第四章・上 双つ龍、邂逅す

新章開幕 第100話 聖女の視た夢・忌避すべき終端

龍炎が大地を呑み、大空を切り裂く。

空を覆い、それでいて尚余りある巨躯は、戦場に立つ人々に絶望を与えた。

「────灰に帰せ」

山とも見紛うその顎が動き、ただの一言で大気は震撼する。

龍が呼吸する。

(苦…っしい…)

周囲の酸素が消失した。

その、次の瞬間。

龍の喉の奥で、光がほのめいた。

赤は勿論、青すら超越し、物理空間それ自体を焼く龍炎が、解き放たれる。

終焉を誰もが想起し、そのままならば概ねはその想像通りになったのだろう。

けれど、そうはならない。

何故なら、そう。

「全く、妾に防御このような雑事を任せるなぞ、ウヌでも無ければ出来ぬぞ?感涙に咽び泣けよ、欠月人類

五彩の女帝が、さも当然のように終焉の前に立ちはだかる。

「いくらでも咽び泣くから、永遠に俺の壁役はってくんね?」

戦場に似合わぬ、ともすれば求愛プロポーズともとられかねない軽口を飛ばしつつ、彼は刀を抜いた。

「はっ。贅沢者め」

五彩の女帝は、龍炎の全てを受けきりつつ、それでいて冗談を言う余裕を魅せる。

「失礼な。こちとら持てる資源リソースで何とか遣り繰りしてる節約家だぜぇ?」

その言葉を、女帝は笑い飛ばす。

「はん!ウヌごとき凡夫が、神話この戦場の先頭に立ち、一番槍の栄誉を受けて尚、それ以上を望むか。ウヌ、贅沢者では無いな。───この、強欲者め」

龍炎の全てを呑んだ女帝は、『次』を示すように彼を見る。

「──あぁ、そうだな。俺は強欲だよ」

刀を構える。

「だから、テメェ位は、白龍」

雷神は、未だ訪れず、黒龍は地の底へと戻ったままだ。

最低、白龍あれを。

それが現状の人類が勝つ、最後の勝機。

「────

八首の神にすら使わなかった、秘奥中の秘奥。

絶対破壊の雷霆が、今、二柱目の雷神を降臨させようとしていた。


◆◆◆


「■■さん」

女が微笑んだ。

まるで、その男を想うように。

「■■殿!」

女が笑いかけた。

まるで、その男を元気付けるように。

「■■」

女が言った。

まるで、その男を諭すように。

しかし、いずれの未来も、両立することはなく。

その世界には、

他の誰も、見当たらない。

そんな、世界ならば。

「いらない」

「俺が望むのは、最初からたった一つ。一点の、曇りなきハッピーエンドだ」

だから、弱者は天秤に己を掛ける。

破格に過ぎる等価交換は、成立した。

してしまった。


◆◆◆


「また、あの夢を」

聖女は目を覚ます。

「欠月様、貴方は、何故…」

この目は、全てを見せてはくれぬのだ。











未来視

過去視、現在視、未来視。

三つに別たれし万理の輪が有したその能力は、未来視のみが未知数を予期するものだ。

視る未来は、所有者の意思と現在の状況によって変わる。

「運命の絶対性なぞ、決して担保される事は無いだろう」

【忘却】の守護者は、かつて、「世界との戦い」で、そう言った。





補足です。

50話の聖女の視た夢が現実に起きなかったのは、あの夢がステラが欠月と関わっていない時であり、あの夢によって欠月とステラの運命は交わり、未来は少しだけ改編されました。

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