第99話
地下第5階層のレアボス、ギガント・サイクロプスは、今の戦力では、少しばかりやっかいな相手なのは間違いない。
だが、まあなんとかなるだろう。
俺は、腰のポーチに手をいれるふりをしながら、アイテムボックスから、
さらに、後頭部に重りがついたヘアバンドを頭に巻いた。
「なにやってるのよ、ペラペラジャージ?」
キララが怪訝な表情で、葉巻のようにポーションを口にしている俺を見た。
「このレアボスは、300分の1の確率だが、攻撃で特殊クリティカル攻撃がでるときがある。そうすると、100パーセントの確率で首をはねとばされるんだ」
「なによ、それ?! 命がいくつあっても足りないじゃないの」
「大丈夫だ。首を胴体から切り落とされても、15~20秒なら意識があり、脳は生きたままだ。だから、その間に、
「どこが余裕よ。全然、安心できないわよ。頭おかしいんじゃないの?」
「安心しろ。こいつの首チョンパ・クリティカルは最大ダメージを稼いでる奴、つまり俺にしか飛んでこないから」
「ところで、そのヘアバンドは何よ?」
「ああ、これ? 以前、同じような場面で首チョンパされたとき、顔が下で地面に落ちたことがあってな。唇が下、喉が上になってしまって、エリクサーの瓶の先を噛みきっても、中の薬が喉のほうに落ちてこず、死にかけたことがあってな……。地面が坂になってたから、たまたま頭が転がって、薬を飲めたけど、あのときは、下手したらヤバかったなな。あはは……」
「…………」
ケラケラ笑う俺を、なぜか、キララが呆れきったようなジト目で俺を見てくる。まるで、頭のネジが外れたゲーム廃人を見るような目つきである。
そんな、目で見るのはやめてほしい。俺は、いたって普通の、一般の高校生にすぎないのに……。
小山田たちは不安そうな表情だが、これでも、十分すぎるほどの安全マージン内である。
最悪、いざとなれば俺がベスト装備で戦うという手もある。俺のアイテムボックスの中には、エリクサーも大量にあるし。
俺たち4人は、今日はじめてパーティを組んだ。が、最低限の連携はとれつつある。
「行けええええ!」
俺が真っ先に、サイクロプスへと飛びこんでいく。キララが俺につづいた。
火力で押すしかない。
パーティの中では、俺の火力が圧倒的なので、ヘイトを一番稼いでいる。サイクロプスの攻撃はほぼすべて俺へと向かってくる。
だが、低確率で他メンバーに攻撃が向かうのは、どうしても避けられない。
「うわあああっ」
サイクロプスの攻撃が、後衛の小山田へ向かった。
「パリィ!」
俺の剣が小山田への攻撃をはじいた。完璧なタイミングだ。
サイクロプスがバランスを崩し、たたらをふむ。これで、小山田への攻撃がキャンセルされる。
「防御力低下! 速度低下! ……防御力低下! 速度低下!」
バッファーの桜は、パーティに貢献しようと必死だ。
防御力低下と、速度低下のデバフを交互に何度も打ち込んでいる。2種類を交互に打つのは、一つだけ打ち込むとリキャストタイムがあるため、短時間に何発も打ち込めないからだ。ただ、かなりレベル差があるため、今まで一つもデバフが入っていない。
「桜、バインドは持ってるか?」
「持ってるけど、バインドのほうが、もっと入りにくいよ」
「入る確率はさらにさがるが、ゼロじゃない。バインドは、もし決まった時の見返りがでかい」
「わかった。速度低下じゃなく、バインドをつかってみるよ」
俺が、すこしばかり剣をふるう速度を速める。持っているのは鉄の剣ではあるが、俺の素のレベルが高いのと、超絶プレイヤースキルが相まって、相当な攻撃力になっている。
キララもすぐ横で、二刀流をふるい続けている。俺ほどではないが、かなりの火力があるようだ。
もとから二刀流は火力重視の装備だ。それに、二刀流の扱いについては、キララにはかなりのセンスを感じる。
俺の戦い方を参考にしているのか、今日、ダンジョンに入ってすぐの戦い方と、今の戦い方で全然変わってる。キララのプレイヤースキルがどんどん上がっていくのがわかる。
ただ、パーティプレイはほとんどやったことがないのか、パーティ全体の動きは、あまり見えてないっぽい。
「あれ、サイクロプスの動きが止まった?」
「バインドが決まったみたい。あ、同時に防御力低下も入った」
小山田に桜がこたえる。
「おーっ。ボーナスタイムだ!」
俺が叫ぶ。「殴れ、殴れ、殴れぇーっ! この戦いでMPがすべてなくなってもいいから、最強のスキルを打てなるなるまで叩き込めーっ!」
ゲーム『ファースト・ファイナル』では、オーバーキル・ボーナスの概念がある。バインドが入って動けなくなった場合、バインドが切れるまで、魔物のHPがゼロになっても攻撃しつづけることができる仕様だ。オーバーキルすれば、もらえる経験値にもボーナスがつくだけでなく、ドロップ品の数やレア度もはねあがる。
スキルくらいは、多少、解禁しますか。
「うりゃあああっ。マイトチャージ! パワーストライク! トリプルスラッシュ! ヒャッハーッ!」
テンションあがってきたあああ!
魔物のHPがゼロを超えてマイナスになっていく。
横で一緒に戦っていたキララが、俺の攻撃を見て目をまるくした。
「な、なによっ、その馬鹿げたまでの火力はっ! あんた、さっきまで、あれだけ火力だしといて、まだ本気じゃなかったの?!」
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