第34話

【三人称 花凛はなり視点】


 花凛のハンター協会登録も終わる。



 花凛は直也と人でダンジョンの前まで、やってきていた。


 直也は、花凛の前に立つ。


「いいか、これからダンジョン内で、花凛のパワーレベリングをする。気を抜くなよ」


「う、うん……」


 直也に言われるままに、

☆――――――――――――――――――――☆

・レベル10まで、経験値100倍(無料)

・レベル11~100まで、経験値10倍(無料)

☆――――――――――――――――――――☆

 という、DLCというやつを適用した。

 直也によれば、でぃーえるしー、じゃなくて、ダウンロードコンテンツと読むらしい。


「よし、ダンジョンに入るぞ」


「ひゃっ」

 花凛が、びくっと身体を震わせた。


「どうしたんだ?」


なおくん、顔が怖いよぉー」


「いつもの顔だろ?」


「ちがうよぉー。それ、なおくんがゲームしてるときの表情。普段は、もっとずっとやさしい表情してるよぉ……」


「そうかな?」


「中学生の頃、なおくんがハマってた『魔物ハンター』ってゲームあったよね?」


「あったけど?」


「わたしもやりたいから教えて、って言ったら、なおくん、すごく怖くなったんだよぉー。その時の顔だよぉー」


「でも、俺が花凛のパワーレベリングしまくったら、一ヶ月とかからず、花凛も『魔物ハンター』でランキング一桁に入ってただろ」


「その間、なおくんが超スパルタ教育で大変だったんだよぅ……」


「当然だ。ゲームするのに妥協はない。ゲームは遊びじゃないんだぞ!」


「いや、ゲームは遊びだと思うよ」



「まあいい……。とにかく、ダンジョンに入るぞ!」


なおくん、武器とか使わないの?」


「低階層に武器など不要」


「えーっ!」


「ほら、スタミナポーションと、移動速度向上ポーションだ。花凛のパワーレベリングに適切な狩り場の階層に行くまで、走り続けるから飲んどけ。パーティを組んだ状態で、俺が魔物を倒すと花凛にも経験値が入るからな。ただし、お互いの距離が離れ過ぎたら、経験値入らなくなる。ちゃんとついてくるんだぞ」


「う、うんっ……」

 花凛がポーションを飲むのを見届けると、直也は、一秒もしいといったように、すぐに走り出した。



 花凛にとって、ダンジョン内は初めての経験だった。


 入口の狭い通路をすすむと、突然ひらけた巨大な空間にでた。

「直くんなんか魔物がいっぱいいるよっ」

 花凛でもその魔物の名前くらい知ってた。ゴブリンというやつだ。広い空間に、バラバラであるが、30匹くらいいる。


「ゴブリンって、一匹なら怖くないけど、数がいっぱいいると、危ないって聞いたよ」


「関係ない」

 言って、直也は、ゴブリンの群れの中に突っ込んでいく。


 花凛には、直也が何をしているのかわからなかった。ただ、ゴブリンと直也が接触すると、ゴブリンの身体が四散して、消えるのだ。直也は、剣も装備していなかった。


 花凛の耳に、空中から謎の声が聞こえてきた。

 《レベルが上がりました》




 直也は、地下第2階層の階層ボスも、あっさりと瞬殺した。というか、花凛には瞬殺したのかもわからなかった。

 花凛が確認できたのは、ただ、直也とボスモンスターの影が重なると、敵のボスモンスターが一瞬で消えたことだけだ。


 《レベルが上がりました》

 《レベルが上がりました》

 謎の声が再び、連続して聞こえた。


「え? まだ階層降りるの?」

  花凛がたずねた。


「もちろんだ。まあ、今日は、花凛がいるから、浅い狩り場でレベリングだけどな」


「何階までいくの?」


「地下第15階層くらいからかな……。まだ、花凛のレベルが低いので、経験値は美味おいしくないが、そのあたりで狩りをするしか仕方ない」


「今朝、ニュースで、民間人の最先端攻略パーティが、地下第7階層を攻略中って言ってたんだけど……」


「……そうなのか? 知らなかった」


「毎日ダンジョンにこもってるのに、どうして知らないのよー」


「知る必要がないからな」


「ううっ……」


「花凛、遅れるな。走るぞ!」

 言って、直也が走りだす


「あーん、なおくん、待ってぇー」


   ☆☆☆


【三人称 動画配信者のガバル視点】


「ごらーっ! 愚民ども! ダンジョンの伝説ガバル・チャンネルだぜ」

 MeTuberのガバルが、動画のライブ配信をしながら言った。


 MeTubeのライブ・コメント欄に次々にコメントが流れていく。

>はじまった

>いつまで待たせんだよ


「今、ダンジョンの地下第7階層だ。今日も、俺、ガバル様が、おまえらに貴重なダンジョン情報を配信してやるぜ!」


>ガバル、いつも偉そうだから嫌い

>といいつつ、ガバルの動画見てるお前らw

>ダンジョン・ハンターとしては、MeTuberの中じゃ、今、一番実力あるしな

>信者うぜええええ


 ガバルは36歳男、有名な日本人ミーチューバーだ。メインに投稿してるのは、ダンジョン内の探索動画である。

 同業者の悪口をズケズケ言ったり、人を見下したりという性格の悪役ヒールキャラで、嫌いなミーチューバーのアンケート上位にいつもでるような人物だった。


>ガバルは、ダンジョン探索にでは実績があるからな。動画の多くは、ミリオンPVを達成してる

>ほとんどの動画がミリオン達成してるから、年収億超えてるだろな


「俺の先月の月収は5000万円超えてんだよ。てめえらみたいな一般庶民といっしょにすんな。ガハハハ……」

 ガバルが偉そうに高笑いする。


>金満の自慢、うぜー 

>ガバルはダンジョンの伝説だぞ。魔物30匹に囲まれて勝ったんだから

>それ、自称でなんの証拠もない


「今日も、地下第7階層の攻略動画を配信していくぞ。ちなみに、第7階層は、民間人が攻略している最前線だ。ここまでソロでこれるような動画配信者は、この俺様くらいのもんだな。わかったか? ガハハハ……」

 ガバルが、ドヤ顔で笑う。


「今日は、ボス部屋前の魔物狩りのやりかたを解説するぞ。ここにいるのは、ヘルハウンド。ヘルハウンドは、黒い巨大な犬の魔物だ。めっちゃ強いぞ」


>ヘルハウンド、はじめて動画でみた

>あれ、高レベルパーティでも狩るの大変なやつだぞ

>ガバルは、性格は糞だけど、実力はあるからな


「ヘルハウンドはアクティブモンスターだが、うまくやれば、一匹づつしか襲ってこない。少し近づいて、相手が反応したら、すぐに後退する。こうやって一匹づつ、釣るようにして倒していくんだ」


>あれ? 映像の奥になんか映ってない?

>でかいな

>あれ、グリフォンじゃね?

>ヤベー。グリフォンって、地下第7階層の、さまいよいワンダリングモンスターじゃん

>階層ボスより強いんだっけ?


「グリフォンはヤバイ。ちょっと避難ひなんするわ」

 強力な魔物を見て、ガバルが後退する。


>ガバル逃げた草

>ガバル、ビビってるw


「いやいや、無理だって。おまえら、グリフォンの強さ、わかってないだろ。今、民間企業がやってる最高レベルの攻略パーティでも、出会ったら避けるレベルだぞ」

 と、ガバルが、避難しようとしたときだった。


 ドドドドド……


 けたたましい足音とともに、一人の少年があらわれた。


 少年は、一直線にダンジョンの奥へと走っていく。


>なんだ、あいつ、ヘルハウンドの群れの真ん中突っ切ったぞ。

>完全にトレインしてるじゃん

>この階層、奥はボス部屋だから、行き止まりだぞ

>あ、アクティブモンスターのグリフォンも反応した

>あいつ完全に死んだな


 少年が、突進してくる多数の魔物たちに向きあった。

 少年はなんの武器も持ってない。

 バシッ、バシッ、バシッ! 謎の音がしてから見ると、ヘルハウンドの群れが地面に倒れていた。


 襲いかかるグリフォンにも、少年のパンチが飛ぶ。次の瞬間、グリフォンの身体はバラバラになり、飛び散っていた。


 少しして……


「あーん、なおくん、速いよぉー。まってぇー!」

 スタイルのいい少女が、少年の後を、必死で走っていくのが動画にうつった。

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