第47話

【一人称 主人公視点】


「神崎、人質の命が惜しければついてこい」

 菊地が、勝ちほこったように言った。


 俺が、人質を救出するために、躍起になるといわんばかりだ。


 俺は、別に正義のヒーローでもなんでもないんだけどなあ……。ただのゲーム好きで、平凡な高校生だぞ。



 俺は、花凛と目配めくばせしあう。花凛とは、物心つく前からの幼馴染だ。目の合図だけで、ある程度、意思疎通ができてしまう。


 それは事実だが……、


 実は俺と花凛は、パーティに参加したものだけが使用できるパーティチャットで話しまくっていた。これは、お互いの距離が離れすぎると使えなくなるが、今は近いので普通に使える。脳内で思っただけで、ボイスチャットができるので、口を動かす必要もない。



 花凛と俺は、他の人間には気づかれることがないボイスチャットで会話する。


《エリカが人質にとられちゃった……》


《まあ、なんとかなるだろう》


《エリカ、危なくならないかな?》


《無事に助けられると思う。ただ……》


《ただ……、何?》


《俺ひとりだと、ちょっと面倒くさいかもしれないな。花凛が、手伝ってくれれば助かる。手伝ってくれるか?》


《もちろんだよー》



 俺は正義のヒーローではない。家族同然の花凛に、すこしでも危害が及ぶ可能性があれば、俺は、こんなことを言わなかっただろう。だが、今の状況で、花凛に危害が及ぶ可能性はゼロだ。花凛も、レベリングと装備で、そうとう強くなってるからな。




「ほら、神崎どうした、ついてこないのか?」

 人質とっている菊地は、俺が指示に従うと思い込んでいるようだ。


 とりあえず菊地に、つきあってやることにする。



 ふと、目を移せば、菊地の傘下のやつらの一部が逃げるときに捨てていったリュックが地面に落ちていた。いくつかのリュックには、人質からとりあげた装備がはいっている。


 菊地の傘下の者たちが数多く逃げ出したせいで、人質だったボランティアのハンターも開放されていた。ボランティアのハンターたちが、その装備を拾っている。装備があれば、地上の出口まで、他の解放された人質たちと一緒に、無事に帰るくらいはできるだろう。




 人質たちと分かれて、俺は花凛と菊地たちについて行った。


 菊地たちがすすんでいく方向を確認して、俺はニヤリとした。


 ああ……、そういえば、地下第2階層に、そういう部屋あったなあ……。


 菊地の意図が丸わかりで、思わず笑いが漏れそうになる。


 菊地がたどりついたのは、半径50メートルほどの、行き止まりのダンジョンの一室だ。


 菊地が、半回転して、バックしながら部屋に入っていく。思ってることがわかりやすすぎて、笑ってしまう。


 入った部屋は、一見何もいないように見えた。


 だが、一分ほど室内でじっとしていると、一つしかない出入り口付近に、強力な魔物が出現する仕様だ。


「うわあっ。なんだあれはっ!」

 山田が声をあげた。


 そこに、出現していたのは、1つ目の巨人、サイクロプスだ。身長5メートルはあるだろうか。巨大な棍棒を右手に持っている。リアルでみると、かなりの威圧感だ。


 サイクロプス、このレベルのダンジョンの地下第2階層に出るにしては、あまりにも強い敵だ。ゲーム『ファースト・ファイナル』は、ゲームバランスが無茶苦茶だったからな。

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