第76話 十束剣
「それでは、行って参ります」
「「行ってらっしゃい(ませ)」」
道場の外で一対一をしていた俺達に挨拶をして、朝イチでステラが大名の城へと出発した。
そして、昼辺りだろうか?
レイラが帰って来た。
「貴方達、何
汗臭いからさっさと着替えろ、そんな風に顔をしかめる彼女の後ろには、大勢の影がついていた。
「どうやら、上手くいったようだな」
「当たり前よ。私を誰だと思ってるの?」
重畳、重畳。
「そろそろ止めるか、葉月」
楽しくて仕方がないと言う顔の彼女に水を指すのは気が引けるが、昨日の夜から貫徹だと流石に疲れた。
「えっ、はい」
そんな残念そうな顔するなって。
「後でレイラが相手してくれるから」
「言ってないわよ一言も」
あら残念。
◆◆◆
「ほんと、元気ねぇあの子」
レイラが連れてきた忍達と試合をする朔夜を見ながら、欠月のいれた茶を飲むレイラ。
「育ち盛りなんだよ。
廊下から歩いて来た欠月が、十束程の長さの剣、
「ババアって?ぶっ殺すわよ」
首だけ欠月の方を向き、睨む。
「違う違う。強さ的な意味での育ち盛りだよ!」
慌てて弁明しながら、来た要件を伝える。
「飯出来たから呼びに来た。アイツら止めてきて。俺は晦日さんの方に飯届けに行く」
「あの爺さんは?」
「食べねぇらしい」
何でも、俺との一戦以降修行時間を増やしているんだとか。
オーバーワークは逆効果のはずなんだが、あの爺さんは例外枠らしい。
やればやるだけ成果を出していくタイプの怪物だ。
そう言って、レイラに背を向けて歩く。
少し歩いて、その襖の前に来る。
よく考えたら、これ初対面じゃね?
キャラデザ初公開やぞ。
え待って、手拭かせて?
ふーふー。
「よしっ」
「お入りください」
バレテーラ。
ま、まぁ、初っぱな出鼻を挫かれたが、気にせず行こう。
「失礼します」
音を立てないようゆっくりと開ける。
「初めまして。話には聞いていますよ、欠月さん。私は葉月晦日です。よろしくお願いします」
病床に伏す少女は、いかにも薄幸そうな、今にも消えてしまいそうな美少女だ。
吹けば飛ぶ、と言う言葉がこれ程似合う人間もそういるまい。
何だろう、顔の基本造形は彼女に似ているが、更に幼い。
それと、朔夜とは違い眼が綺麗な緑色だ。
だが、少し隈がある。
あ、胸部装甲は姉とは真逆である。
おっと、寒気が。
「初めまして、アァー。君の姉やその友達から聞いてると思うが、欠月だ。ステラと同じ、君の医療者でもある。よろしく。それはそれとして、君食欲ある?」
「はい、最近は。ステラさんのお陰で」
そう言って微笑む晦日。
(最近は、ねぇ)
ステラから聞いた話ではあるが、彼女は生命そのものを喰われているそうだ。
ならば、生命維持の最たるものの食欲が消えかかっていてもおかしくは無かった。
「そうか。結構ガッツリ食える?それとも、お粥とかにしとく?」
「…もしかして、作られるのですか?」
「まぁ、そうだな。玄月さんにも任せて下さいって言ったし、俺が呼んだ
「いえ、そうではなく。流石に申し訳ないですよ。少しは動けますし、私が作ります」
そう言って起きようとする少女を片手でいさめる。
「やめとけ。治ったように思えるかも知れんが、貴女はまだ病人だ。無理はさせられん」
そう、彼女はまだ病人だ。
ステラの治療によってかなりのV字回復を見せたが、それでもまだ彼の神との縁と言う名の呪いは繋がったまま。
まだそうなっていないのは、恐らくあちら側の都合。
きっと、待っているのだ。
葉月晦日と言う命の
そして、それはまだなのだろう。
まぁ勿論、それ以外にもそこにある聖遺物や彼女自身の耐久性能、そしてステラによる聖なる神の魔法等々、色々摘み取れない理由はあるだろうが。
「それに、その霊物があるこの部屋から出ない方が良い」
この部屋に飾られている聖遺物に目を向ける。
「…?布都御魂、ですか?」
あの
「あぁ、うん。そう。あれが
にしても、布都御魂かぁ。
日本神話の
雷神にして剣の神、
晦日ちゃん、ゲームじゃ姿すら明らかにならなかったが、やっぱり姉共々厄ネタ抱えてるよねぇ?
名前も朔夜と晦日で、おそらく
朔夜、つまり「朔日の夜」とは新月の夜の事。
晦日は月の
どういう風に繋がるのかは分からないが、確実に何かあるのだろう。
これだけの情報じゃ何とも言えないな。
朔夜の月纒とか、多分そこら辺関連何だろうが。
「それじゃ、俺は飯作ってくるから。お粥食べれる?」
そうだ、本題それだった。
「えぇ、はい。すみません、本当に」
申し訳なさそうにする晦日。
「いいよ。俺が勝手にやってる事だ」
そう言って、俺は部屋を出た。
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