第21話

【一人称 主人公の視点】


 溶解液による攻撃は、毒攻撃と同じで、特殊攻撃に分類される。『回復ポーション』では治らない。

 俺は、第7階層ボス、アース・ドラゴンがドロップした、『万能回復薬エリクサー』を飲んだ。とても貴重な薬だったが、やむをえない。これで、背中のヤケドは完全回復した。




 ……夜の11時過ぎ。


 ハンター協会近くの公園。俺は、ベンチに座って、ミネラルウォーターを飲みながら休んでいた。


 この時間まで、ずっと狩りをしていた。身体に心地よい疲労を感じながら、ようやく家へ帰る途中だった。


 今の装備は、いつもの『鉄の剣』。安物のジャージ。

 有料DLCの装備は、アイテムボックスの中に隠してある。


 しばらく、のんびりとしていると、公園に人影が入ってきた。十数人はいる。

 ほとんどが学生服姿だった。外見で、すぐにヤンキー集団だとわかった。しかし、その中に、まったく様子の違った2人がいた。


 2人は、どうみてもヤンキーの仲間には見えない。高校生っぽいが、体格の貧弱な少年たちだ。


 2人は、ヤンキーに小突かれながらやってきた。見ただけで、いじめられていることがわかる。


 ヤンキーたちが、公園ではじめたのは、最近流行はやっているイジメのひとつだ。


 連れてきた2人を、無理やり喧嘩させて、徹底的に殴り合わせるのである。


「おらーっ。本気でやらんか。バカ」


 少しでも、2人の動きが鈍ると、ヤンキーたちから、怒声どせいと蹴りがとんだ。


「なめてんのか。サボってないで、もっとおもいっきりやれ!」


「おらっ、お互い、相手を殺す気で殴らんかい!」


 何人ものヤンキーのパンチが容赦なく、2人の顔面に飛ぶ。


 10分もつと、いじめられている2人は、ボロボロの姿になっていた。



 そこで、ひとりのヤンキーが、俺の視線に気づいた。


「なんだおまえ! 見せもんじゃねえんだよ!」

 ヤンキーが俺に近づいてくる。小太りだが、背が低い。坊主頭にり込みのラインを入れていた。


「俺がいたところに、お前らがやってきたんだ。つまらないものを見せに来たのはおまえらだ」


「なんだと!」

 細くった、ヤンキーの眉が逆立つ。


 そこに、横から声がかかった。

「なんだ、神崎じゃないか」

 声をかけてきたのは、【ボクシング】の加護をもつ、上川だった。ポケットに両手をつっこんだまま、悪そうな顔でニヤニヤ笑っている。


 さらに、ヤンキーの中で一番体格のいい男が前にでてきた。パンチパーマだ。額には、ナイフで切られたような古傷があった。ものすごい顔で俺をにらみつけてくる。


 上川が、俺に言った。

「おい、神崎。変わったところにいるじゃないか。ダンジョンからの帰りか?」


「上川、おまえは、見ない奴等とつるんでるな」


「同じ中学に行ってた友達だよ。クソ野郎」


 パンチパーマが、会話に割り込んできた。

「おい、おまえ、『殴り合い』をずっと見てただろ。見物料をだせ。そうだな……、30万で許してやる。ないなら、家からもってこい。親の金盗んでも絶対もってこい」


「30万か」

 俺は、ポケットからハンター協会で換金したばかりの札束をだした。今日、換金できたのは45万5000円。


 金になったのは、地下5階までのドロップ品だ。それ以上深い階のドロップ品になると、今のところ、他の民間人が到達してないようで、受付係も対応できなかった。


「そ、それをよこせ」

 パンチパーマの目が揺らいだ。札束を見て、あきらかに動揺している。たしかに、いきなりカツアゲで30万円を出せといわれて、ぱっと出すような高校生は、滅多にいないだろう。


「いやだね」

 俺は、現金をポケットに戻しながら言った。「……そうだ。パンチパーマ、おまえと上川で、死ぬまで殴り合え。そしたら、見物料で10円くらいなら払ってやる」


「てめえ、ぶっ殺されたいのか!」

 最初に近づいてきた、背の低い『ライン坊主』髪が叫んだ。「大口を叩くのもいいかげんにしろ!」


 ライン坊主が俺に殴りかかってくる。大ぶりでスローなパンチだ。


 ダンジョンでのレベリングで、身体能力が向上している俺には、児戯に等しい攻撃だった。


 避けるまでもなく、殴り返す。俺のパンチのほうが圧倒的に速い。先にライン坊主の顔面に命中する。


 ライン坊主が、鼻血を撒き散らしながらふっとんだ。


「コノヤロー、マジでぶっ殺す!」

 ぶざまに地面に転がったライン坊主は、ポケットに飛び出しナイフ隠していた。立ち上がりざまに、取り出したナイフの白い刃先が飛び出した。


「ぷっ」

 俺は、思わず吹き出した。「おいおい、おまえらは、こんな低能動物を飼ってんのかよ。知能低すぎるだろ。ライン坊主、おまえの頭は人間の知能じゃないぜ」


「なんだと、このタコ野郎!」


「タコは頭のいい生き物だ。おまえよりはるかにな」

 俺は、ライン坊主に言い返す。「いいか? 俺は、ダンジョン帰りなんだぜ」


 俺は、背中に背負っていた『鉄の長剣』を抜いた。


「ほらよ。武器で人をおどすなら、せいぜいこれくらいのものを準備してからにしろよ」

 長剣の白い刃の刃先を、ライン坊主の顔の前にだす。あきらかに上川たちがひるむのがわかった。


「てめえ、こんなことしてタダですむと思ってんのか?」

 上川が声をあげる。


「どうしてくれるんだ?」

 抜いた長剣を顔に近づけると、上川が、後ろへ退いていく。


「……ヤロウ、今度、ダンジョンに入ってきたら、絶対に、ぶっ殺してやる」


 言った上川を手で制するように、パンチパーマが前にでた。


「ふんっ、今日のところは、これでおさめてやる」

 パンチパーマが、にらみつけてきた。「おまえの顔は完全に覚えた。だが、今はらねえ。ダンジョンの中は、無法地帯だ。自由に人を殺せるんだから、楽しみにしてろ」


「ダンジョンで『殺す』なんて言えるヤツは、殺される覚悟のあるヤツだけだぜ」

 俺は言い返した。「おまえらに、その覚悟があるようには、とても見えないな。ダンジョンで殺されるときのために、今日から毎日、心を洗っておくんだな」


「ちっ……」

 上川が表情をこわばらせ、なにか言いたそうだったが、パンチパーマが肩に手を回して止める。

「上川、今日のところは帰るぞ」


 ヤンキーたちは、俺の前から去っていった。


 

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