第77話

 エレベーターを降りると、そこはヤクザの組事務所の前だった。

 眼の前に高級マンションの一室のような扉があり、『菊地組』と書かれた看板が掲げられていた。


 門番なのか、男が1人、扉の前に立っていた。いかにもヤクザって感じだ。20歳くらい。ガラが悪そうだ。


「誰だ、てめえは?」

 男が俺をにらみながら近づいてくる。「エレベーターには、IDチェックの他に魔法鍵がかかっていたはず。どうやって入ってきた?」


「朝風エリカって女をとりかえしに来た。女はどこだ?」


「誰だって聞いてんだよ。あ? 聞こえねえのか! ごらぁーっ!」

 ヤクザが大声をあげた。


「うるせえ! 質問してるのはこっちだ!」

 ヤクザの顔面にパンチをくらわせる。


「ぐはっ」


 ひるんだヤクザの襟首を持ってどなりつけた。

「朝風エリカって女に用があるっていってんだよっ!」


「てめえ……、やりやがったな!」

 ヤクザが懐から拳銃を取り出した。

 銃声が轟く。


 俺の腹に銃弾が命中した。今、俺が装備しているイレブンナイン・ミスリル・フルプレートアーマーは、重機関銃の徹甲弾でさえはじきとばす。拳銃の銃弾ごときでは刃がたたない。


 拳銃を持つヤクザの手首を握りしめる。バキバキと、骨が砕ける音がした。


「ぎゃああああっ!」

 ヤクザがわめきながら、拳銃をおとした。


 襟首を締めあげ、頬をバシバシとはたく。少しだけ強めに腹をなぐった。今の俺のSTRちからだと、一般人を本気で殴ったら即死だからな。


「女はどこだぁーっ! 話せっていってんだろがっ! ぶち殺すぞ!」

 俺が、ヤクザを威嚇いかくする。


「な……、名前は知らないが、高校生の女なら事務所の奥にいる……」


「どうして、こんなところに組事務所があるんだ?!」


「そりゃあ……」


「そりゃ、なんだ? はっきりと喋りやがれ!」

 ヤクザの砕けた右手首を握りしめた。


「うぎゃあああっ!」


 ヤクザが真っ青な顔になって、ボソボソと言いはじめた。

「……俺達、菊地組と大宮司商事は、もちつもたれつだから……」


「で、菊地組が、非合法な闇金で借金せおわせて人身売買をし、奴隷をつれてくるってわけか。魔石を集めるために、一般人を『単純労働ダンジョン探索者』にして、魔物と戦わせては死なせまくってるってことだな?!」


「そ、そうだ……」


 大宮司商事は大企業だから、表立って非合法なことはやりにくい。そこで、汚い仕事はヤクザにやらせるというわけだ。

 それに、ダンジョンの中に組事務所をかまえさせれば、警察が強制捜査に来る心配もない。大宮司商事もヤクザにやらせたい放題だろう。


 西ノ宮総一朗……、汚え。とことん汚い野郎だ。


 襟首をつかんでたヤクザを放り投げ、俺は組事務所の扉へと進んだ。



「死ねやあああ!」

 どこから取りだしたのか、放り投げたヤクザが手に短刀ドスを握りしめて、俺の背後から襲いかかってきていた。


「『雷鳴サンダークリープ』! ピピピ……!」

 ピピが雷撃系の呪文を唱えた。


「ぎゃあああっ!」

 ヤクザが雷魔法で黒焦げになって絶命した。


「ピピチャンは、サンダーバード! カミナリのマホウがつかえるピピ!」


 さすがは雷の精霊。ピピもなかなか強い。



「こうなりゃ、正面突破だ! ヤクザを組事務所ごと、ぶっつぶす!」

 俺は組事務所の扉を蹴り飛ばした。轟音とともに扉が粉砕される。中へとすすんでいく。


「わあーい、カチコミですぅー!」

 俺のすぐ横にいた翔子2は、まるでディズニーランドに連れてきてもらった子供のように、はしゃいでいる。


「カチコミ! カチコミ! ピピーッ!」


 扉をこわすと、玄関からすぐのところに、20畳くらいの洋室があった。応接セットのソファーに若いヤクザが5人ほど座っていた。


「なんだ? てめえは?!」

 ヤクザがそれぞれ拳銃・刃物などを握って、襲いかかってくる。


 俺は、すばやく、アイテムボックスから武器をとりだす。イレブンナイン・ミスリル・ソードが俺の手に握られていた。


 ばっさばっさとヤクザを斬り倒していく。


「『雷鳴サンダークリープ』! ピピ!」

 最後の1人は、ピピが倒した。


 翔子2が、パチパチと手をたたいた。

「きゃー。ご主人さま、ヤクザ映画の高倉健みたいですー。超かっこいいですぅー!」


 どうして、その歳で高倉健を知ってる?


「ピピチャンも、かっこいいピピ!」


 物音を聞きつけて、さらに奥から3人のヤクザがでてきた。


「死んでもらうぜ!」

 流れにまかせて、俺もヤクザ映画の主役のように剣をかまえてみた。


「きゃーっ! ご主人さまー! 超絶にステキーですぅー! はわわぁーっ!」


「ピピーッ!!!」

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