第113話 スケルトン・ウォーリア戦



 突如、8体のスケルトン・ウォーリアがあらわれ、ハンター協会の建物の中がパニックになる。


「きゃあーっ!」

「どうして、こんなところに大量の魔物がっ!?」

「逃げろーっ!」


 ザッ、ザッ、ザッ!

 スケルトン・ウォーリアが迫る。



「くそっ! どうして、地上に強力な死霊アンデッドが!?」

「ハンター協会が大量の魔物に襲撃されたなんて聞いたことねえ!」


「ちくしょう、やるしかないぞ!」

 リーゼントの髪型をしたハンターの叫び声が、戦いの狼煙のろしを上げた。一斉に、ハンターたちが武器をかまえる。


 最前列には赤髪のガタイのいい女性ハンター。巨大なついを手に、必死にスケルトンの攻撃をかわそうとする。

「なんだよ、こいつらはっ! 強さがおかしいだろ!」


 スケルトン・ウォーリアは、レベル52。民間のSランクハンターのフル・パーティ数組で集中して、なんとか同時に一体を相手にできるかどうかってところだ。




 スケルトン系は複雑な動きができず、動きのパターンが単調なので、ダンジョンハンターたちも、かろうじて対応している。が、レベル差のために攻撃はカスダメしかはいらない。

 戦いが長引けば、体力無限の死霊アンデッドに彼らが勝てる可能性はゼロだ。


「非戦闘員は、建物の裏口から逃げるんだーっ!」

 リーゼントが、身をていしてスケルトン・ウォーリアを止めようとする。


「「「きゃあーっ!」」」

 ハンター協会の事務員たちが、建物の奥にある通用口へと殺到する。


「おっと。逃がしゃしねえよ」


 ここからは死角になって見えなかったが、例の大宮司商事専属のSランクハンターの2人(パンクファッションと全身黒皮)の声が、聴覚まで超向上している俺の耳に聞こえてくる。おそらく、2人が通用口の前に立ちはだかっているのだろう。

 大宮司グループめ、ハンターでない事務員までふくめて皆殺しにするつもりか。証拠隠滅のために目撃者を一切残さない気だな。



 ここで、俺が素のまま本気を出したら、目立ちすぎる。

 いつぞや、大宮司グループのハンターを追い払うのにダンジョン内で使った、有料DLCのネタ装備、吸血鬼の黒い衣装も地上では同じように目立つだろう。



 しかたないなぁ……。あれやるか。


 俺は、他の人から見えない物陰に入ると、脳内で叫んだ。

『翔子2、例の変身だ!』


『わかりましたですぅー!』


 天井の通気口から、真っ黒なスライムのような物体がボトッと落ちてくる。『隠蔽スニーキング』の魔法がかかっているので、パーティを組んでるメンバーの俺以外の人間は気づいてない。



 黒いスライム――実際はショゴス・ロードの翔子2が、ピョンとジャンプして、俺の全身を包む。


 建物にあった鏡に俺の姿がうつった。


 たちまち、俺の外見は変化して、20歳くらいの女の姿になっていた。


 身長は元の俺のままなので、女子バレーボール選手のように背が高い。


 ショートヘアーの黒髪。俺にそっくりの姉さんがいたら、こんな感じかもしれない。

 豊満な胸の膨らみはともかく、男の俺より肩幅は狭いし、腰は細い。黒づくめのライダースーツ。

 どういう仕組になっているのか全くわからないが、翔子2が俺の表面を包み込み変形してできた姿だ。




 愛用のイレブンナイン・ミスリルソードは目立つので、アイテムボックスにあった『ダマスカスソード』を手にした。


「やあーっ!」

 俺の口から、好きな女性声優そっくりの声がでた。本当にどうなってるのか、わからない。


 元からレベル上昇で、俺のパワーは常人をはるかに超えるほどまで向上している。が、ショゴス・ロードの肉体を持つ翔子2が、いわば外骨格型のアシストスーツとして働くのだ。その強靭きょうじんさは、まさに神話クトゥルフ級。


 パワードスーツを着込んだ超人状態である。常軌を逸した壮絶なパワーが生み出される。


 『ダマスカスソード』を一振りした。

 Sランクハンターでさえミリ単位でしかHPを削れないスケルトン・ウォーリアの体が、一撃でバラバラに四散した。まるで砕け散るガラスのようだ。


 自分でもあきれるほどの高火力だった。



 次のスケルトン・ウォーリア目指して、力強く跳躍する。


 だが、現在の自分の脚力を見くびってしまっていた。


 俺の体が異次元のジャンプ力を発揮して跳ね上がった。空中で体がクルクルと回転する。俺は、建物の天井をぶち破り、さらに上の階の天井をもぶち破り、屋上の屋根を形成する鉄筋コンクリートの鉄骨に、おもいっきり頭をぶつけてしまう。


 力の加減が、わからない。


 鉄骨が大きくひんまがった。俺の頭も痛い。

「うおーっ、ててて……」

 中毒性のある鼓膜を撫でるような、人気女性声優の声質が俺の口からもれる。




「くそーっ」

 ちょっとして、痛みがましになった。立ち上がり、自分で開けた穴から1階へと飛び降りた。


 近くのスケルトン・ウォーリアに向かって突進する。剣をぐ。


 ガシャーン!


 マジで、高級クリスタルグラスが砕け散るような音が響く。

 ガラス工芸の花瓶を、2階からアスファルトに叩き落とした時のような壊れ方。



「くぅ……。あたしも、ここが最後かね……」

 赤髪のガタイのいい女性ハンターが吐き捨てるようにつぶやいていた。赤髪は、2体のスケルトン・ウォーリアに挟まれ、窮地におちいっていた。


 俺の体が反応した。

 ジャンプ!

 今回はうまくジャンプできた。

 ものすごい勢いで加速する。まるで体が大排気量の大型バイクになったみたいだ。

 一気に間合いが詰まった。



 ガシャーン! ガシャーン!


「3体目! ……4体目!」


 赤髪を取り囲んでいたスケルトン・ウォーリアをたちまちのうちに粉砕した。


「はぁ、はぁ……。姉さん、すごいね。おかしいくらいの強さだったよ」

 と、赤髪。「助かったよ! あと30秒も戦いが続いたら詰んでるとこだった。ありがとよ」


「……別に礼はいい」

 俺は無愛想に言って、さらに走った。


 ガシャーン! ガシャーン!  ガシャーン!


「5体目! 6体目! 7体目!」


 最後の1体は、リーゼントが戦っていた。防戦一方に押されている。


「うりゃあーっ!」

 俺が力強い雄叫びをあげる。が、口から出てくるのは、やたらかわいい萌え声だ。


 ガシャーン!


「8体目討伐! スケルトン・ウォーリアはこれで終了!」


「ふう……。命拾いしたぜ。恐ろしいほどに強いな、あんた」

 と、リーゼントが冷や汗をぬぐう。「ありがとよ。超凄腕だが、ここらじゃ見ねえ顔だな」


「ただの通りすがりさ」

 俺が答えた。




 ――「おいおい、どこに行くつもりだ?」

 ここからは死角になって見えないが、通用口の方から、大宮司商事のSランクハンターの1人であるパンク野郎の不敵な声が聞こえていた。

「残念だが、ここでみんな仲良く死んでもらうぜ」

 と、もう1人の全身黒皮の声。


「た、助けて!」

「お願い、逃がして!」

 事務員たちの悲鳴が響く。



 ……さて、最後の仕上げといきますかね。今の格好なら身バレはしないだろうしね。




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