第81話 自己解釈違い

「こっちです!晦日!」

黒髪の幼子が、彼女の妹らしき黒髪の幼子に呼び掛ける。

「まって下さい!あねうえ!」

そこそこの大きさの岩を軽々と飛び渡り、姉の元へと一直線に向かう少女。

「はやくいきましょう!秀典わかくんとえいちゃんがまってます!」

木刀を四本ほど背負い、岩を伝いながら目的地ひみつの場所へと向かって行く。

「えーいちゃーん!」

朔夜が川辺の方へ叫ぶ。

「おまたせしました!」

晦日がそれに続き、まだ少し遠くのその場所を見た。

「遅い」

そう一言呟かれ、川辺の大岩の影から一人の少女がひょっこりと現れた。

「す、すみません」

あわあわと申し訳無さそうに頭を下げる晦日。

「許して!今日は持ってきたから!」

自信満々に四本の木刀を付き出す朔夜。

「りょうかい。見られたらまずい。早くはいって」

納得した様子の少女は、二人を中に入れた。

「さ、朔夜!これ、とはまさか!」

少し興奮した様子で中から現れた少年は、朔夜の手に持つものを確かに確認して、破顔した。

「やったー!!ありがとう朔夜!」

「わか、危ないものだから気を付けて」

練習用の木刀ではあれど、それらの持つ殺傷能力は馬鹿に出来ない。

一応の注意はするが、結局のところ自分も交ざるのがこの少女だ。

あるいは、行き過ぎ無いように幼子達を適度な所で制御しているのかも知れないが──いや、そう無いだろう。

「早くやろう。脱走したのが気づかれるまえに」

大概、この少女もワクワクしていた。


◆◆◆


「それじゃあ、私達は帰りますよ、若」

半刻一時間程過ぎて、影がそう言った。

「もう?」

悲しそうに顔をしかめる。

「バレたら、もうこれなくなる」

「うん、分かってる。じゃあね、朔夜、晦日」

影が控え目に、秀典が大きく手を振って遠くの方へと去っていく。

こちらも負けじと手を振り返す二人の少女。

「どうします?あねうえ」

「修行ついでに遠回りして帰りましょう!」

「分かりました!」

少女達は、自らに課せられる事になる過酷な運命など知りもせず山を、川を、野を駆ける。

あまりにも綺麗で、あまりにも残酷な記憶罪の証明

私は、あの時確かに失った。

あの時、手を掴めなかった、守れなかった。

最愛の妹が大蛇の毒牙にかかるその最中にあって、何も出来なかった。

『お前のせいだ』

分かっている。

、お前が守れていれば晦日ワタシはこうはならなかった』

分かっている。

『それを、何故お前は忘れて、『妹の為に頑張る自分』に酔っている?』

あぁ、分かっているとも。

そんな事は。

認めよう。

私は確かに逃げたのだ。

あの日の出来事から。

自責から。

晦日から。

この地にあったあの日の全てから、私は逃げたのだ。

(あぁ、ダメだな)

こんな私ではまた彼に怒られてしまう。

『解釈違いだ!』

と。

私を、いや、晦日をもきっと救うあの青年に。

(ならば、)

こんな所で、くよくよしている暇はない。

「今度こそ、救う。広い集めよう。私がこの地に棄てた全てを」

『何を、勝手に──っ!!』

晦日を名乗るその者が憤怒に顔を歪め、怒鳴る。

「違うな。お前は晦日ではない。あの子は決して、私を、誰かを責めて当たるような子ではない。……お前は、私自身だ」

(全く、どこまでも醜いな。私は)

「晦日を救う為にも、そろそろ向かわなければならない。そこを退け、私よ」

『……今度こそ、救えよ』

酷く顔を歪めて、きっと、万感の思いを込めて呟かれたその一言に頷いて───


◆◆◆


「大丈夫か、朔夜」

目を覚ますと、そこには欠月の顔があった。

「はい、どの程度眠っていましたか?」

「一分弱。レイラ達は俺と爺さんと葉月妹残して大戸港の方にいった。今から行けば追い付くぞ」

「分かりました。行って参ります」

手を借りながら体を起こしつつ、彼の顔を見た。

「?なんだ」

怪訝そうに尋ねてくる。

「いえ、頼みます。私の妹を、どうか」

「頼む、じゃねぇよ。お前も一緒に救うんだ。幸い、呪いの元凶が出てきてくれたしな。これでわざわざ呼ばなくてよくなった。好都合ではねぇが、元より万全の準備なんざ出来るとも思ってねぇし」

「ふふっ。確かに、万全などそうそう出来るものでもありません……欠月殿、倒しましょう。絶対に」

「あぁ、先行ってくれ。俺も後を追う」


◆◆◆


「おいおい、何か蛇出てきたって!」

葉月邸の近くの森の木の上にて弁当を食べていた朧が大戸港上空に出現したそれを見て米を吹き出した。

「さっきから通信も悪いし、何なんだいったい?」

そう愚痴っていると視界の端を影が掠めた。

「なんだありゃア?」

しばらく観察して、

「忍者か?」

その結論を出す。

「んぉ?あれ、北欧感強ぇな。……あぁ、例の北欧世界の…しっかし、こんな所で何やってんのかね」

気になるから着いていくか……と、闖入者は動き出した。







ちなみに、神の呪いにかからなくても朔夜は『異才』、晦日は『天才』で、評価されるのは晦日の方なのでそれはそれで晦日がめんどくせぇ曇り方する。

けど朔夜は別に自分が評価されなくても晦日は評価されてるしもう自分は必要ないな、よし、自分は自分の道行けばいいや、の精神になる。

なのでこいつらがめんどくさい事になるのはもう運命です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る