第116話

  【一人称・主人公の視点】



 俺の嫌な予感は続いていた。


 スケルトン・ウォーリア8体というのに、かすかな記憶があった。

 今まで、それほどの強力な魔物が、ハンター協会の建物を破壊したのも腑に落ちない。

 誰かが従魔にして操っているのだ。


 スケルトン・ウォーリアは、古代アーティファクトを使用して召喚し、従魔として使役することができる。その場合、8体のスケルトン・ウォーリアが呼び出されるのだ。


 古代アーティファクトは、C市地下第9階層にある遺跡、超古代古墳墓内の迷宮で取得することができたはずだった。


 あのイベントを進めてはならない。……間に合うといいが。




 C市ダンジョン前。


 少し離れた物陰からダンジョンの入口を見ると、いかにも筋モノとわかるガラの悪い連中が入場を制限していた。

「このダンジョンも入口をヤクザがしきってるのか……」

 俺は、チィ……、と舌を打った。


 C市ダンジョンといえば、ダン校の入学選抜試験で使われたところだった。俺が試験を受けた時は、こんな奴らいなかったのにな。


 もちろん、ヤクザの背後には大宮司商事、ひいては西ノ宮総一朗がいると思っていい。


「『隠蔽スニーキング』魔法をかけますですか?」

 翔子2がきいてくる。


「そうだな……。今回は、『隠蔽』なしで、正面からいくかな……」


「ピピちゃんも正面から行くピピ!」


 今回は、

・翔子2

・ピピ

・俺

 の3人(?)パーティだ。


 花凜や結菜ゆいなもレベルはあがってきてる。が、残念ながらプレイヤースキルが俺とは隔絶していた。まだ足手まといになってしまう。

 碧佳あおかは、超々スパコンのところにいてくれたほうが、いろいろと戦力になるし……。


 というわけで、この3人パーティが、今、俺が集められる最大戦力だ。



「翔子2、ピピ、いっしょについてこい」


「わかりましたですぅ!」

「ピピーッ!」

 翔子2はいつもの10歳くらいの少女の姿だ。メイド服のエプロンとカチューシャをゆらしながら、トコトコと後からついてくる。

 ピピは、碧佳あおかの召喚獣だ。今はセキセイインコの姿をして俺の肩に止まっていた。

 俺は、例のごとくジャージと鉄の剣。




 C市ダンジョンに入ろうとすると、悪人面あくにんづらのスキンヘッドのサングラスが通せんぼした。

「兄ちゃん、このダンジョンは今、通行禁止だ」


「日本政府の意向で、ハンター許可証さえあれば国内のどのダンジョンでも出入りは自由なはずだけど?」


「まあ、建前はそうだけどな。実際はそうじゃないんだわ。あんた、学生さんか? 社会に出たことのない若い兄ちゃんにはわからんだろうが、いろいろと大人の事情があってだな……」


 まともに相手するの面倒くさくなってきた。

「…………」

 黙ったまま。スキンヘッドを押しのけた。ダンジョンの入口に進もうとする。


「おい、ちょっと待ちやがれ」

 スキンヘッドが俺の肩をつかんで引きとめた。


「……どけろ」


「あん? なんか言ったか?」


「この汚い手をどけろって言ったんだよ」

 俺が、スキンヘッドの手を振り払う。


「野郎ーっ」

「ヤキ入れたろかい」

「舐めてたら、ぶっ殺されるぞ、ガキがっ!」

 わらわらと、ヤクザがよってきた。10人ほどで俺達をとりかこむ。元から群れることが好きな奴らだからな。



「てめえ、俺が誰かわかってんのかっ! 出部金でぶかね組のもんだぞ!」

 スキンヘッドが顔を真っ赤にして怒りくるう。瞬間湯沸かし器かよ。



「……まあまあ」

 一番年長らしきヤクザが、いきり立った男たちをなだめる。

 脅し役となだめ役。典型的なヤクザの交渉のすすめ方だ。あまりにもテンプレ通りなので、おもわず内心で笑ってしまう。


「兄さん、これだけの奴らにを前にして、なかなか度胸があるじゃないか。このスキンヘッドは、武闘派として知られてる奴だが、気が短くてな」


「ああ、そうかい。あまりにも弱そうで、武闘派とは思いもしなかったぜ」


「なんだと……、このクソガキが!」

「まあまあ」

 いきり立つスキンヘッドを年長ヤクザがなだめる。


「ところで、そっちのお嬢ちゃんは?」


「翔子2は、誠心誠意、ご主人さまにご奉仕する美少女メイドなのですぅー!」


「コスプレかなにかか?」

 年長ヤクザが首をかしげた。


 ドラマ『ダウントン・アビー』の世界じゃないからな。今どきの日本で、外出時に本物のメイドを連れ歩いてる奴なんていないか……。


「……まあいい。兄さん、とりあえず出部金でぶかね組長に許可をもらってくれよ。会わせてやるから、ついてきな」

 年長ヤクザが先導するようにダンジョンに入っていく。


 俺が後に続いたが、周りをヤクザが取り囲んでいた。奴らの意図は丸バレだ。




 しばらく進んでいくと、年長ヤクザが、立ち止まった。

「くくくっ……、ダンジョン内に入ればこっちのもんだ」


「兄貴、殺しちまってもいいんだよな?」


「始末しろ。ただし、そっちのお嬢ちゃんは、つかまえておけ。まだ小さいが、これだけ容姿が良ければ、ペドフィリアの変態金持ちが大金で買うぜ。大事な商品だ。傷つけるなよ」


 はいはい。そう来ると思ってましたよー。

 まるで前もってプログラムされてるんじゃないかと思うような予測しやすい挙動。最近のゲームNPCでも、もう少しは柔軟な対応する奴もいるぞ。


「へへへ。こんな、クソガキひとり殺したところで、ストレス発散のたしにもならんがな。せっかくだから、少しは楽しませてくれよ」

 スキンヘッドがすすみでてきた。「死ねやああああっ、クソガキがぁーっ!」

 装備していたレイピアを抜いて、襲いかかってくる。


 サッ、と俺が動いた。


「へっ……。消えた。どこだ?」

 スキンヘッドが間抜け面をさらす。


「こっちだよ」

 俺がヤクザの肩をトントンする。


「ちっ、いつの間に! この野郎っ!」

 スキンヘッドが、袈裟斬りにレイピアを振ってきた。

「ふわぁー……、つまんねえ。VERY EASYモードのチュートリアルかよ」

 スキンヘッドの攻撃を余裕でかわして、あくびをしながら俺が答える。


「くそっ。おまえら、逃げられないように取り囲んで畳んじまえ!」

「おうよっ!」

「なめてんじゃねぇぞ! 骨まで砕いてやるからな」

「調子に乗ってんじゃねぇ、ガキが!」

 ヤクザが俺を取り囲んだ。


「翔子2! ピピ! 汚い害虫は残らず駆除だ! 徹底的にやっちまえ!」


「わかりましたですぅ!」

「ピピーッ!」


 …………


 あっという間に、戦いが終わった。

 ウォーミングアップにもならないな。

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