第102話 休日

「とは言えなぁ…休みって何すれば良いんだ?」

手配された宿のベッドに横たわり、独り言のように【原典】に話し掛ける。

『それは、貴方が決める事でしょう?まぁ、私の場合は自己研鑽に充ててたわね』

「何それ頭良さそう」

『まぁ、観光でもすれば?普通の休日ってそんなモンでしょう』

「……じゃあ、ステラ達でも誘って聖都観光でもするか?」

『聖女様がまともに聖都歩けると思う?』

確かに、彼女の顔は知られているだろうしな。

「……むぅ。じゃあ、一人観光でもするかぁ?」

つまらなそうに言って、気付く。

「いや、お前いるじゃん」

『まぁ、別に良いけど』

そう言って、【原典】は鞘を人体へと変形させる。

「こんなもん?」

この前の祝祭と同じ台詞で、その美しい少女は問う。

「なぁ、疑問なんだが」

「何?」

「なんでお前、容姿を反転させてんだ?」

以前、フロンに招待された空間で見た彼女は銀髪と碧眼だった。

しかし、今の彼女は黒髪に赤眼である。

「まぁ、一応、知り合い対策?」

「いねぇだろうよ」

「一応って言ってるでしょ」

そう言いながら、彼女はドアノブに手を掛けた。

「ささっと行かないと置いてくわよ」

「お前、実は自分が観光したいだけじゃないだろうな」

「ふふっ。どうでしょう?」

ゆっくりと身体を起こしながら、俺は彼女の後を追った。


◆◆◆


「目と心臓に悪いね」

目の前ではしゃぎながら骨付き肉を食べる美少女を見て、欠月はそう結論付けた。

「何よ、テンション上がるでしょう?本場の骨付き肉よ?」

どこで染まったんだそんなオタク文化カルチャーに。

「友人にいたのよ。そう言う趣味の奴がね」

毎度の事ながら、心を読むのはやめて欲しいモノだね。

そして、こいつに布教するってソイツヤバイな。

心臓剛毛過ぎるだろう、流石に。

「ちょっと、人を理解不能の怪物みたいに扱わないでくれない?ってか、貴方も同じ枠でしょう」

理外の者。

前世かつては、彼もそうだった。

その孤独かんかくが、染み付いて離れない。

だからそこ、彼女の事が少し羨ましいと思うこともある。

「……お前は、見つけられたんだろう?少なくとも、自分を恐れぬ対等な人間を」

自分は、自分を殺すことでしか、終ぞ成し得なかった。

「……はぁ」

物憂げに、彼女がため息を吐く。

「どうした?」

「いえ…何……どうして世界の男連中はこうも鈍感なのかしら……身に覚えがありすぎて笑えないわ……」

何かを思い出すように、彼女は身震いする。

「鈍感って何だよ。そりゃ、前世と比べたら落ちたが、それでも感知能力は比較的健在だぞ」

「……あぁっ!もうっ!」

そう言って、彼女はもう片手に持っていた別の骨付き肉を俺の口に突っ込んだ。

「むがっ!?ぷっは!何すんだ!」

喉に刺さり掛けたそれを引っ張りだしつつ、抗議の声を上げるが、当の彼女はもう数歩前まで移動していた。

「うっさいわね、このボンクラ!」

「ハァ!?どうしたんだよ、急にィ!」

「いいから行くわよ!こっからは八つ当たりのドカ食いよ!」

なんの八つ当たりだよ……と、文句を言いつつ、欠月はそれに従った。


◆◆◆


日が暮れるまで遊び尽くし、とある酒場にて休息をとる。

「ん~っ!まっずいわね!お酒って」

嬉しそうに【原典】が言った。

「えぇ…?美味そうに飲んでるのに……?」

「そういう気分なのよ」

ニヘラと笑いながら、彼女は言った。

「それに、あんまり好きじゃないのよね。自分だけ酔えないから」

「あぁ……分かるぅ」

周囲が宴に興じる中、自らは浴びる程飲んでも酔えない…と言うのは、かなり辛い。

まるで、自分だけが浮いているような気分になる。

「ちょっと、酔いすぎよ」

顔が赤くなり、言葉尻が曖昧になってきている欠月に、【原典】は水の入ったコップを差し出す。

「ワーッハッハッハッ!もっと骨のあるものはおらんのか!」

大声と共に、中身の入っていない酒瓶が欠月の背に飛んできた。

「……ハァ?」

【原典】が不快感に眉をひそめてゆっくりと、後ろを振り返る。

180を越える巨躯。

この都市では珍しい、褐色の肌。

そして何より、その禍々しい二本角。

腕相撲の相手であろう大男を吹き飛ばし、豪快に笑う竜人が、そこにいた。








あ、一応ですが、【原典】と欠月は互いに恋愛感情は皆無です。

どっちかと言うと、「こいつ面白れぇ~!」って矢印が双方向に向いてる。




お酒耐性

【原典】

酒上戸。

彼女を酔わせたくば、この世全ての酒を指す出す他ない。

※それでも酔うか分からない。


レイラ

強い。

人間の範囲は越えてる。


朔夜

そこそこ。

人間としては強い方。


晦日

病人定期。飲むな。


ステラ

解毒のが早いので酔わない。


欠月

下戸。


欠月(前世)

【原典】さんと似たようなもん。

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