第101話 帰参

「何?」

帝国の第二皇女ナフィアは、もたらされた報告に、一瞬耳を疑った。

「『聖者と聖女が帰ってきた』だと?」

その上、ナフィア……だけでなく、主要国家の要人達を招いている、と。

「ふむ…直ぐに向かおう。グリズリス将軍、しばらくの間を任せる」

「はっ。お任せください、殿下」

その返事を聞き届けると、ナフィアは立ち上がり、出立の用意を開始する。

(……さて、聖者殿は我々に何をもたらし、何を奪うのか、魅せて貰おうか)


◆◆◆


「聖者様、第二皇女様が到着なされました」

教会のシスターが大聖堂にいた欠月を呼びに来る。

「あぁ、直ぐいく」

包帯を巻き、見るからに軽傷ではないであろう身体に、礼服を纏った欠月が立ち上がり、呼びに来たシスターの方を見る。

「他のお偉方は?」

「既に会議室へと集合されています。それと、欠月様。そのような言い方はお控えください」

「分かってるよ。────ここが人類の分水嶺だ。気張っていこうか」

何故、欠月がこのような格好をしているのか、何故人類が分水嶺ターニングポイントを迎えているのか。

それは、おおよそ36時間前に遡る。


◆◆◆


「聖者様……お待ちしておりました」

突然の転移に、教皇は驚きつつも礼をとった。

「いや、そう言うのは良い…教皇殿、アイン王国はどうなった?」

欠月は東へと転移する前、教皇に複数の聖装を託し、それを然るべき者のところへと送らせていた。

そして、聖装の報酬として、聖装を送った者達にアイン王国回りの警備を頼んでいたのである。

これには、幾つか理由があるが、最たる理由は主人公であるアイン王国の第二王子の足取りが掴めなくなると困ると言うものだ。

安い出費では無かったが、敵方の初手を潰せると思えば安い。

そして、「教会の聖者」の名を売りたかったと言うのもあるが、それはあくまでもついで。

「凄惨な戦場だったと聞いています。教会の回復職ヒーラー達もかなりの数が未だにあの王国に留まっている。……これを。報告書です」

書類で山積みとなった机の上の資料から一部を引っ張りだし渡してきた。

(邪神が復活したと聞いて、もしやと思ったが……)

どうやら、王都アルテナの襲撃イベント……もといゲームのオープニングも、早まったようだ。

「聖装を渡した者達に死者は?」

「おりません」

「そう、か」

ページを捲り、目に入った死者数に下唇を噛みつつ、俺は次のページを捲った。

重傷者の一覧である。

「……」

その中には、俺が聖装を送った者の……つまり、プレイアブルキャラの名もあった。

「ステラはアイン王国に──レイラも護衛として、一緒に」

その言葉を、レイラが中断した。

「ちょっと待ちなさい」

レイラが資料を指差して、言う。

「いったんは終わってるんでしょう?」

指の先には、「戦線は一時終息」の文字があった。

「なら、急ぐことも無いわ。それに、神の復活ってのはそう単純じゃないの。器が復活してから……今の状況なら少なくとも二ヶ月は満足に力を振るえるまでは掛かる……手駒を減らすような事はしたく無いでしょうから、恐らく、次に大規模攻勢があるとすれば二ヶ月は先よ」

なるほど、確かに一利ある。

今回の奇襲に対するカウンターは、成果だけを見れば概ね上手くいったと言っても過言ではない。

敵軍……邪神配下の者共にも相当な損壊を与えられた。

それに比べれば、此方の死者数など微々たるモノだ。

何より、聖装の存在を相手に知らしめる事が出来た。

あれは、神代に造られた兵器だ。

その意味は、奴らが最も良く知っている。

女神の全盛期でさえ、恐らく俺が方々に配った聖装の半分の数も無かったはずだ。

邪神達が万全を期そうと言うのなら、確かに次の襲撃は二ヶ月後と言うレイラの予想は、概ね正しいのだろう。

「と言うか、もう一日ぐらいは休みなさい」

レイラが半眼になって言う。

「神との戦闘直後に、なんで次の神との戦闘を考えてんのよ。少しは休めって言ってるの」

「いや、しかしだな」

助力を求めてステラを見た。

「欠月様。私もそう思います。今、貴方は人類から見ても英雄を量産し得る重要人物。それが、今倒れられては困ります」

ステラも同意見のようだった。

まぁ、確かに聖装を出せるのは俺だけだ。

そして、四眷神将や邪神を打倒出来るとしたら、聖装を持った者達だけ。

ある種、人類にとって俺は生命線だ。

(仕方ない、か)

「分かった。休むよ」

そうして、欠月の休日が始まる。






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