第120話
【一人称・主人公の視点】
・俺
・翔子2
・ピピ
の3人が、C市ダンジョン、地下第7階層まで降りてきたところだった。
『ご主人さま!』
翔子2が叫んだ。『探知の魔法に、新たな脅威が接近中! レベル探知不能。こっちに向かってきてますです!』
探知の魔法は自分よりもレベルが上のもののレベルは知ることができない。本来、この階層にそこまで高レベルの敵は出てこないはずだった。
やはり、奴が来てしまったか……。俺は、そいつに覚えがあった。
どうやら、俺の嫌な予感はあたってしまいそうだ。
ダンジョンの広間。奥の通路から、そいつはゆっくりと現れた。
タキシードにマント姿。
魔物は、俺達の前に進みでてきた。
「おやおや、これは驚きました。まさか、あなたたちがワーウルフを倒したのですか?」
「だとしたら?」
魔物の問に、俺が答えた。
「装備を見る限り、思った以上に低レベルに見えるのですが……」
俺の装備は、いつもの上下で2480円のジャージ姿。そして、アイテムボックから新たに取り出した『鉄の剣』だ。狩りでのドロップ品として『鉄の剣』は大量にあまっていた。
「まあ、おまえに比べれば、そんなにレベルは高くないがな」
今の俺のレベルは39。俺がレベルよりも遥かに高い戦闘力を出せるのは、有料DLCのぶっ壊れ装備と、なにより圧倒的に高いプレイヤースキルのおかげだ。
「おや? まさか、わたくしのレベルを知っているかのような口ぶりですね」
「当然だ。俺は、おまえを知っている……」
「ほう、どのように?」
「人間の心とヴァンパイアの体、そして、ロボットのような流動的金属板を多層に重ねた左腕を持つ機械融合生命体。その名は『デジタル・ソウル』だ」
ちぃ……。俺は舌打ちした。
こいつが出てくるということは、すでに、あのストーリーイベントが最終段階の一歩手前まで進められてしまっているということだ。
……最悪だった。
「よくご存知で……。どこでその情報をお知りになられたのかは分かりませんが、もはや、どうでもよいことです。今日があなたの最後になるのですからね!」
ビュッ!
突然だった。デジタル・ソウルの左腕が、まるでゴム人間のように伸びてきた。完全な不意打ちだ。
とっさに俺がサイドステップで避ける。ビュンッという風切り音とともに、デジタル・ソウルの腕が目の前をかすめていった。
「伸びる腕か……。そういや、こんな攻撃の仕方だったな……」
俺は一年以上前にゲーム『ファースト・ファイナル』で戦ったときの記憶をよびさます。
デジタル・ソウルの
デジタル・ソウルは眉をひそめ、明らかに困惑した表情を浮かべた。
「ほお……、今のを
ガキーン!
ものすごい突進だった。デジタル・ソウルの前腕が剣のように変化し、閃光のごとく振り下ろされる。
刹那、俺は背中に背負った『鉄の剣』を抜いて受け止めた。剣の柄から腕に強い衝撃がつたわる。
今回も不意打ちのように突然攻撃してきた。こいつ、不意打ち攻撃好きすぎだろ。
パキーンッ。
「あらら……」
俺の鉄の剣が折れていた。今日、2本目か……。
さすがに、今の攻撃には耐えられなかったか。まあ、在庫はいくらでもあるから、別にいいけどね。
「おかしいですね。今のは、S
言ってる間に、左腕が
「うおっ。ヤベッ!」
俺が叫んだ瞬間……、
ドドドドドッ!
六銃身が回転をはじめ、火を噴くような勢いで弾丸が飛び出した。毎分4000発もの猛烈な勢いで7.62mm弾が打ち出される。
発射された弾丸が雨あられと俺の体に降り注いだ。
ドドドドド……!
大量の煙が舞い上がり、俺の体が包まれる。
「さすがに、これには耐えられませんでしたか……」
デジタル・ソウルは、左手の六銃身の回転を止めていった。その表情には、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。
次第に、舞い上がった土埃が消え、視界が戻ってきた。
「たしかに今のは、ほんのちょっとばかりヤバかったかもな」
俺が答えた。「ゲームでプレイしてたときはわからなかったけど、リアル世界で銃弾をうけると、衝撃だけでもちょっと痛い」
デジタル・ソウルの表情が一変していた。
「そのご装備は、いったい……?」
デジタル・ソウルの目が大きく見開かれる。
俺は瞬時に、アイテムボックスに収めていたイレブンナインミスリル製のフルプレートアーマーで全身を覆った。こいつなら、12.7mm重機関銃の徹甲弾さえも防ぐことが可能だ。
「この私でさえ見たことのないご装備を、何故人間ごときが……? 一体、どこでそれを手に入れた?」
「まあ、お前が知らなくて当然か」
「そんな口をきけるのも今のうちだ! 小僧!」
もはや、丁寧な口調も忘れて、デジタル・ソウルが襲いかかってきた。
左腕が巨大な
「図に乗るな! 死ねっ!」
デジタル・ソウルが全力で
「おっと、ついに本気モード?」
俺は軽々とイレブンナイン・ミスリルソードを構える。デジタル・ソウルの攻撃を迎え撃つ。
ガキーンッ! ガンッ! ガンッ! ガキーンッ!
デジタル・ソウルの狂ったような連続攻撃。凄まじい衝撃音が響きわたった。
「なぜ、なぜだぁ! なぜ、私の攻撃を全て受け止められる?」
「そりゃ、おまえの鉄槌の使い方が下手くそだからじゃね?」
「そんなわけあるかっ! 私は……、私は、人間をはるかに凌駕した機械生命体だぞっ! 人間ごときがかなうわけがっ!」
デジタル・ソウルが、俺めがけて力任せに槌をふるった。
ガキーンッ!
「ぎゃああああっ!」
デジタル・ソウルの悲鳴が轟いた。
デジタル・ソウルの左手の前腕部がこなごなに割れ、バラバラになった破片が地面に落ちていく。
「ふっ。今回はこっちの武器のほうが、ちょっとばかり硬かったみたいだな。はは……」
俺がニヤリと微笑んだ。
「ば、馬鹿な……こんなことが……」
デジタル・ソウルは信じられないという表情で、自分の壊れた左腕を見つめている。
「まあ、おまえの強さはこんなもんだったな……。さて、ゲームオーバーだ。もっと強くなって生まれ代わってきたら、また今度、遊んでやるよ。あばよ!」
「ば、バカな……。ぐわあああっ!」
洞窟の中、デジタル・ソウルの悲鳴がこだました。
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