第40話 死よ、恐れることなかれ

memento mori.死を忘れることなかれ。

その警句を最も心に刻まなければいけないは、ついぞそれを憶うことは無かった。


◆◆◆


「今度は、近距離戦と洒落混みますかね」

新たに出した黎明の杖を手に、ゆっくりと黒葬へと近づく欠月。

「フッ小生意気な餓鬼よ。しかし、死の大地我が領域に土足で踏み込む度胸は認めよう。精々オレを興じさせろよ」

「るっせーな。支配者気取りか?テメェも踊れクソ道化」

ゆっくりと歩いていた足を止めて、黒葬へと雷を纏って疾駆する。

「ふん!吠えるなよ下郎!」

手元、足下、あるいは胴から、数百を優に越える数の黒い鞭と、その間を補うように黒い霧が出ている。

「はっ!おせぇ」

しかし、今の雷を纏った欠月に言わせて見ればそれは鈍速も良いところだった。

(最速で斬って囲まれる前に戻る!)

「ふん、斬って逃げる算段か、甘いな」

黒葬がそう言った直後、景色が一変する。

(───飲まれたか)

別の空間に転移した感覚。

このダンジョンに入った時に酷似している。

「ようこそ、オレの領域へ。歓迎しよう」

それは、荒野。

そして、あるいは剣の丘。

(無限の剣製アンリミ〇ッド・ブレイ〇ワーク〇……?)

「違う」

何事か、黒葬が不満そうに断言した。

「断じて違う。これは、貴様の言う無限の剣製とやらではない」

「……心、読まれてるのか」

「自明だな。此処はオレの世界。天地開闢から此処に在る全てが、終焉の理オレの産物だ」

「……なるほど、そうきたか」

「そしてこの武器の骸はかつて終焉オレの前に散った英勇達の魂よ。

───近接戦?それも良いだろう。亡き英勇達の乱舞を乗り越えたならばな」

その声と共に、欠月の回りに死んだように突き刺さっていた武器達が浮いた。

「───下らん。冷めた」

それを凍てつく瞳で一瞥し、黒葬を睨む。

「悪趣味、と言うのはこの際どうでも良い。だがな、理と言うのであればこの程度を誇るなよ。小物臭が拭えてないぞ」

「ふっ、そう言う事は、全てを突破してから言うが良い」

剣が、斧が、槍が、欠月を殺せと飛んでくる。

それを、欠月はどこか他人事のように見ていた。

「あぁ、舐められたものだ」

そこは、魂が近い場所だったからか。

その原因は解らない。

しかし、確かな事が一つだけ。

そこにいるのは、転生者「欠月」ではなく────

「全てひれ伏せ、凡愚共」

それは、誰とも解らぬ何者か。

「───む?」

黒葬が疑問の声を上げたのはなぜか?

それは、自らの指揮下にある武器英勇達が静止したからだ。

「記録程度で、この俺をどうにか出来訳が無いだろう」

ピシッ

そんなを最初に上げたのは、どれだったか。

しかし、結果として、まばたき一つせぬ間に、すべての英勇武器達は破壊された。

「貴様、何者だ?」

ここで、ようやく黒葬は事態の異常を察知した。

明らかに、先程まで目の前にいた小僧ではない。

なんだ?

あれは?

見覚えはある。

何か、重大な何かだ。

「……俺のを邪魔した罪は重いぞ。─────終焉の理よ、精々恐れてくれるなよ?」

欠月の中の何者かは、静かにそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る