第80話 降りし厄災の八柱

「…ねぇ、今の」

俺が全く予想外な新たな悩みの種に頭を抱えてからしばらく、俺とレイラは歓談の時間を過を過ご皮肉の押収をしていた。

そんな時に、ふとレイラの口が止まる。

何を言いたいかは、俺にも分かった。

「結界だな」

それもかなり広範囲な。

しかも対神やその眷属などに範囲を絞っている。

こんなもの、張れるのはこの島国に一人だけだ。

「こっちも忙しい、ってのはこれだったか」

天皇陛下。

おそらく、今の首都はかなりの厳戒体制が敷かれているのでは無かろうか。

(海嘯神将対策か?)

あずまは、島国なので当然ながら回りを海が囲んでいる。

訳だから、ゲーム内でも東回り、と言うか海全体に頭おかしい数のモンスターが配置されてて泳いだ時は乾いた笑いが出た。

まぁその後餌にされた訳だが。

兎も角、聖なる神と希望の王では、海嘯神将を倒すゲーム終盤まで海に出ることは出来ない。

海嘯神将の配下に囲まれていたであろうゲームのあずまが、その原型を留めていた事に疑問があったが、合点が行った。

あの陛下が直々に結界を張ったならそら数ヶ月位耐えられるわな。

……まぁ、だからこそ、その結界で全ての力を使い果たして、政治的な頂点にしてこの国の絶対守護者たる陛下を失ったゲーム中の東の国は滅び行く運命になったのだろう。

「邪神と配下への対策かしら」

どうやら、レイラも同じような結論に至ったらしい。

「東の大地とその他神格との。確かに、これだったら本土への被害は薄いでしょうが、水産業生業にしてる街はどうするのかしら」

心配と言うよりは興味が強い声音で、レイラがそう言った、その直後。

グラリ

身体の軸がズレた。

いや、これは。

地面が揺れている。

「何!?」

レイラが驚愕する。

(地震か?)

「なんかに掴まれ。頭を隠せ」

最低限、それだけの指示を飛ばし、机の下に潜り足を掴む。

「チッ、結構揺れ──」

想定よりも長い時間揺れている事に悪態を吐こうとした瞬間、その言葉は止まった。

HP

【大河の神 八岐大蛇ヤマタノオロチ

出現した災厄は、全く、予想外のものだった。


◆◆◆


───大戸港・大名の城、大広間

大名やその側近、護衛が唖然とする中で、ステラだけは冷静に天より降りし八頭やつがしらを見つめていた。

(存在規模がかなり大きい…これは、使わせて貰いますよ、欠月様)

東に来る前に欠月より渡された、そのアイテムを、ステラは懐より取り出した。

明らかに怪しいその所作を注意する者はいない。

皆一様に天から降った厄災に釘付けのようだ。

装備変更アイテムコンバート

欠月より言い渡されたキーワードを呟くと、ステラの全身が光に包まれ、その装束が変化した。

白を貴重として、青と金色の模様があしらわれたその司祭服は、彼女本来の神秘性を更に際立たせる。

「なっ」

家来の一人が息を飲む。

「長政様、見ての通り最早貴殿方と交渉をしている時間の余裕がありません。私がこの都市に結界を張ります。……それと、必ず私の仲間達が空の厄災を倒しにこの地へ訪れます。その時の為に、どうか戦力の温存を」

言いたい事の全てを言い終えたステラは術の準備に入る。

「この地の神よ、そして我が神よ───あなたの民を、この星の民を御守り下さい」

祝詞を呟き、ステラの体を白柱が覆う。

神性複合大結界。

白き光が、港を包んだ。


◆◆◆


「あっ…れは……」

他の者達が驚愕と恐怖で絶句するなか、唯一人、朔夜は頭を金槌で打たれたような衝撃を受けていた。

それは、遥か昔の、そう、晦日と野を駆け回っていた時の、なぜ今の今まで忘れていたのかと自身に問いたくなるような、そんな、思い出トラウマの怪物だ。

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