第91話
昨日は、いつものように
俺にあてがわれた寝室は一階の和室だ。
朝起きると休みの日だった。ふとんからでることなく、携帯ゲーム機でゲームをしていた。部屋の時計を見ると、すでに午前11時をまわっている。
廊下で音がして、和室のふすまが開いた。花凜が顔をだす。
「あー、まだ寝てる。せっかくつくった朝ご飯すっかり冷めちゃったよ」
「すまん。……起きるか」
「わたし、お昼の食材買いに行ってくるから、鈴凛の宿題みてあげててくれない?」
「まあ、かまわないけどさ」
「じゃあ、鈴凛にも言っとくね。たのんだよー」
立ちさる花凛の足音を耳にしながら、ふとんからでた。
「ふあああっ……」
ひと伸びする。洗面所での朝のルーチンを終えて、ダイニングまでやってくる。作り置きされたスクランブルエッグがテーブルの上に置かれてあった。さっそくテーブルにつく。かぶせてあった食卓カバーをよけて食べはじめた。
「うめええええっ」
あまりものすばらしい料理の味に思わず叫んでしまう。
ゲーム『ファースト・ファイナル』では、ダンジョンで狩りしてレベルを上げれば、なぜか鍛冶職などの生産系のスキル・レベルもあがった。俺とのパワーレベリングで花凛のレベルも、かなり上がってるから、おそらく料理のスキル・レベルも上がってるのだろう。
すこしすると、トコトコとかわいい小走りの音が近づいてきた。鈴凛の姿がダイニングにあらわれる。
「わあああん、兄ぃー。今度の宿題、難しいよぉー!」
鈴凛は、この家の三女、小学2年生だ。
「わかった、わかった。俺が手伝ってやるから、泣くな」
「兄なら、宿題できる?」
「さすがに、小学2年生の宿題くらいなら余裕でできるぞ」
「ほんと?」
「どーんとこい。どんな宿題だ?」
「明日までに地球温暖化問題を解決してきなさいって、先生が」
「…………」
「どうしたの兄? 兄なら、地球の温暖化問題くらい、一瞬で解決できるよねえー! わあーい。兄ィ頼りになるうううう!」
「うーん……。いや……、それは、ちょっとばかり難しい問題かもしれないな……」
「えー、できないのー? 宿題できないと先生に怒られるよぉー。うううっ……」
「いや、まて。泣くな」
詳しく宿題の内容を聞いてみる。
もちろん、温暖化問題の解決が小学生の宿題にでるはずもない。
実際は地球温暖化問題について調べて、原稿用紙一枚に書いていくというものだった。
それなら、ネットで調べれば、すぐだ。
鈴凛は、いつものように俺の膝の上にのってくる。
鈴凛は、もってきた原稿用紙をテーブルの上にひろげ、小学生向けに解説された地球温暖化問題のサイトが表示された俺のスマホを見ながら、いっしょうけんめい書きはじめた。
「丸写しはだめだぞ。自分の文章で書くんだ」
「……うん」
しばらくして……
「できたあー!」
「おおー!」
「わあーい!」
「宿題終わったー。えらい、えらい」
なでり、なでり。
頭をなでなでする。
こうすると、鈴凛が喜ぶので、ついつい、いっぱいなでなでしてしまう。
「兄ィー、なんか、今日ちょっと暑いね」
「そうだな」
「これも地球温暖化のせいだね。地球温暖化って、悪いやつなんだねー!」
「そうだな。魔王みたいに悪いやつだな。よーし。退治してやろう」
「できるの? 兄ィー! さっすがー!」
「もちろんだ。どーんとまかせろ」
ピッ……。俺はエアコンのリモコンを手にとってスイッチを入れた。
「わあー。涼しくなってきた。これで地球もだいぶ冷えたね。温暖化解決だね!」
「おう。涼しくなってきたぁーっ!」
「わーい。兄にずっとぴったり抱きついても、全然暑くないよー!」
「そりゃ、すごいぞおーっ! 俺も
「わー!」
「わー!」
……一通り、騒いでから少しして
「……ゲームしていい?」
俺が寝室からもってきていたテーブル上の携帯ゲーム機を見て、
「おう。これでもかというほど、思いっきりやれ」
「うん」
鈴凛がゲームに集中すると、俺が暇になった。
とりあえず、テレビをつけてみた。
大宮司電機の最新スマホ、『DaiPhone《ダイフォーン》 15 Pro』のCMがながれてうんざりする。
俺は、すっかり大宮司グループ嫌いになっていた。
大宮司電機製のIT機器を使うと、搭載されたカメラやマイクですべてを記録され、私生活が丸裸にされてしまう。
チャンネルを変えた。
『いまなら、大宮司ポイント『Dai《ダイ》コイン』がもらえる!』
ここでも、大宮司グループのCMだ。地上波の大手民放は、すでにどのチャンネルも大宮司グループが最大のスポンサーだ。
ネット機能があるテレビなので、MeTubeを映してみた。
画面にサムネがずらずらとならぶ。
『西ノ宮総一朗は、世界征服をたくらんでいる』
なかなか刺激的なタイトルを見つけて、思わずクリックしてしまう。
画面に、時事問題で有名な評論家の顔が映った。
「……大宮司グループは、世界征服できるほどにヤバイんですか?」
「ヤバイですね」
「たしかに、大宮司商事は魔石の取引で、業績はうなぎのぼり。大宮司グループの資金力も国家予算並と言われていますが」
「それですよ。現在、魔石を大量に安定して供給できるのは大宮司商事しかないんです。魔石という新世代の貴重なエネルギー資源を、事実上、ほぼ独占してしまっている。これがどういうことかわかりますか?」
「どういうことですか?」
「一昔前でいえば、石油供給の権限を、ほぼ一手に握っているようなものです」
「なるほど」
「現在、日本をはじめ、世界中で火力発電所や原子力発電所が止められ、クリーンな魔石発電に切り替える国が後をたたない状況です。魔石の供給を一手に担うとなると、すさまじい利権や権力が発生するんですね」
「それはすごい権力でしょうね」
「とんでもないですよ。最盛期のアメリカも、エネルギー資源のコントロールには気をつかいましたが、しかし、ここまでの力はありませんでした」
「アメリカでさえ持ってなかった力ですか」
「そうです」
「そんな力をもちはじめて、アメリカは黙って見てるんでしょうか?」
「それはないでしょうね。そのうち何らかの形で介入してくるでしょう」
「そうなると、大宮司グループから逮捕者が出る可能性も?」
「いや、大宮司グループの本拠地はB市ダンジョンの地下5階にあるといわれています」
「電脳演算都市要塞『バベル』ですね」
「はい。ダンジョンの中は、警察の力、つまり日本の国家権力が及ばないところと言えます。しかも大宮司グループは、数多くの優秀なハンターを抱え込んでいます。銃や爆弾などの近代兵器の効果が限られるダンジョンの中では、大宮司グループのハンター達は、もう私設軍隊レベルの戦闘力を持っているといっていいでしょう。警察ではかないません」
「日本政府やアメリカでもどうしようもないと?」
「いよいよとなると、自衛隊やアメリカ軍のダンジョン専門部隊の出動もありえるかもしれません」
「もう、戦争レベルじゃないですか」
「はい。すごくきな臭くなっている気がします」
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