第46話

「あ、神崎だっ!」

 誰かが叫んだ。


「なっ」

 菊地たちが、びくんとなって、顔をあげる。


 しかし、探しても神崎直也は、見えるところにはいなかった。誰かが、オオカミ少年のように、嘘を言ったのだ。


「ちくしょう。だれだっ!」

 菊地が、ひきつった顔で、周囲をにらみつける。


 人質の誰かが叫んだのだ。だが、ぱっと見るだけでは、誰が叫んだのかは、わからない。


「て……、てめえら、ふざけてたら容赦なく、ぶっ殺すぞ!」

 菊地が、威嚇いかくするように大きな声をだした。


「大丈夫だよ、菊地くん」

 頭がおかしくなっている山田が、場違いに明るい表情をした。「菊地くんへの、献上箱は、まだ1個残ってる。これは伏線フラグというやつだよ」


 山田がドヤ顔で言いきった。


伏線フラグ?」


「そうだよ。一見かずみ二宮にのみや三瓶さんぺいと3人に、箱をわたしたんだ。そして、3番目の箱は、まだ神崎にわたってない。三瓶自身がもってる。……そうだよな三瓶」


「う、うん」

 三瓶が、箱を手に持ちながら、うなずいた。

.

 そのとき……、


「か、神崎ーっ!」

 菊地グループの誰かが叫んだ。


 今度は嘘ではなかった。


 見れば、いつの間にか、三瓶の背後に、神崎が立っていた。


「「「ぎゃああああっ」」」

 菊地グループが悲鳴をあげる。


「ひゃっ」

 驚きのあまり、三瓶の手から、献上箱がおちて、直也の前までころがる。


 容赦なく、直也は、グシャっと、3番目の箱を踏みつぶした。


「3番目の箱には、1番目、2番目のものより、さらに恐ろしいものが入っているという伏線フラグは……?!

 山田が声をあげる。


「そんな伏線フラグはない」


「そんなあああああっ!」

 山田が悲鳴をあげた。



 突然の直也の登場に、菊地をはじめ、人質までも息を飲んで、背筋を震わせる。


 直也が、菊地の傘下に入っている者たちに言った。

「菊地の手下をやめるなら、今が最後だぞ。菊地にもらったバッジと武器をすてて、すぐに立ち去れ。そうすれば、生き残ることができる」


「「「うわああああ」」」

 たちまち、菊地グループ傘下の多くの者達が、その場で襟首につけたバッジを外して地面に投げ捨て、逃げていった。


 それを見て、菊地が動いた。


 近くにいた、人質の女生徒にとびかかり、首に刃物をつきつける。


 とらわれたのは、クラスで花凛と一番仲のいい女生徒、朝風エリカだった。


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