ただのゲーム好きの高校生。現実世界のほうが、やり込んだゲームみたいになって、バカにしてたヤンキーらをボコボコにする

眞田幸有

【第一部】

第1話

 俺の名前は、神崎直也かんざきなおや。15歳。ゲームが好きなこと以外は、ごく普通の高校一年生だ。


 もう夜遅かった。ふとんに入る。


 寝る前に少しだけゲームをやろうと、ふとんの中で携帯ゲーム機を手に取った。新しいアクションRPGを起動する。それまで、何千時間と『ファースト・ファイナル』という超糞ゲーにはまっていたので、新作ゲームは久々ひさびさだった。


 キャラクター・クリエイトを終えて、スタート。一本道の洞窟をすすみ、つきあたりにある扉を両手で押して開く。いっきに画面が明るくなり、見渡す限り広大な大地が広がっていた。


「おおーっ」

 携帯ゲーム機にしては、なかなかのうつくしいグラフィックだ。超糞ゲーのしょぼいグラに慣れてしまっていた俺は、しばらくぶりに、まともなゲームの映像を見て、感動していた。


「ん?」

 ゲーム機のL《エル》スティックを操作して、周囲を見渡す。そして、すぐに気づいた。


 左後方に洞窟どうくつがあった。その前に金色の巨大ドラゴンが首を巻いて寝ている。いかにも強そうだ。


 これは、間違いなく初見殺しのモンスターだろう。ヘビーゲーマーとしての直感が語っている。キャラ・クリエイトして、洞窟を出てすぐのところにいるということは、おそらく2周目以降に用意されたコンテンツだろう。


 ゲーム初心者なら、なにも考えず、この巨大ドラゴンを殴ってしまうかもしれない。現在の俺のキャラは、レベル1、初期装備だ。それで、こんな巨大なドラゴンと戦っても勝てるわけがない。ゲーム中級者や上級者の人間なら直感でわかる。


 ……では、超絶上級者の俺の場合はどうするか?


 もちろん、『戦う』だ!


………………

…………

……


「うわーっ。こいつ超絶TUEEE!」


 一発でも殴られれば即死は確実。俺がもつ究極プレイヤースキルを総動員して、ドラゴンの多彩な攻撃をかわしまくる。だが、こっちのダメージは、一発で1しかはいらない。5分くらい戦っても、ドラゴンのHPバーは、1ミリくらいしか減ってなかった。でも、着実にけずれてはいる。


 眠気がいっきに消し飛ぶ。「ハハハハ……!」テンションがどんどん上がっていく。それとともに、俺の5感が極限にまで敏感になっていき、ゲームへの入力精度がますます正確になっていく。


「ヒャッハーッ!!」

 深夜12時近くになって、俺は一人叫んでいた。


  ☆☆☆


 次の日の朝、俺は住宅街を歩いていた。登校するところだった。


「ふわあああっ」


 寝ぼけまなこを、指でこする。


 昨晩は、さすがにゲームをやりすぎた。あのドラゴン、HPをけずりきるのに5時間かかるとは思わなかった……。非常に多彩な攻撃をしてくるので、楽しくなってめ時を失ってしまったのだ。


 寝不足だ。あー、眠い……。


「ふう……」

 息をつき、とぼとぼと大通りまで出た時だった。



 突然、ものすごい爆発音が鳴った。


 空気がびりびり震えてる。強い爆風にふっとばされそうになった。


 もくもくとあがる土煙。そのの向こうにっすらと、それが見えた。


 警察署のビルが、半分以上倒壊していた。


「なんだ? テロ?」

 思わず口にでた。


 周囲は大混乱だった。黒煙をあげて燃えている警察署の建物を、しばらく呆然となって見ていたが……


 スマホを取り出し、時刻を見る。

「いけね」

 このままでは学校に遅れてしまう。


 俺は学校へと急いだ。


  ☆☆☆


 教室に入ると、いつもより騒がしかった。クラスメイトたちがスマホでニュースサイトを見ながら、緊張した顔で話しあっている。


「あ、なおくん、おはよ。大変だよっ!」


 俺に声をかけてきたのは、幼馴染で、お隣さんの早瀬花凛はやせ はなりだ。メガネっ娘。やや色素の薄い茶色がかったショートボブの髪は地毛だ。特に目につくのは、最近、やたら成長してきている大きな胸。歳を重ねるにつれ、顔面偏差値も、

ぐんぐんあがってきており、今、男子の人気が急上昇中だった。


「警察署の爆発だろ?」


「うん、それもあるけど、日本中の警察署、自衛隊基地、それに国会議事堂が、いきなり爆発したみたい」


「なんだそりゃ?」


 そこまでの規模でテロを起こせる集団なんているのだろうか?


 俺もスマホをとりだし、ライブニュースを流している動画サイトを見る。


《大変です。日本の各地に、謎のダンジョンがあらわれました。詳しい調査はまだですが、中は迷路のようになっていて、ファンタジー物語にでてくるような魔物が住みついているとのことです!》

 レポーターが、炎上する国会議事堂の前で、緊張した顔で話していた。


「いったい、なにが起こってるんだ?」


 思わずつぶやく。動画ニュースのチャンネル名を確認した。間違いなく、有名な大手メディアのサイトだ。面白半分で嘘をつくとは思えない。


 そのときだった。


「なっ……」

 俺は花凛はなりを見て、身をこわばらせた。


「え? なおくん、どうかした?」


「おまえ、光ってんぞ」


「わあっ」


 隣に座っていた花凛はなりが、自分の身体を見て、驚きの声をあげた。


 花凛の全身が、金色に光っていた。光っていたのは10秒くらいだろうか。すぐに元にもどる。


「今のなんだったの?」

 花凛がびっくりまなこで、俺を見返してくる。


「俺にわかるわけない」


 俺が答えたとき、教室中から、同じような驚きの声があがりまくった。


 教室中の皆の身体が、金色に光っていた。それは、俺も例外ではなかった。みんなと同じように、俺の身体がしばらく光って、そして元にもどった。



 おかしなことは、すぐに起こりはじめた。


「なんだ、これは?」

 はじめに声をあげたのは、柔道部の土屋だった。


 土屋は握力を鍛えるため、普段からトレーニング用のハンドグリップを持ち歩いていた。そのハンドグリップが土屋の握力に絶えきれず、ぺしゃんこになってひん曲がっていた。



「うあああっ。すげーっ!」

 次に声をあげたのが、陸上部で走り高跳びをやっている久保田だった。


 久保田がジャンプすると、たちまち高い教室の天井にまで手が届いた。ほんの軽く床を蹴ったように見えるのに、ありえないほどの跳躍力だ。


 その他、多くの人間に異変が起こっていた。



 野球部の生徒がボールを投げると、ありえない速度で空の彼方に消えていく。


 レスリング部の男は、重さ200kgのバーベルを片手でひょいと持ちあげた。


 陸上部で短距離走をやっていた女子は、とんでもない速度で校庭を駆け抜けた。



 で、俺には、どんな変化があったか……?


 見たところ、はっきりとわかる変化はない。俺が帰宅部だからだろうか?


花凛はなり、おまえ、なんか身体が変化したとこある?」


 クラスメイトたちの一連の変化を見たあとで、たずねてみた。


「うーん、よくわからない……」


 花凛は首を横にふった。


 花凛の父親は長期海外出張中、母親は看護師をやっている。両親が家を開けることが多く、花凛は、しばしば小学生の2人の妹の面倒と家事をしていた。だから、クラブに所属していない。


 一方で、俺は、家でゲームをするのが大好きなので、帰宅部をしていた。


  ☆☆☆


 3日もすると、いろいろなことがわかるようになっていた。


 警察署、自衛隊基地、国会議事堂が爆発して、多くの犠牲者がでている。犯人はいまだにまったくの謎。


 明らかに治安は悪くなっていた。


 警察官が足りないのだ。警察署の爆発で多くの警察官が死傷したのに加えて、ときどき、ファンタジー世界にでてくるような魔物が、町に出現するようになった。魔物の数はそこまで多くはなかったが、それでも警察官たちは駆除におわれてる。


 魔物は、突然日本に出現したダンジョンから出てくるらしかった。RPGに出てくるようなダンジョンが、確認されているだけで日本各地に数十ほどあらわれていた。


 身体が光った意味もわかってきた。『神による加護』をもらった人間は身体が光るらしい。『加護』がもらえる人間は、若い人間に限られていた。15歳以上20歳以下なら、ほとんどの人間がもらえた。そのゾーンから年齢がはなれていると、徐々に『加護』がもらえた人間が少なくなっていく。30歳すぎて加護がもらえた人は、滅多にいない。



 どうやら『加護』は、さずかる日の前日までに、一番熱心にやっていたことに関連するものが多いらしかった。もちろん例外もあるが……


 熱心に勉強していたものは、【勉強】の加護をもらい、ぐんと成績があがった。バンドでギターをやってた奴は、【ギター】の加護をもらい、素人がとても演奏できないような超絶技巧の難しい曲を簡単に弾きこなせるようになった。



 一週間もすぎたころ、【鑑定】の加護をもらった人が、学校にやってきた。その人は、20代半ばくらいの男で、スーツを着ていた。政府の指示により、学校を回って、生徒たちの加護を鑑定しているとのことだった。



 次々に、生徒たちの鑑定がはじまった。


 野球部の人間は、加護【野球】。柔道部は、加護【柔道】と、わかりやすかった。


 俺の幼馴染、お隣さんの花凛はなりは、【家事】の加護をもらったことがわかった。


「うーん、やっぱりそうだったかあー。なんか、お掃除や洗濯がすいすいできるようになったんだよね。お料理も、めちゃくちゃおいしくつくれるようになったんだよー」

 花凛は、機嫌の良さそうなニコニコ笑顔で言う。本人が嬉しそうでよかった。



「では、次、神崎」


 【鑑定】持ちの男の横に立っていた、クラス担任教師が俺の名前を呼ぶ。


「はい」


 俺が立ち上がり、教壇へとむかう。


 それまで、俺の身体に目立った変化はなかった。だが、身体が光ったのだから、なにかの『加護』はもらえてるはずだ。どんな加護をもらえたのか、俺はちょっと、ドキドキしていた。


 俺が【鑑定】持ちの男の前に立つ。男は、俺の方に両手の手のひら向けて、なにか呪文のようなものを小さく唱えた。



 やや、あって……


「こ、これは……」

 男が唖然あぜんとした顔で、俺を見つめる。


「どうかしましたか?」

 俺は緊張したまま、たずねた。


「……あなたの加護は、【RPG『ファースト・ファイナル』】です」


「え?」


「あなたの加護は、【RPG『ファースト・ファイナル』】です」


 教室中で大爆笑がまきおこった。


「『ファースト・ファイナル』って、あの有名な超糞ゲーじゃん」


「『神の加護』が、ゲームって……」


「しかも、全てのゲームがうまくなるのじゃなくて、特定の超糞ゲーだけって……。どんだけハズレの加護なんだよ!」


「ハズレも、ハズレ。大ハズレれだろ。加護が糞ゲーは酷すぎる。ぎゃはははっ!」


 クラスじゅうから笑いが巻きおこる。


 おいおい、ちょっと、笑いすぎじゃないか? たしかにハズレ、それもとんでもなく酷いハズレには違いないだろうけどよ……

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