第6話 検証

「葉月起きてるかぁ?」

葉月の部屋の扉をノックしながら、俺は声をかけた。

この世界の住人の時間感覚は分からんが、俺の体内時計ではまだ5~6時あたりだ。起きているかは人によるだろう。

「……」

まだ寝てるか。

あの後、思い付いた事を検証したかったんだが、まぁ、急ぎでも無い。どのみち少ししたら寝る暇も無い程忙しくなる。寝かせておいてやるか。

「…はぁい」

そんな事を思って背を向けた直後に扉が開いた。

どうやら今起きたようだった。

「おぉ、葉月おはよう。悪いな寝てたか?」

「いえ、ちょうど起きた所です。…私に何か用でも?」

「あぁ、ちょっと確かめたい事あるからこれ着てくれない?」

そう言って懐から黒い着物を取り出した。

「…これは……聖装、ですか…?」

眠気が吹き飛んだような顔で此方を見る朔夜。

どうやら「聖装」はこの世界でも「聖装」として知られているようだ。

聖装とは、神話にて、邪神と対峙したと言われる聖なる神、聖神がその力を使いきたる邪神復活にむけて人類へと残した決戦兵器、と言う設定だ。尤も、決戦兵器などと言う言われ方はしていないが。

現状、人類──俺を除いて──が把握している聖装はたった二つだ。

帝国の第二皇女が後々身につけるであろう聖装「輝ける星」と、聖女教会が管理している聖女専用聖装「慈愛の豊穣」だ。

朔夜の言葉に疑問符が付くのは、単純に実物を見たのが初めてで確信が持てないのだろう。

「そう。聖装「十六夜イザヨイ」だ。……と、言ってもわからないだろうけども」

聖装「十六夜」。

その特性の名は「十六夜フ月イザヨウツキ」。

ステータスを半分にする変わり、条件を満たすとステータスを三倍に出来る星五の聖装だ。

普通、スキルが主力である葉月朔夜にはあまり合わない代物であり、葉月朔夜の聖装の中でもどちらかと言えばハズレ枠だ。しかし、今の魔法剣のスキルが育っていない葉月朔夜ならコイツが良いだろう。

さて、何故俺がこんな物を渡したのか。

それは、仮加入では此方から好きに聖装や武器などを弄ることは出来ないが、現実世界の方で無理矢理着せたら聖装はその効力を発揮するのか?と言う検証のためだ。

因みに、武器の方はもう検証した。俺で。

だったら何故聖装も自分で試さないかと言う話だが……聖装って殆どが女キャラが着る前提で、俺が着ると絵面が酷い事になる。と言うのは半分冗談だが、そもそも、ゲームでは聖装を無理矢理着せるなんて事は当然出来なかったし、シルエット使いまわし系モブである俺用の聖装なんて当然無いわけで、無理に他キャラの聖装を着るとどうなるか分からんと言うのが本音だ。最悪その場で適性なしで聖神の力に体が耐えられずアボンだ。…流石にそんな呪われた装備みたいな事はないとは思うが、保険はかけすぎるくらいがちょうど良い時もある。

そんな訳で、彼女に聖装を着てもらったのだが…。

「着ましたが…何と言うか、平時に比べ、力が制限されたような感覚です」

黒主体に月の模様が入った着物を着て、そんな感想を述べる朔夜。

そして、彼女の感想からも分かる通り、どうやら聖装はその効力を問題なく発揮しているようだった。

「まぁ、そういう能力だからな。じゃ、ちょっとこれ持ってくれない?」

そう言いながらガチャを引くと貰える聖痕コインを使って購入した片手剣武器や槍、大剣、大盾などもろもろを渡していく。

「ちょ、ちょっと待って下さい。これはかなり良い武器のようですが、いつの間にこんな物を?」

まぁ、全て星五武器だしないま葉月の持っている初期武器の刀に比べたらそりゃ強いだろう。とは言え、同じ星五武器やこれより上の星六武器からしたら弱い部類だが。

「ん?元々持ってたぞ?」

「いや、しかし、どこに仕舞って…」

「インベントリって奴」

「いんべんとり…?とは何です?」

「目に見えないクッソデカイバッグみたいなヤツ」

まぁ、嘘では無い。ただし、収納できるのはガチャ産の物やゲームショップで購入した物のみで、一度実体化すると再び収納は出来ないと言う制約がある。

ん?今回実体化した武器はどうするのかって?まぁ、いつでもゲームショップで買えるし、今はリアルマネーの方がカツカツだ。例のダンジョンに行く為には船が必須でそれを買う金もいる。売るのが妥当だろう。

さて、そんなこんなで三十分が経過した。

すると、朔夜が体の異常を訴えだす。

「な、何ですっ?物凄い力が溢れてきました!?」

そう驚く彼女を横目に、俺は彼女のステータスを確認した。


名前 葉月朔夜

役職 探し人

レベル23

クラス 侍

クラス特性 一騎討ち

聖装 「十六夜」

聖装特性 「十六夜フ月」

武器 南十字大剣サザンクロス

ステータス(「十六夜フ月」効果発動中)

生命 13800(600)→41400

魔力 18400(800)→55200

筋力 27600(1200)→82800(+1500)

耐久 13800(600)→41400(+1000)

瞬発 13800(600)→41400

総合能力 87400→262200(+2500)

合計成長値3800

固有スキル

月纒

スキル

直感レベル3

刀術レベル3

魔法剣レベル1

火魔法(弱)レベル1

水魔法レベル2

派生スキル

構えレベル4

抜刀レベル4

居合いレベル3


ふえぇぇぇぇぇぇん。ついに魔力も越えられたよぉぉぉ。

まぁ、分かってた事ではあるがな。

それより、その大剣握りしめるの止めてくれ。怖い。

検証は概ね成功。ただ、今の葉月は刀スキル以外近接武器スキルは持ってないから、普通に刀使った方が強いんだけどな。

あ、俺の方でも聖装着てみたんだが、特に何も無かった。ゲーム中、聖装を使うには聖神から認められる必要があるとか言ってた気もするし、おそらくそれだろう。

あぁ、因みに、聖装がちゃんと機能するか試す為とか言ってあの後葉月に水着だったり寝巻きだったりを着せて楽しんだ。

非常に良い物を見た。特に水着。

VRで見るのと現実で見るのでは、あれだね、やっぱり違うよね。何と言うか、質感が。

非常に素晴らしかったよ。流石星六聖装。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る