第52話 大戸港

「お、稲作だ」

大戸港までの道すがら、欠月はかつての故郷に良く似たその光景に思わず言葉がこぼれた。

「知っているのですか?」

大陸ではあまり有名ではない稲作文化を知っている事に葉月が意外そう欠月を見た。

「おう。うまいよな、玄米」

味だけなら白米だが、栄養などを考えれば玄米の方が好みだ。

「げんまい?何よそれ?」

レイラが興味深げに周囲の畑を見回す。

「穀物だよ。大体何でも合う。北欧お前らで言うところのパンとかジャガイモとかだ」

「あー、万能食材」

レイラは納得したように頷いた。

「お米…かなり昔に東の国の商人さんから買った事がありますが、腹持ちの良い食事でしたね」

ステラが昔を思い出しながらそう言う。

「腹持ちも確かに良いが、それ以上に東の国本場の米は美味いぜぇ?」

なんてったってこのゲームの運営、「この時代背景でこの場所でこれ出来るわけねぇだろ」みたいなのの常習犯だからな。普通に現代の料理とかあるし。

米が美味いってかそもそも料理が美味い。

え?大陸の料理?

フランス行ったこと無い奴が偏見だけでフランス料理再現した感じだよ。

つまりどういう事かって?

不味い。

口に合わん。

なぜ生焼け何だ……もっとちゃんと焼けよ……。

欠月の食の趣向はさておき、欠月達の後ろからぞろぞろと大戸港を目指しているであろう集団が迫っていた。

それに最初に気付いたのは葉月だ。

「欠月殿、後ろからそれなりに大規模な移動音がします。道の端に寄りましょう」

葉月の言葉に後ろを振り返りながら目を細める欠月達。

「おぉ、マジじゃん」

その一団の先頭が見えて、欠月が感心の声を上げた。

「良く気付きましたね……」

ステラはちょっと引いている。

「………」

レイラは少しだけ見つめた後、その集団興味無いとばかりに再び前を向いた。

「何かすげぇ豪華だな。お偉いさんでもいんのかねぇ」

少し道の端に寄り、再び歩を進める欠月一行。

しばらくすると、後方から気配が近寄ってきた。

「何だぁ?テメェ」

欠月は杖の先を向けつつ後ろを振り向いた。

彼の経験上、お偉いさんが彼と絡むとろくな事にならないのだ。

「っ!?…まさか、気付かれるとは…良い旅の仲間だね、葉月」

忍者のような格好をした娘が両手を上げながら葉月に声をかけた。

「貴女は!」

(こいつは……)

えい!?なぜ…いえ、そう言う事ですか……」

(犬山影……忍者の一族でゲーム終盤に参戦してくるキャラクター……その分キャラ性能は良いが…)

追加されるのが終盤という事情で、好感度が上がりやすく設定されている。いわゆるチョロいんである。逆に中盤最初や序盤にいるヒロインは割りと攻略がムズかったりする。

まぁ、だが終盤キャラなだけあって、キャラ性能は葉月達三大優遇魔法職や物理四天王には及ばない物の、探索においてはトップクラスの利便性を誇る。

物理火力に関しては少し不足気味だが、そもそも暗殺クリティカル狙いのビルド向きなので問題ない。

忍術とか言う詠唱時間をあまり必要としない魔術も使えるし、正直めちゃくちゃ便利だった。

「貴女がここにいると言う事は、あの一団はあの方が」

「ん。良く帰ったって。速く城行こってさ」

「えぇ、分かりました。また後で、と言っておいて下さい」

そのやり取りを終えた直後、影の足元より煙が出て、それと同時に影の気配が少し遠くへ移動する。

「……東には凄い使い手がいるんですね」

ステラが感心したように誰もいなくなったそこを見つめた。




流行り病でへばってました。

でも治ったから更新していくぜぇ!

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