第79話 旧世界
仮に、その場所を表すならば、世紀末や終末と言うような言葉が合っているのだろう。
荒廃した街。
手入れされずに廃れきったビル群は、かつての隆盛を物語るように建ち並ぶ。
そんな灰色の世界で、唯二人、意思をもつ存在がいた。
尤も、その内の一人は、虚ろな目をして立っているだけだが。
「うーん、やっぱ味は劣るわね」
それとは対照的に、白銀の髪に何処までも深い青色の眼を持った少女は、楽しそうに自身の入れた紅茶と、かつての従者が入れてくれた最早記憶の奥底にしか存在しない茶を比べて笑う。
「不味いと言う程でも無いけど」
そう言って茶を飲みきり、次はどんな暇潰しをしようかと思考し出す。
これが彼女の日常だ。
かつては世界の存亡をかけて仲間と共に戦ったこともあったが、今やその世界は滅んでいるし、自身が滅ぶとアレを抑えられる者が居なくなるので滅ぶ訳にもいかない。
なので、彼女は全力で世界を楽しむと決めたのだ。
故に、彼女の回りは全て彼女のハンドメイド品で埋め尽くされていた。
「んー隠れ家作りは楽しかったけど、これでほぼ完成しちゃったし、次は何しようかしら?」
そう言えば、演奏など、かつては得意だった。
「楽器作りましょうかね」
そんな結論に達しつつ、彼女は隠れ家を出て木材を探す。
「とは言え、どうやって作るかなんて知らないし……」
そんな彼女が足を運んだのは、ショッピングモールだった。
「あ、これ良い感じね」
角材を物色しつつ、モールに配置されたピアノを探す。
「あったあった。…じゃ、分解しますかね!」
そう言って、軽々とピアノを持ち上げその上に角材やら途中で見つけた面白そうな本を乗せ、再び隠れ家へと帰る。
そうして、先ずはピアノを作るべく、試行錯誤を繰り返していたある日の出来事だ。
「ん?」
大気がどよめいている。
回りの小物やタンスが小刻みに震えだした。
「外で何かあったのかしら?」
ここ数百年は反応が無かった彼が、いきなりこのような反応を示すとは。
「一応、防護かけときましょ」
時間はいくらでもあるとは言え、せっかく作った物を消されては堪らない。
「さぁて、何が起こっているのやら」
白髪の少女は、そう言って無機質な青年の方を向く。
タン、タン、タン。
軽やかな音がして、少女の躯体は驚くべき速さで青年の下までたどり着く。
「何があったの?」
世間話でも始めるかのような語調の軽さで聞く少女に、青年は何の反応も示さない。
「うーん、どうしたものかしらね」
そう頭を悩ませた、その時、周りを囲む摩天楼の一切が姿を消した。
「ん?」
しばらく見られ無かった世界の変化に、少女は少し嫌な気配を感じつつ観察を続ける。
一面が平地となった世界に次に待っていたのは崩壊だった。
尤も、彼女の隠れ家は防護が掛けられているため不動だが。
そうして、世界は再び構成される。
「へぇ…これは」
かつて一度少女が訪れた地であり、少女にとっての死地であり、彼にとっての離別の場。
そこを懐かしく思いつつ、どうやらまた一波乱起きそうだとため息を吐く。
「貴方がこんな物を作るなんて、そう。居るのね、外に。特異点か、それに類する者が」
【暴食】が雄叫びを上げ、【破壊】が蠢き、【創造】が罠を張る。
そうして【原典】は見定める。
「うん、何か楽しそう」
数百、数千、数億年も変化の無かったこの状況に終止符が打たれるかと思うと少し、いやかなり気分が高揚する。
「きっと、まだ見ぬ貴方が面白い人であることを願うわ」
そんな些細な希望を胸に、【原典】は待つ。
申し訳ございません(土下座)
一ヶ月も待たせた上にこんなよく分からん話で。
細くしておきますと、「旧き者」関連のお話しです。
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