がでてくるような事態になる。


 オーガは、花凛をタゲっていた。


「ひゃっ」

 花凛が身体を震わせる。「怖いよぉー。たすくん助けてぇー」


 俺は、なにもせず、オーガを怖がる花凛をじっとみていた。


なおくん、超強いのに、なんで助けてくれないの。ひどいようー」


 花凛の助けを求める言葉に、俺は微動だにしなかった。


 オーガが花凛を攻撃しようとする。


「いやっ。向こうにいって!」

 花凛が目をつぶって、オーガを避けるように腕を振るった。


 一瞬で、オーガの身体が、四散して飛び散っていた。


「え? なにがおこったの?」


「オーガなんて、もう花凛の敵じゃないってことだよ。ダンジョンでパワーレベリングした今の花凛なら、ワンパンで終わりだ」


「えーっ?!」

 花凛が驚いた顔になった。「わたし、超つよくなった?」


「いや、オーガくらいで甘えてたらだめだぞ! まだまだ強くならないとな。今日も放課後から、ダンジョンでパワーレベリングだ」


「あーん。なおくんのパワーレベリング、厳しんだよぉー!」


   ☆☆☆


 窓ガラスが割れまくった教室にくると、ひどいありさまだった。


 教室の後ろの方では、机を並べて、最近、菊池の傘下さんかに入った高校デビュー組のヤンキーたちが麻雀卓を囲んでいた。


「教室くさいよ。だれか、シンナー持ち込んだでしょ」


「今日はエロ本を大量にもってきたから、みんなで回し読みすんぞー」

「男子、最低ーっ」


 菊池傘下の別の数人の生徒たちは、酒瓶を机の上におきながら、堂々とタバコをすっている。


 菊池傘下のヤンキーの一人が叫ぶ。

「だれか、コンドームもってない? これからセックスするから、貸してくれ」


 教室の中が世紀末すぎるだろ。どんなカオスだよ。菊池の傘下に入る生徒が増えて、学級崩壊が起こっている。




 教室の前の窓際では、例の萩原モヒカンが、バイクで転倒して怪我した脚をひきずりながら、このクラスの花井という男子生徒をおどしていた。


「花井よう、おまえも『ドラゴン菊池連合』に入るんだろな? おまえの友達の安井や西川も入ったぞ」


 最近、この学校では、菊池の手下が、『ドラゴン菊池連合』の構成員になるように、生徒たちを勧誘かんゆうしまくってるらしい。さらに、急速に組織を拡大しようとしているようだ。手下には、勧誘する人数がノルマとして課せられてる。


 花井・安井・西川は、このクラスの生徒で、アニメオタクだ。教室でも、3人でいつもアニメ談義に花を咲かせていたのを覚えている。


「『ドラゴン菊池連合』に入るのは、ちょっと、か……、考えさせてください」

 花井が言った。

 萩原モヒカンが、さらに花井をおどす。

「菊池くんににらまれたら、もう終わりだぞ。どこにも逃げても、つきとめて、追いかけられる。それからどうするか知ってるか?」

「知らないです……」

「まず、ダンジョンにつれこむ。そうして、最初に脚を折るんだ。立てないようにしてから、安井や西川みたいな新入りに金属バットをもたせて、頭をなぐらせるんだよ。本気でやらないと、安井や西川みたいな奴も、幹部からヤキを入れられるから必死になるんだ。でも、新入りは、殴るときの足腰の力の入れ方がわかってない。中途半端な攻撃になる。だから、殴られたやつは、すぐには死ねない。苦しんで苦しんで、血まみれになって、のたうち回って死んでいくんだよ」


「で、でも……」

 花井が恐怖に真っ青になった顔で言う。


「でも、なんだ?」

 萩原モヒカンが、花井をおどしつける。


「神崎くんが、菊池くんのグループをつぶすって、この学校の生徒たちが噂してる……」


 え? 俺の方に、話題きた? 


「ばかやろう、神崎になにができるってんだ」


「でも、神崎くんって、すごく強そうだし。本当に戦えば菊池くんでもかなわないかも……」

 花井がちらっと俺の方をみながら言う。


「うるせー。いいかげんにしろ。『ドラゴン菊池連合』のような大組織が本気でかかれば、個人なんかが勝てるわけないだろ! 今、おまえの前でそれを見せてやる!」

 萩原モヒカンは、いきり立っていた。


「おい、それをはやくかせ」

 萩原モヒカンが、背後で荷物持ちをさせていた西川に命令する。


 萩原モヒカンが、西川から受け取ったのは、長尺の日本刀だった。日本刀がさやから抜かれる。血に飢えた、ギラギラと輝く白刃はくじんがむき出しになった。萩原モヒカンは、あからさまな殺意をはらんで、俺をにらみつけ、ずかずかと、歩みよってきた。

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