第103話 誘い
「ワーッハッハッハ!!」
豪快な笑い声と共に、大男が飛ばされる。
見るものに恐れを感じさせる黒き角に頬の一部には角と同様に黒き鱗。
褐色の肌にこの地では珍しい黒髪黒目。
加えて、180は越えるであろう巨躯。
不快そうな【原典】の声が聞こえて、身体を起こし振り返った先には、そんな女がいた。
(間違いねぇ……あれは)
「
一瞬で、血の気が引く。
と共に、酔いが冷めた。
(おい待て、おかしい)
【黒】だと?
久しぶりのガチ休みに息抜きの為聖都観光してたはずなんだが、どうしてこうもピンポイントで厄ネタに当たるかね?
【全彩の龍王】でさえ、【赤】【青】【黄】【緑】【紫】だけだったぞ?
なぜ俺がここまで困惑しているのか。
それを説明するにはゲームにおける龍人の扱いを説明しなければならない。
まず、通常のストーリーで龍人なる存在が出てくる事はない。
精々、ハッピーエンドのルート……つまり、邪神を完全に討伐するルートに少し名前が出る程度だった。
しかし、とある期間限定イベントにて、その扱いは大きく変わる。
その名は、
そのイベントにて、龍人の秘密が明かされる。
そのイベントについての説明は後に回すが、簡単に言ってしまえば、彼ら龍人は「龍」が最後の抵抗として、己の命を糧に創造した種族なのだ。
だから、まだ生きているはずの黒龍の……「黒の龍人」なぞ、存在して良いわけがない。
加えて、あのイベントには全ての龍の力を有する「全彩の龍王」がいる。
かの王さえも、「黒」と「白」は、保有していなかった。
「ちょっと貴女方」
【原典】が、彼女らに声をかけた。
「騒ぐのは結構だけど、外でやってくださる?」
冷笑を絶やさず、【原典】が言う。
(えっ………やば、どうしようこれ)
未知数である黒の龍人。
もし、あれが黒龍と同様の思考回路をする類いの者……つまりは、戦闘狂だったなら、間違いなく街中でも戦闘になる。
しかし、ここで【原典】を止めるのも、それはそれで悪手だ。
状況的に、間違いなく彼女の方が正しい。
酒場は暴れる場所ではない。
連れが害を加えられて憤るのは、ごく自然のことだ。
「ふむ……なるほど。どうやら迷惑をかけてしまったようだな。お嬢さん、すまないね。謝罪するよ」
長身の女は、ギザ歯を覗かせて微笑んだ。
「さて、君たち、立ちたまえ。続きは……そうだな。壁外でやろう。そこならば、誰にも迷惑はかからん」
(……は?)
妙に理性的なその女は、彼女を見つめる複数人の男達に向けて言った。
(は?いや、え?)
龍人は、基本その源流となった龍に性質が寄る。
黒龍の龍人とあらば、その性質は間違いなく闘争本能丸出しのバトルジャンキーであり、到底社会生物とは言えない社不っぷりを発揮してなんぼのはずだ。
「……【原典】」
龍人のいなくなった酒場で、俺は【原典】に声をかける。
「追うぞ」
「了解」
予期していたかのように【原典】はノータイムで返事を返した。
◆◆◆
まず路地裏へ行き、【原典】を刀へと戻らせる。
尾行は人数が少ない方がやりやすいからな。
「……普通に壁外に向かってる?」
『ルート的には、そうね』
意外なことに、龍人は男達を引き連れ、街の外へと向かっていた。
「……俺達には気付いてるよな」
『でしょうね』
気が付かない訳がない、か。
『外出たわよ』
【原典】の言葉で、考えを中断し再び龍人の方を見る。
『「!」』
(目が、合った)
やっぱり、気付かれてら。
「仕方ねぇ……」
業腹ではあるが、奴の誘いに……
『乗るの?』
「しか無いだろ。正直、街中でやられるより全然マシだ」
はぁ、とため息を吐きながら、欠月は龍人達の後を追った。
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