第108話

  【三人称・赤阪一郎視点】



 A市ダンジョンの入口前に、40人ほどの人影あった。ダン校のA組の生徒たちと、あたらしく赴任した赤阪一郎ら4人の指導員である。


「日本政府からも、ダン校の生徒たちをできるだけ早く一人前のダンジョンハンターに育ててほしいという通達がきている。これから、実戦形式の演習が増えるだろう」

 赤阪は地面にしゃがませた生徒たちを見下ろしながら言った。


 その中には、西ノ宮千代や王子たちの姿はない。彼らは退学処分となり、懲戒免職となった大河原権三とともにダン校を去っていった。


 そんな過去を振り払うように、赤阪は声をあげた。

「君たちそれぞれの能力の確認を兼ねて、実際に狩りをしていくぞ」


「先生ー、今日のメインの狩り場は、地下第何階層になるんですか?」


 一人の男子生徒がたずねた。


「君たちには、地下第8階層で狩りをしてもらう」


『第8階層って、俺達のレベルで大丈夫か?』

『ぎりぎりくらいだぞ。安全マージンがほとんどない』

『下手すりゃ死人でるんじゃね?』

 生徒たちの間から不安の声が上がる。


 赤阪はそれに動じることなく、落ち着いた声で説明を続けた。

「安心してくれ。護衛としてわたしと、おなじく大宮司商事の社員である鈴木美咲指導員、そして他にも2人のSランクハンターが来てもらっている。鈴木指導員もAランクハンターだ」


『Sランク3人とAランク1人が護衛か』

『まあ、それなら……』

『敵が強いほうが、レベルあがるのも速いしな』

 緊張していた生徒たちの表情が、少しゆるんだ。


「今回の主な狩りの対象は岩石ゴーレムだ。結構な大きさだから、チームワークがためされるぞ。岩石ゴーレムはクリティカル攻撃がないから、適切な戦いをしていれば死ぬことはない。ある意味、かなり美味うまい狩りとなるだろう」


  ☆☆☆


 地下第7階層の広々とした空間に緊張感が漂っていた。赤阪はダン校A組の40人の生徒たちを率いて、目の前にそびえる岩石ゴーレムと対峙している。


「よし、全員準備はいいか?」


 赤阪が力強く声を張り上げる。生徒たちはそれぞれのポジションに散開した。


「相手は岩石ゴーレムだ! 動きは鈍いが、体は硬いぞ!」

 文字通り、岩でできたゴーレムだ。体高は5メートル弱ほど。


 赤阪は叫んだ。

「弓や魔法攻撃の遠距離組から、まず攻撃する! 動きを鈍らせるために脚を集中して狙うように。少しでもダメージを増やすことを意識しろ!」


「「「はい!」」」


 生徒たちが応じ、攻撃をはじめた。ゴーレムの脚に数々の攻撃があたりはじめ。動きが鈍っていく。


「よし。前衛組、前に出ろ!」


 赤阪の合図で、剣や槍を持った生徒たちが一斉に進み出た。ゴーレムを左右から囲むように攻撃する。


「岩の間を狙って斬れ!」

 赤阪の指示に従い、生徒たちはゴーレムの足元や関節部分を狙って攻撃を仕掛けていく。


 ガキンッ!ガキンッ!

 ゴーレムの体は硬く、なかなかダメージを与えることができない。


かてえ……!」

 剣を持った生徒のひとりが言った。


「岩の隙間を狙え! そこなら多少は柔らかい!」


 生徒たちは赤阪の指示に従い、ゴーレムの岩の隙間を狙って攻撃を続けていく。


「よし、後衛は、前衛に当たらないように、攻撃をゴーレムの上半身に集中させろ!」


「「「はい!」」」




「やった、かなり動きが鈍ってきたぞ!」

 生徒の1人が言った。


「よし、一気に攻撃をたたみかけるぞ!」


 赤阪の合図とともに、生徒たちは一斉に攻撃を再開する。


 剣が岩にぶつかり、ゴーレムの脚のヒビがふえていく。


「もう少しだ!」


 赤阪の声が響き渡り、生徒たちが攻撃を続ける。そのとき、ゴーレムの体が大きく揺れた。


「GUOOOO!」


 ゴーレムのうめき声が響き、ついにその巨体が崩れた。生徒たちは歓声を上げた


「やった!倒したぞ!」



「いいぞ、みんな。その調子だ!」

 赤阪は声を張り上げる。


「思った以上に狩れるな」

「こりゃ、今日中に、レベルがひとつ上がるかも」

 生徒たちが嬉しそうにささやきあう。


「よし、次のゴーレムにかかるぞ。気を抜くな!」


「はい、先生!」



  A組の生徒たちは、順調に狩りをすすめていく。



 生徒たちの戦闘をながめながら、赤阪はつぶやいた。

「さすが、学内順位の上位者をあつめたA組だけあって、動きはわるくない」


 特に、金髪ツインテール少女の戦闘力が他の生徒を圧倒していた。1人だけ頭ひとつかふたつ抜けてる感じだ。


 少女の名前は大宮司キララ。学内順位2位の生徒だ。キララには大宮司グループと因縁いんねんがあり、西ノ宮総一朗を憎んでいることは赤阪も知っていた。キララにいくら実力があっても、大宮司商事の専属ハンターとしてスカウトはできないだろうことも……。


「そういえば、学内順位1位の生徒はどこにいるんだ?」

 キララの動きがダントツで、それ以上の戦闘力を発揮する生徒は見当たらない。


「神崎のこと?」

「たしか、そんな名前だったな」

 昨日、ダン校の生徒のリストを確認していた赤阪にも記憶が残っていた。


「神崎ならF組だから、今日は参加してないよ」


「どうして、学内順位1位なのにF組なんだ?」

「よくわからないけど、入学試験の時にイレギュラーなことがあったせいとかなんとか……。あくまで噂だけど」

「たしか、C市のダンジョンの地下第5階層まで落下したんだったかな?」

 神崎について書かれた学校の資料を思い出しながら赤阪が答える。

「そうそう」

「……ふむ」

 しかし、赤阪の脳裏に、なにか引っかかるものがあった。神崎という生徒は、前回の演習でも圧倒的な成績を残していることは、学校の資料にも書かれていた。


 生徒たちが、口々に喋りはじめる。

「神崎ってよくわからないよな。装備もしょぼいし。『鉄の剣』だろ?」

「でも、ダン校が設立する前に、高校に巣食ってた強大な不良グループをひとりで一掃したって」

「それも、あくまで噂らしいぞ。ほとんどが、ダンジョンの中で起こったことだ。実際に神崎が不良を倒してるシーンを目撃したものはいないって。生き残ってる目撃者のいる前であったのは、刀を無茶振りして自分で自分の足を切ってしまって出血多量で死んだ奴の話だけ」

「戦闘向けの【加護】を持ってるダン校の生徒なら、ほとんどの奴が不良なんかよりよっぽど強いだろ。【加護】のないヘビー級の総合格闘技世界チャンピオンよりも、俺達のほうが圧倒的に強いぞ」

「まあ、そうだけどさ」


「神崎……」

 赤阪はつぶやいた。一度、その実力を見てみたいと思った。

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